悠人:迷宮脱出
霊であれば、階段を一歩一歩昇る必要はない。けれど、子供たちはそうじゃない。
これがゲームなら、どこかにエレベーターがあって、すーっと一気に地上まで上がれるかもしれない。が、現実は甘くない。
聖域から地上へと続く螺旋階段は、ところどころ踊り場のような場所があり、マイルズとアリシアはそこで休憩しながら地上を目指した。
分体と融合した俺は、迷宮の秘密を知った。迷宮――かつての浄化炉は、いわば下水処理施設、空気清浄機なんだな。今のところは動いているけれど、随分と埃(魔獣)が溜まっていると。
ちびエルは、大陸のあちこちに迷宮があると言っていたが、こりゃ一度全面的に魔獣を討伐しないと、浄化システムが不具合を起こすんじゃないだろうか。一番良いのは、大元を始末することだが。
「ならば、人数を集めて怪物とやらを、封印ではなく消滅させに行くか?」
物騒だな、ルーは。マイルズの安全が確保されない限り、俺自身はそんなことをしようとは思わないね。ルーだって同じだろう?
「そうだな。アリシアが一番大切だ」
そうだ。彼らの安全のためには、地上に出た後のことも考えなくちゃいけない。何しろ相手は、この国の王子だ。軍を動かすことも簡単だろう。俺たちが生きていると分かれば、確実に抹殺に来る。対抗できるか?
「ヴァンオーグ領か、ヴァンダイン領に逃げるか?」
「それぞれの親が、話を信じてくれるかどうかだなぁ。マイルズの父親は息子を信じてくれそうだが、そっちはどうだい、ルー?!」
「こっちは……まぁ、信じるとは思うがね。人目につかない屋敷の億に閉じ込めて、一生外に出さない、くらいのことはやりそうな気がするよ」
なら、ヴァンダイン領の方だな。その前に、ゴースには一連の経緯を話しておきたい。あのカゾススと名乗った霊のことが、とても気になる。悪い予感しかしない。そのためには、俺だけでも一度王都に戻るか。
「ルーからアリシアに、ヴァンダイン領に向かってくれるよう伝えてくれるか?」
「それなんだが……」
ルーは、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「だんだん、交信がしにくくなっているんだ。地上に出たら、アリシアとは交信できなくなるかも知れない」
「それは、不味いな」
このまま外に出れば、彼らは王都に向かうだろう。どうにかして、マイルズたちをヴァンダイン伯爵領に向かわせないと。
「そうだ、エルに頼もう。おい、エル、ちびエル」
「ふにゃぁぁ~?」
杖から顔を出したちびエルは、眠そうに目を擦っていた。
「寝てたのかよ」
「ふわぁ~」
しょうがねぇな、と思いながら、ちびエルに俺の考えを伝えた。
「ん。あたしなら、漠然とした意思を伝えることができるから、それくらい朝飯前さぁ~」
ちびエルが、胸を張った。どうにもこの軽さが信用できん。信用できないが、うーむ、背に腹は代えられんか。もし、ルーとアリシアの交信が切れたら、ちびエルに頼むよ。
「まかしときっ!」
「ルー、とりあえず今のうちに今後の方針をアリシアに伝えておいてくれ」
「わかったわ」
※
メンテナンスハッチは、大きな岩の陰に設置されていた。二人が外に出て扉を閉じると、そこに入り口があることはまったく分からない。古の技術恐るべし。
「やっぱり、地上に出たらアリシアとの交信ができなくなったわ」
「そうか、ちびエル、頼むぞ」
「はぁ~い、い、いいいっ、あ~れ~っ」
杖から出てきたちびエルは、そのまま上空へと飛んでいった。叫び声を残して、どこかへ消えてしまった。どーすんの、これ。
仕方ない。時々は意思の疎通も(なんとなくだけど)できていたんだ。試してみる価値はある。しかし、俺の計画はもろくも崩れ去る。
『マイルズ。私はご先祖様から君の父上の領地へ向かうよう言われた。しかし、私はどうしても殿下の真意を確認したいと思っている。なので、私は王都へと戻る。君は父上の元に向かってくれ』
何言い出すんだ、アリシア。おい、ルーなんとかして止めろ。
『アルさん。ボクも一緒に行きます。殿下がどうしてボクを殺そうとしたのか、それが知りたい。このまま実家に戻っても、謎が残ったままじゃいけないと思うんです』
おいおい、マイルズまで何を言い出すんだ。思い直せ。
『危険だぞ』「」
『えぇ、分かっています。でも、殿下も大勢の前でボクらを殺そうとはしないでしょ?』
『そうか……では、堂々と王都へ戻ろうか』
『はいっ!』
あぁ、やっぱり子供だ。相手は権力者だぞ。事実を隠蔽することだって、たやすいだろうに。くそ、もっとしっかり注意しておくべきだったか。
だが、しかたない。こうなれば、彼らが生き残る道を見つけなければ。
「おい、ハルト。不味いことになった」
周辺の様子を偵察に行っていたルーが、悪い報せを持ってきた。減っていたはずの魔獣が、また増えているそうだ。できるだけ魔獣に遭遇しないように、なんとか二人を誘導しないと。こりゃ、どちらかが王都へ報せに飛ぶ、というのも無理そうだなぁ。
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