マイルズ:守護霊を知る
“聖域”には、水も食べものもあった。ボクらはとりあえず、湧き水で喉の渇きを癒やし、果物で空腹を満たした。迷宮の中にあって、ここは光が満ちあふれた場所だった。魔獣もいない。安心したボクたちは、ちょうど良い具合に育っていた草の上で眠った。
起きた時には、身も心もすっきりしていた。
「しかし、迷宮の中にこんな場所があるなんて」
アルベルトさんも知らなかったらしい。ボクもだけど。
「少年、私のことはアルと呼んでくれて良いよ」
「じゃぁ、ボクのことはマイルズと呼んでくれますか?」
「ふふ。そうだな。少年と呼ぶのは失礼だったね」
アルベルトさん、じゃない、アルさんの笑顔を見ていると、なんだかドキドキしてしまう。なんか変だな、ボク。
今は、この迷宮から脱出することが最優先だ。折角辿り着いた“聖域”だけど、出発しなくちゃ。
「いや、その必要はないかもしれないよ、マイルズ」
アルさんは、ぼくよりも変なのかも知れない。
「そうだね、君も不思議に思っているだろうから、話しておこう。実はね、私は今、私の守護霊と交信しているのだよ」
「え?」
「あぁ、信じられないのも無理はない。私も最初は信じられなかった。でも、彼女たちはちゃんとここまで導いてくれただろう?」
たしかに、アルさんの言う通りだ。迷宮内で見せたアルさんの、まるで先を見通しているかのような不可思議な行動は、守護霊が教えてくれていたからなのか。
「じゃ、じゃぁ、杖が勝手に動いたのも?」
「うん、それは……聖女様の守護霊、の分体? というものらしい。いや、それ以上は聞かないでくれ、私にも分からない」
そうか、それで納得できる――ちょっと待って。
「あの、アルさん。もしかして、ボクが魔法を使えるようになったのも、守護霊のお陰なんでしょうか?」
「えぇと、ちょっと待って――そうらしいよ。君に守護霊が憑いた結果だって」
「ボクも、ボクの守護霊と交信できるのでしょうか?」
アルさんは、残念そうに首を横に振った。
「それは、ダメみたい。私の守護霊は、私の遠いご先祖さまなんだ。だから、こうして話を聞くことができるようだ」
それは、少し残念。ボクの守護霊は、どんな人物なんだろう?
※
「めんてなんすはっち?」
「私もよく分からない。ご先祖様も。えぇと、点検用の出入り口があるんだって」
「それは、どこに?」
アルさんは、蔓が生い茂っている壁を指さした。
「あの蔓に覆われた先にあるらしい。蔓は私が切り裂くとして、マイルズは食べものと、どうにかして水を持って行けないか、考えてくれ」
「分かりました」
ボクは、樹に
「ノウマク サンマンダ ボダナン、
風で刃を作り出し、植物を切り倒す。やっぱり中は中空だ。これなら水を入れて運ぶこともできるだろう。
集めた果物はマントで包んで背負い、植物の節で作った水筒を持ってアルさんのところに戻った。ちょうど、アルさんの仕事も終わったところのようだ。蔦が切り取られ、壁だと思っていた部分には切れ込みがあった。
「あぁ、こっちも終わったところだ。さぁ、君の杖を壁にかざしてみてくれ」
ボクが杖をかざすと、ゴゴゴと地鳴りのような音を立てて壁がゆっくりと動いた。音が止むと、そこには上に向かう螺旋階段があった。
「魔獣はいないと思うが、まだ先は長いようだ。迷宮の中を進むよりは短いけれどね。さぁ、行こうか」
アルさんが、躊躇いもなく階段に足を掛け昇っていく。ここで置いて行かれてはたまらない。ボクも急いで階段を昇った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます