マイルズ:守護霊を知る

 “聖域”には、水も食べものもあった。ボクらはとりあえず、湧き水で喉の渇きを癒やし、果物で空腹を満たした。迷宮の中にあって、ここは光が満ちあふれた場所だった。魔獣もいない。安心したボクたちは、ちょうど良い具合に育っていた草の上で眠った。


 起きた時には、身も心もすっきりしていた。


「しかし、迷宮の中にこんな場所があるなんて」


 アルベルトさんも知らなかったらしい。ボクもだけど。


「少年、私のことはアルと呼んでくれて良いよ」

「じゃぁ、ボクのことはマイルズと呼んでくれますか?」

「ふふ。そうだな。少年と呼ぶのは失礼だったね」


 アルベルトさん、じゃない、アルさんの笑顔を見ていると、なんだかドキドキしてしまう。なんか変だな、ボク。

 今は、この迷宮から脱出することが最優先だ。折角辿り着いた“聖域”だけど、出発しなくちゃ。


「いや、その必要はないかもしれないよ、マイルズ」


 アルさんは、ぼくよりも変なのかも知れない。


「そうだね、君も不思議に思っているだろうから、話しておこう。実はね、私は今、私の守護霊と交信しているのだよ」

「え?」

「あぁ、信じられないのも無理はない。私も最初は信じられなかった。でも、彼女たちはちゃんとここまで導いてくれただろう?」


 たしかに、アルさんの言う通りだ。迷宮内で見せたアルさんの、まるで先を見通しているかのような不可思議な行動は、守護霊が教えてくれていたからなのか。


「じゃ、じゃぁ、杖が勝手に動いたのも?」

「うん、それは……聖女様の守護霊、の分体? というものらしい。いや、それ以上は聞かないでくれ、私にも分からない」


 そうか、それで納得できる――ちょっと待って。


「あの、アルさん。もしかして、ボクが魔法を使えるようになったのも、守護霊のお陰なんでしょうか?」

「えぇと、ちょっと待って――そうらしいよ。君に守護霊が憑いた結果だって」

「ボクも、ボクの守護霊と交信できるのでしょうか?」


 アルさんは、残念そうに首を横に振った。


「それは、ダメみたい。私の守護霊は、私の遠いご先祖さまなんだ。だから、こうして話を聞くことができるようだ」


 それは、少し残念。ボクの守護霊は、どんな人物なんだろう?

 


「めんてなんすはっち?」

「私もよく分からない。ご先祖様も。えぇと、点検用の出入り口があるんだって」

「それは、どこに?」


 アルさんは、蔓が生い茂っている壁を指さした。


「あの蔓に覆われた先にあるらしい。蔓は私が切り裂くとして、マイルズは食べものと、どうにかして水を持って行けないか、考えてくれ」

「分かりました」


 ボクは、樹にっている果物を集めながら、何か水筒に仕えるものがないか探した。うん、節があるあの植物の茎が使えそうだ。


「ノウマク サンマンダ ボダナン、風牙一閃ふうがいっせん


 風で刃を作り出し、植物を切り倒す。やっぱり中は中空だ。これなら水を入れて運ぶこともできるだろう。


 集めた果物はマントで包んで背負い、植物の節で作った水筒を持ってアルさんのところに戻った。ちょうど、アルさんの仕事も終わったところのようだ。蔦が切り取られ、壁だと思っていた部分には切れ込みがあった。


「あぁ、こっちも終わったところだ。さぁ、君の杖を壁にかざしてみてくれ」


 ボクが杖をかざすと、ゴゴゴと地鳴りのような音を立てて壁がゆっくりと動いた。音が止むと、そこには上に向かう螺旋階段があった。


「魔獣はいないと思うが、まだ先は長いようだ。迷宮の中を進むよりは短いけれどね。さぁ、行こうか」


 アルさんが、躊躇いもなく階段に足を掛け昇っていく。ここで置いて行かれてはたまらない。ボクも急いで階段を昇った。


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