悠人:魔女邂逅
生前の俺は、“教会”って奴と相性が悪かった。
だってあいつら、すぐ「悪魔祓いだ!」とかいって問答無用だったからなぁ。そもそも一神教は頑固なんだよ。まぁ、あっちからすれば、仏も神も一緒くたの日本って国が理解しにくいってのもあんだろうけど。そんな訳で、
マイルズ(と俺)、グラスゴー老師(とゴース)は連れだって教会の門を潜った。生きている人間とゴースは問題なかったが、俺は結界を通るのに一苦労だ。ゴースが手助けしてくれなきゃ、外で待っていたかもしれない。
結界はひとつじゃなく、聖女が待つという面会室(部屋というレベルの大きさじゃないが)に辿り着くまで、合計五重の結界をくぐり抜けなければならなかった。
「面倒だなぁ、結界って奴は」
現世では、自ら結界を張ったことはあっても、こんな抵抗を受けたことはなかったからね。
「そもそも結界は、悪霊の類いを寄せ付けないためのものじゃからな。我ら霊体に対しても有効じゃ。それにのぉ、許された者と一緒でなければ、儂らだけでなくバランやマイルズも結界内に入ることもできん。特に、
バランって誰だ? あぁ、グラスゴー老師のことか。
しかしなぁ、呼び出したのは教会の方なんだから、少しは配慮して欲しかった。教会なら霊に対する礼儀があっても。いかん、親父ギャグみたいになった。
まぁ、呼ばれたのはマイルズであって俺じゃないから、文句も言えないけどな。
『はじめまして。ルシアと申します』
聖女と紹介された少女は、ルシアと名乗った。白い肌に銀色の髪、おまけに瞳まで銀色で、ちょっと人間離れしていた。こっちの世界でも、初めて見るな。銀色の瞳。
「うちのルシアちゃんを、そんなにジロジロみないでくれる?」
そう言って俺の前に立ち塞がったのは、ルシアの守護霊、エル。立ち塞がっても半透明だから意味ないんだが。それより、その格好なんとかならんのか。
「あら? 殿方には評判いいのに」
そりゃそうだ。露出狂かと思えるほど、布地が少ない衣装だ。俺も生前だったら喜んだろうよ。
「ハルト、気にするな。此奴の常套手段じゃ」
「あら、“此奴”なんてひどい。せめて、エルちゃんと呼んでよね」
「うるさいわい。この魔女め。どうしてお前のような魔女が、よりにもよって聖女様の守護霊なのか……」
ゴースの話によると、生前のエルは紛うことなき魔女だったらしい。人心を惑わせ、無益な戦いを引き起こしたり、快楽で身を滅ぼさせたり、好き勝手やりたい放題だったという。本人も否定していないから、本当のことなんだろう。
「贖罪よ、贖罪。ルシアちゃんを導くことで、罪を償っているのよ。それに
なるほど。ある意味、修行ってことか。
「格好といえば、あんたも変わった格好しているわね? どこの出身? 北方……には見えないわね。東方?」
「んなこたぁどうでもいいだろ。それより聖女はマイルズに何の用なんだ?」
今、彼らは椅子に座って話をしている。わがマイルズは、意外にも緊張したそぶりはない。さすが伯爵家の跡取り。十五のガキには思えん。
「ルシアちゃんも十五よ」
嘘だろ? 同い年か! マイルズも大きい方じゃないが、聖女はもっと幼く見える。ずっと教会の中で暮らしているからか。
話は、技能大会のことからニッケルの話になった。あぁ、御霊喰らいについてリサーチしているのか。わざわざ呼び出さなくても、誰か人をよこせば良かったのに。
「ルシアちゃんは、直接話を聞いて判断するタイプなのよ。でも、今回はルシアちゃんというより、私が会いたかった方が大きいわね」
「お前、聖女をコントロールできるのか!」
やっぱり魔女だな!
「違うわよ、ルシアちゃんは私の気持ちを、神の言葉として受け取ってくれるのよ。私は守護霊としてルシアちゃんが苦しんだり悲しんだりすることはさせられないし、彼女の心は清浄で慈しみに溢れているから、それに沿って導いているの。あの子と貴方を呼んだのも、ルシアちゃんのためなの」
話が見えん。なぜ、俺たちと会うことが聖女のためになる? 魔女エルは、俺たちの方を手で指し示しながら笑いかけてきた。
「貴方、いえ、貴方たちかな? 街で御霊喰らいを退治しているでしょ?」
実は、最初の遭遇からも何回か、あの黒い影――御霊喰らいには遭遇している。その都度、退治じゃなくて浄化している。別に隠すことじゃないから、素直に話した。
「やっぱり。その黒い影について、もっと詳しく知りたいのよ。ルシアちゃんが、御霊喰らい退治にかり出されそうなんで」
そういうことならと、俺は覚えていることをエルに話した。時々、ゴースが補足してくれて助かる。
「ふぅん……分体じゃ、いくつ退治しても意味ないわね。本体に心当たりある?」
「いや、まったくないな」
「教会に入る情報だとね、結構強い守護霊を持ってた人がやられているのよ。分体に負けるような霊たちじゃないから、おそらく本体。だとすると……」
「そうした強い霊に接近できる者に取り憑いておる可能性があるのぅ」
え? 霊ってどこでも出入り自由なんじゃないの?
「お主、さっき結界で苦労したばかりじゃろうが。強い守護霊になれば、自分の領域に結界を張ることもできるし、そうすることが当たり前でもあるんじゃよ」
結界か。法術にも結界術はあるが。俺にも張れるかな、結界?
「ここでやらないでよ? 干渉してエラいことになるから。でも、結界知らないなんて、どこでどう暮らしてきたのよ」
俺が違う世界から来たことは、あまりペラペラ喋るなとゴースに釘を刺されているが、ゴースに視線で訪ねたら首を縦に振ったので、話すことにした。
「元は魔女とはいえ、聖女の守護霊じゃし、隠していても良いことはないじゃろ」
ゴースの許可も出たので、俺は自分が異世界から来たことを話した。
「違う世界ねぇ。にわかには信じられないけれど、他の霊とは違うことは理解したわ」
魔女でも、異世界に関する知識はなかったか。元の世界に戻りたいわけじゃないが(だって死んでるし)、少し残念な気もする。
「まぁ、こうしてお近づきにもなれたんだから、聖女が街で邪霊を祓うときには協力してよね?」
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