悠人:闘技顛末

 技能大会――最初、聞いた時には、コンテストみたいなものをイメージしていたが、実際には大がかりな学園祭、あるいはコンパクトなインターハイと呼ぶべきイベントだった。ただ、それなりに規模は大きくて、一般市民の見学も可能。学院主催のイベントにもかかわらず王都中から注目されているらしい。


 いくつかの種目があって、それぞれに己の技能を示すらしい。中でも、魔法を使って戦う「闘技会」は、学院関係者のみならず一般の市民にも人気が高いらしい。なんだか、少年漫画にありそうなシチュエーションだな。

 まぁ、この世界は思っていた以上に平和で、この位しか娯楽がないからだろう。


 学院の魔法学部生徒は、闘技会に全員参加なので、我がマイルズも出場する。


 ゴースの指導のお陰で、寝ている時であればマイルズに意思を伝達できるようになったので、俺は覚えている真言マントラのいくつかを伝えた。明呪は反復こそ要。繰り返し口にすることで、仏との道が繋がりやすくなる。

 マイルズの方は、“夢のお告げ”のように思ってくれたようで、俺の伝えた真言を記録し、暗記すべく努力している。偉いぞ。前世の俺とはえらい違いだ。


 お陰で、その効果はばっちり。マイルズがつたないながらも真言マントラを唱えると、俺の霊力がマイルズに流れやすくなり、魔法の精度も威力も目に見えて向上した。正志の時もそうだったが、教えたことを覚えてちゃんと使ってくれると、教えた側も楽しくなるな。まぁ、直接言葉を掛けながら指導できないのは、少し歯がゆいけれども。


 あれ? 俺って指導者の方が向いてる? いや、それはないな。


 また、マイルズと一緒に俺も真言マントラを唱えることで、魔法の威力が上がることがわかった。あんまり弟子(本人は弟子と認識していないだろうが)を甘やかすのはどうかと思うが、時々手助けしてやる分には構わないだろ?


 こうして闘技会に参加したマイルズは、順調に予選を勝ち抜いた。サイラスが守護するデレクも同じように予選突破だ。マイルズがどれだけ成長したか、指針になるかと思って期待していたニッケルとの再戦は、奴が不参加だったので叶わず。残念だ。


 マイルズは、本戦でも順調に勝ち上がっていった。といっても、あまり身体を動かすことなく、魔法一発で相手が戦意喪失というパターンが続いた。


「うちのは、四回戦で敗退したよ、おしかったけどな」


 わざわざサイラスが、五回戦を待つ俺たちの所に来て教えてくれた。


「それでも、去年よりひとつ多く勝ったと喜んでいるよ」


 それは良かった。こっちの試合が終わるまで待ってくれているデイルは偉いなぁ、守護霊と違って。


「なんか言ったか?」

「んにゃ」


 五回戦の相手は、さすがにこれまでと違い、マイルズの魔法にビビることなく突っ込んで来た。が、足下の注意が疎かで、土魔法で作ったトラップに引っかかって転倒、そこをマイルズが上から空気のハンマーで押し潰すという展開になった。ふむ。こんなテクニックも使えるのか。体力に地震がない分、本人もいろいろ考えているんだな。


 そして、準々決勝まで進んだマイルズの相手は、なんとアルベルト・ヴァンオーグだった。まぁ、あの強さだ、当然と言えば当然か。


「よぅ、ルー! よろしくな」

「相変わらず、軽いな」

「そっちは相変わらず堅物だな」


 ふん、とルーは顔を反らせた。


「ま、うちのマイルズがどれだけ成長したか、その目に焼き付けろよ」



 試合開始とともに、マイルズはでっかい火球をぶっ放した。見た目は派手だけど、威力はあまりない。これを避けて横に飛び出したところを、風の魔法でなぎ払う作戦か。でも、それじゃ上から飛び越えて来たらどうすんだ? 陽動はいいとして、自分も少し位置取りを考えて――うわっと!


 ヴァンオーグは、火球を避けることなく、剣でぶった切って正面から突っ込んで来た! やるなお嬢さん。良く見ると、剣が炎を纏っている。火属性魔法を剣に乗せているのか。

 マイルズは、風魔法をそのまま盾にした。うまいぞ。一旦、距離を取れ。あぁ、しまった、もう少し体術も教えておくんだった。バックステップの距離が足りない。


「ナウマク サマンダ ボダナン!」

『ナウマク サマンダ ボダナン、風爆!』


 突風をイメージしながら真言マントラを唱え、マイルズの前で風を爆発させる。これでアルベルトとの距離ができた。背後霊が助力するのは卑怯? いやいや、相手もルーちゃんが力を貸しているし。というか、あからさまに俺を狙っているよね?


『ナウマク サマンダ ボダナン ボロン、風結陣!』


 マイルズが、風属性魔法で自分の周りに風の壁を作った。いや、そのチョイスは……。


『エアー エアリアル、イグニス イグナス、風よ炎よ、我が身と我が剣に宿りて万物を切り裂け! 風炎の刃!』


 風の回転方向に沿って、アルベルトのふるった剣先が割り込んでくる。やばい。


 そこで試合終了の笛が鳴った。

 教師たちの判断で、勝敗が決まったようだ。もちろん、マイルズの負けだ。相手の得意な属性を見極めていれば、土魔法で壁を作るべきだった。それも破られていた気もするけれど。

 ね、もう笛がなったんだから、剣を引いてくれないかな? ルーちゃん、いえ、ルーさん?


『これで身の程というものが、わかっただろう?』


 そうだね、うん。ありがとう。


 霊力で疑似物体を作り出す方法を訓練していて良かった。独鈷杵出すのが遅かったら、俺の首が切られていたかも。



『魔法が使えるようになって間もないのに、闘技会で準々決勝まで行くなんてすごいよ』


 デイルは良い子だなぁ。自分のことよりも先に、こうしてマイルズのことを気遣ってくれる。


「その通り、我が子孫、デイルは良い子に育ってくれた」


 うん。お前はもう少し、他人の気持ちってものを考えような、サイラス。


『もうすぐ決勝が始まるよ、見に行こうよ』


 デイルに誘われて、少し気落ちしていたマイルズも、元気を取り戻して闘技会場へと向かった。友達ってありがたいなぁ。


 決勝が行われる会場に着くと、そこには人の山ができていた。普段は魔法の訓練を行う広場だが、数日掛けて周囲に観客席が作られていて、そこに街の人たちが集まっている。客席の一角は、学院の生徒に割り当てられており、マイルズだちはなんとかそこに滑り込むことができた。


 会場に、選手(でいいのかな? 正式な呼び方は知らん)が入って来た。西の方からは、いかにも戦士といった感じの大男。バフという名前だった。この男は、準々決勝でマイルズが負けたヴァンオーグに準決勝で勝っている。軽量級のアルナーにとって、重量級で守備が硬い相手は不利だったのだろう。男の守護霊は、牛みたいな顔をした筋肉隆々の、やはり大柄な男だ。しきりにポーズをとって筋肉を見せびらかしているが、霊にしか見えないんだから無意味じゃね?


 東から入って来たのは、この国の第二王子、マーカスという名前だ。王子がこんな闘技会に出ていいのか? と思ったが、そういえば、ゴースは学院内ではあまり階級が考慮されないとか言ってたな。


 マーカス王子の守護霊は、全身に黒い鎧を纏った騎士だった。



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