第14話

 ゲームセンターに着くと以前に預けていた分を取り出す。メダルは1000枚くらい預けてある。前に紅葉に連れられて陸上部の人と来た時に預けてあった分だ。今回引き出したのは150枚。だが、俺ではすぐに使い終わってしまうだろう。


「光も美沙もなくなったら遠慮なく言ってくれよ。オレのやついつまで経っても無くならないからな」


 紅葉の預けてある枚数は6桁に届いている。紅葉はとにかく運が良く、前回来た時も陸上部員の中に使い切った人がいるとどんどん渡していた。終わり際に断っていなかったら更に貰っていたはずだ。


「流石になくなったらもうやめるよ。一日中ここにいるわけじゃないでしょ?」


「オレはそれでもいいぞ」


「飽きるわ」


「そういえば、ボウリング行ってなかったな、そこ行こうぜ!そこで飯も食えるし」


「行くにしても食べてから行けばいいだろ」


「紅葉は食べながらやろうとするからね…」


「2人して言わなくてもいいだろ!」







***






 帰り道、真っ赤な夕焼けは明日も暑くなることをうかがわせる。その分、今は来た時よりは涼しくなった気がする。


「今日はあそんだなぁ。久しぶりにやるとボウリング楽しかったな」


「そうだね。紅葉なんでほとんどストライクかスペアだったもんね」


「まあな!」


「それに付き合った俺は腕が上がらないんだけど?」


「だったら荷物持たなくていいって言ってんのに」


「ここまで来たら変わんないわ」


「光くんも結構すごかったよね」


「だよな。隣に紅葉がいなきゃな」


「あはは、そうだねぇ」


「光が弱すぎるんだよ」


「これが普通だわ」



 紅葉の家の前に着く。


「じゃ、またな!」


 紅葉が玄関のドアを開こうと手を伸ばすと同時にドアが開かれた。


「あっ、よかった〜」


 どれだけ急いだのか息の上がっている女性。


「ようやく2人に会えたわ〜」


 紅葉のお姉さん?は顔の横に手を当て微笑みながら言った。


「光くんと美沙ちゃんよね?間違ってたらごめんなさい?」


「はい、継野光です」


「私も合ってます」


「やっぱり〜。紅葉ちゃんがなかなか会わせてくれなかったのよ〜」


「いいだろ別に。何の用だよ」


「娘がお世話になってるんだから挨拶しないわけにいかないでしょ〜」


 …娘?


「じゃあ、もういいな。さっさと戻れよ」


「も〜、そんなこと言って。あっ、よかったら食べてって」


「いえ、流石に…」


「少し時間かかるから、紅葉ちゃんの部屋で遊んでてね」


「あの、ほんとに」


「お父さ〜ん、光くんと美沙ちゃんがご飯食べてってくれるって〜」


「本当か!どうすればいいんだ?そういえば飲んでない良い日本酒があったな!」


「そんなもの出しても飲めないでしょ〜」


 家の中は盛り上がっているが、俺たちは置いてけぼりだ。


「悪いけど食べてってくれるか?」


「私は多分大丈夫だけど…」


「俺も多分。でも、先に止めてきてもらえるか?」


 家の中からは話し声が聞こえる。


「出前だ、母さん!出前を取ろう!」


「そうね、それなら間違いないわよね〜。電話帳どこに合ったかしら〜」


「私からもそんなにもてなさなくていいって言ってきて。電話しちゃうかもだから早く」


「わ、わかった。2人はオレの部屋に行っててくれ!」


 廊下をパタパタと走っていく紅葉を見送り、再び部屋に入る。一度出てから再び入るのは初めてだ。

 部屋に入るがなんとなく居心地が悪い。美沙も同じだったのか正座をしながらチラチラとこちらを見ている。


「…なんか大ごとになっちゃったねー」


「何も持ってきてないから逆に申し訳ないな」


 話し声は未だ聞こえていて、紅葉がこちらにやってくる気配はない。


「とりあえず家に連絡するね」


そう言って美沙は携帯を取り出すとこちらに背を向けた。

 俺も連絡しないと。



***




 ほぼ同時に連絡を終える。


「プリはここに置いておけばいいかな?」


 美沙はポケットから取り出したものを紅葉の机に置いた。


「光くんもたまには少しもらって」


「前に妹に見られて騒がれたんだよ」


 今みたいな反抗期じゃない時に。


「まあまあ、今回は気をつけて。はい」


 渋々受け取る。ゲームセンターを出てくる時に撮ったもので、何故か2人に挟まれる形で立っている。


「今回は珍しく抵抗しなかったよね。普段は撮られるのが苦手とか言って嫌がるのに」


「それを見越して罰ゲームにしたのは美沙達だけど」


「そんなに嫌がることないじゃん。思い出だよ」


「それならせめて普通に写真でいいだろ」


「じゃ、そうしよっか」


「えっ」


 素早く隣に移動してきた美沙が顔を近づけた。掲げられた携帯からシャッター音が鳴る。


「よし、撮れた。あとで送るね」


「…揚げ足取るなよ」


 一瞬だったぞ。


「たまには、ね」


 微笑んでいる美沙から目を逸らし、手に持っているものを見る。


「これって、誰が考えるんだろうな」


 普通、ではないが、ああいう機械としては普通に目とかが加工されているもの以外にも肌の色を変え、目が異様に大きくなったり、腕が細くなっている宇宙人モードや撮った後の加工で性別を逆転させているものもある。


「50年後モードは本当かどうかもわからないしな」


 皺が増えたり、髪が薄かったりしている。髪はあって欲しいな…


「これを50年後まで残しておいて、また集まってみて比べようよ。そしたら面白いでしょ」


「50年後ってもう忘れてるだろ。半世紀だぞ」


「そうかなー?案外忘れないかもよ」


「…忘れてなかったら面白いかもな」


「私がしっかり保存しておくよ」


「はいはい」


 適当な返事で切り上げる。会話内容が恥ずかしいので。


「おまたせ。何してたんだ?」


「これのこと。紅葉の分は机に置いといたよ」


「お、さんきゅ。飯までゲームでもしようぜ」


 紅葉の取り出したゲーム機を取り出し、準備する。ゲームセンターで十分ゲームしてきたつもりだったが、紅葉からすると別物らしい。呆れていると、美沙も同じだったのか顔を見合わせ、密かに笑い合った。




***




 ご馳走になった後の帰り道、美沙と並んで歩く。空はすっかり暗くなり、街灯には灯りに引き寄せられた虫たちが舞っている。


「美味しかったねー、つい食べ過ぎちゃった。体重計乗ったらヤバイかも」


「そうだな」


「…それは後半に対する同意かな?」


「普通の相槌だろ」


 抓ろうとしている手を軽くはたく。大袈裟に痛いと言いながらも顔は笑っている。


「それにしても…少し恥ずかしかったね」


 紅葉に連れられテーブルに着くと、既に向かいには紅葉の両親が座っていて、とても気まずかったが、そうしていると頭を下げられ、お礼を言われた。


「光くん、娘をお願いしますだってよ?どうするのー?」


「変な言い方するな」


「どうかなー」


 しばらくして、家の前に着く。


「ここ光くんのうちでしょ?じゃあね」


「近いなら送るけど」


「いいって、今は暗いから分かりづらいかもだけど、ほんとに近いから。走ったら1分もかからないし」


「それなら大した手間でもないな」


「もー、いいのに」


 そのまま道をまっすぐ歩く。


「ほら、あそこのアパートだって。近くでしょ?」


「ほんとに近いな」


「そう言ったじゃん」


 アパートの前に着く。


「じゃあ、その、ありがとね。送ってくれて」


「ああ」


「じゃあ、えっと、おやすみ、かな?」


「おう、おやすみ」


 きた道を引き返し、家に着く。


「ただいま」


「お帰り光。今未来がお風呂はいってるから次入っちゃって」


「わかった」


 食器を洗っている母さんに返事を返しながら、冷蔵庫を開き、飲み物を取り出す。


「今日もいつもの子達と遊んでたの?」


「そう」


「たまには未来とも遊んであげなさいよ」


「この歳になって兄妹で遊ばないだろ」


「そんなことないわよ。ねぇ?」


「…何が?」


 ちょうどお風呂から上がった未来が髪を拭きながら立っていた。


「あっ、お礼言った方がいいかしら?えっと、水月君?だったっけ?」


「わざわざ電話かけなくてもいいんじゃない?後、なんで君付け?」


「え?」


 不思議そうにしている母さん。未来も手を止めてこちらを見ている。


「陸上部の友達って言ってなかった?」


「そうだけど」


「ずっと男の子かと思ってたわ」


「最初に言わなかったっけ?」


「覚えてないわね」


 未来の目が鋭くなっている。早く入れってことか。


「取り敢えず入ってくる」





***





「…あんた、わかりやすいわね」


「な、何が?」


 お母さんに言われて我に帰る。


「それにしても、光といっつも遊んでたの女の子だったのね。学校でも一緒にいるって言ってたからてっきり…」


 お兄ちゃんが休日に出かけるのはほとんど水月さんと一緒だった。今ではただの仲のいい友達かと思ってたけど、考えてみれば不思議に思ったことは何回もあった。帰ってきた時の服から甘い匂いがしたり、お兄ちゃんより長い髪が付いていたり…それに、いくら友達だからってその人の部活に着いて行く事もおかしい。そんなの、もしかして…


「お付き合いしてるのかしら」


 お母さんの一言に肩が跳ね、いつのまにか床を向いていた顔を上げる。そこには口元に手を当てていても隠しきれない笑みを浮かべるお母さんの顔があった。


「冗談よ。そんな様子全然ないもの」


「お、お母さん!」


 お母さんを何度も叩くけど、何ともないのかに笑ってる。


「本当に未来はお兄ちゃん子よね。光に本当に彼女ができた時どうなるのかしら」


 どうなっちゃうんだろう。


「なんて、漫画じゃないんだから、そんな事ないわよね。別に光のことを恋愛対象として見てるわけじゃないでしょ?」


「ぁ…」


 思わず言葉が詰まってしまった。


「え…」


 次お母さんの言葉が怖い。そう思った。


「わ、私。勉強あるから部屋行くね。おやすみ!」


 返事も聞かず、階段を上がり、部屋に鍵をかけ、そのままベッドに飛び込んだ。





***




「あー…そういうことなのね」


 残った食器を洗う。


「…確か染色体の関係で障害のある子が生まれやすいんだったかしら」


 軽く洗った食器を食洗機に並べる。


「子供がいるだけが幸せではないしね、そこまで孫が欲しいかと言われるとそうでもないし…」


 軽く喉を潤す。


「…まぁ、光次第よね」


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