第7話
「全部しませんか?」
部室に全員が集まるなり小淵さんは言った。
「今回はすべての案を実行できるのではないですか?当然順番はありますが、意見を1つにするよりは行動を始めた方が早いと思います。どうでしょうか?」
「順番はどうするんだ?」
「お二方を同席するのは後にしましょう。冷静でいられなくなってしまいますから。私と宵川さん、新川先輩は亀梨さんの方へ向かいましょう。なので水月さんと月雪さんは継野君と一緒に相手の方、宇川さんの方をお願いします。これまでで解決しなければ月雪さんと水月さんの案の通り同席させましょう」
「あ、オレ明日は用事あるから無理だぜ」
「わかりました。では、月雪さんと継野君の2人でお願いします」
方針が定まったところで笹木が口を開く。
「亀梨と宇川だが、どちらも部活には所属していない。この時間にはもう残っていないだろう」
「笹木先生、ありがとうございます。では、明日から行動に移りましょう。お二人が帰ってしまうかもしれませんから、部室には寄らず直接会いに行ってください。終わったら部室に集まるということで。では、今日は時間まで別の相談者が来ないか待っていましょう」
「あの!関係あるか分からないんですけどいいですか?」
「どうぞ」
「友達に宇川君のこと聞いてみたんですけど、宇川君放課後にいっつも陸上部の練習を見てるらしいです。中学の時陸上で有名だったって聞きました!」
宵川さんは同学年だから情報が入りやすかったのかもしれない。それにしても陸上か。
「水月は聞いたことないのか?有名らしいけど」
「そんなに珍しい名字じゃないしなぁ…名前がどりるってやつなら覚えてるけど」
「そっちの方が気になるな」
「顔もカッコいいらしいですよ!頭も良くて何人か振られた人がいるらしいです。私は直接は知りませんけど」
「宵川さん。その、断られた方はわかりますか?」
「えっ?えっと、聞けばわかるかもしれないです」
「なら、機会があれば何と断られたか尋ねてみてもらえますか?無理には聞かなくても良いので」
「あー、彼女がいるって断られたかってことですね!わかりました!」
「お願いします」
結局その後相談者が来ることはなく解散となった。
***
週末を挟んで、放課後、亀梨さんが部室に来た。宵川さんに頼んでおいたのだ。
「あの…他の人はどうされたんですか?」
月雪さんに勧められた椅子に座りながら問いかけてきた。
「他の部員は宇川君の方に行っています。意見が分かれてしまったので」
「そうなんですか。」
慌てるかと思ったが落ち着いている。前回の小淵さんの言葉から想像はできていたのかもしれない。
「この前の話をもう少し詳しくお願いできますか?無理に聞くことはしません」
「はい。わかりました。相談部の部室でいいですか?」
***
宵川さんに宇川君の写真を月雪さんに送ってもらった後、グラウンドの周りを探します。グラウンドを見ると陸上部も今来たところのようですね。
「練習を見てるなら、ここか桜並木ですね!」
「立ち止まってるならすぐわかると思ったのですけど…」
下校していく生徒が多くいるためわかりづらい。
「あっ、いた!」
「どこですか?」
宵川さんの指の先を見渡すと桜の木に寄りかかりながら腕を組んでいる生徒がいる。
「ナルシストですかね?」
「思いましたが、本人の前では言わない方が良いです」
写真でも見ていたが、固められた金髪と格好が相まってそうとしか見えない。
「宇川航平君ですか?」
「?はい。そうですけど…」
「私は小淵瑠花です」
「新川恵子です」
「宵川晴亜です!」
「はぁ、どうも。えっと、何の用ですか?」
私達が上級生とわかったのか組んでいた腕を下ろし、桜の木から離れました。身長は継野君と同じくらいでしょうか。私達より大きいのは間違いないです。
「単刀直入に聞きますが、亀梨さんとよりを戻すつもりはありますか?」
「は、はい?何のことですか?」
「私達は相談部の者です。亀梨さんからあなたとよりを戻したいという相談が来ました」
「あの、小淵さん…」
新川先輩が耳に口を寄せ、声を潜めながら話しかけてきました。
「そんなはっきりと聞いてしまって良いのでしょうか?余計仲がこじれてしまうのでは?」
「仕方ないです。それを話さないと何も話してくれないでしょうから。…失礼しました。それで、宇川君にはよりを戻したいという意思はありますか?」
「一応…あります」
「一応ですか?」
「その…気になっている先輩がいて」
「…それなのによりを戻すつもりはあるのですか?」
「その先輩とは接点もほとんどないので…付き合えるって決まったわけでもないですし…」
「…頭が痛くなってきました。」
つまりどういうことなのでしょう?
「航平君、あっ、同い年だから航平君って呼ぶね?それで、亀梨さんはキープってこと?」
「いえ、それは…違う、と思います」
「でも、今好きな人は亀梨さんじゃないんだよね?」
「いや、その、両方?」
その言葉に私と新川先輩は顔を見合わせます。
「小淵さん、私は今回の件お手伝いはできないかもしれません…これが世代間格差というものでしょうか…」
「いえ、私も理解できません。若い世代はこれが普通なんでしょうか?」
「「恐ろしい…」」
「あの!先輩達大して歳変わらないですからね!?たまにいるくらいです、たまに!」
亀梨さんに同情してしまいます。あちらはどうなったのでしょう?
***
部室に着き、早速亀梨さんに質問を始める。
「亀梨さんには一昨日も色々聞きましたけど、まずは相手の宇川君に別れを告げられたのはいつ頃ですか?」
「えっと…8月頃からぎくしゃくしてて、8月末くらいに言われました。」
「結構前ですね…それから宇川君は勉強を?」
「はい。今まで陸上一筋で、授業とかもほとんど寝てたのに授業中はもちろん休み時間や放課後もずっと勉強し始めて…」
「それはそこまでおかしいことじゃないよね?」
部活を引退した3年が受験勉強に焦り出すのは珍しくない。俺の時も周りに結構いた気がする。
「おかしいです!それまでは家の近くの高校に行くって言ってたんです」
「目標を変えたってことかな?それは勉強して成績が上がったから上の高校を目指したってことじゃないかな?」
「それは違う、と思う」
今まで一言も発しなかった月雪さんが口を開く。
「順序が逆」
「目標を変えたから勉強を始めたってこと?」
「そう考えるのが普通」
「今まで勉強していなかったならそうか」
部活を辞めてから志望校を変えたと。
「宇川君からは受験勉強を理由にして別れを告げられたんですよね?」
「はい」
「それを亀梨さんが疑ってるのは、受験が終わった後もはぐらかされているからって言ってましたよね?」
「はい。でも、それだけじゃないです」
「他に理由が?」
「部活を引退した後なんですけど女子の陸上の大会を見に行ってたんです」
「同じ部活の人を応援に行ったんじゃないですか?」
「宇川君が行ったのは高校生の会場なんです。中学生は別の場所でやってました。それで気になって調べてみたら、宇川君が引退した時の大会の会場の近くで高校の女子陸上の大会もやってたみたいなんです」
「その時に宇川君が誰かに好意を抱いたと?」
「だと思います。そうじゃなきゃ今まで行ってなかった高校生の陸上を見に行くはずがないです」
「じゃあ、宇川君はその人を追いかけてこの学校に?」
「そう、だと思ったんですけど…宇川君陸上部に入ってないんです」
「そういえば2人とも部活には入ってなかったね」
「はい。私は宇川君と同じ部活に入ろうと思ってたんですけど、宇川君が一向に入る様子がなくて。陸上部には真っ先に行ったみたいなんですけど、次の日からは他の部活を見に行ってて1通り回ったんですけどまだどこにも入ってないんです」
「なら、その生徒は3年生で、もう卒業してしまったかもしれないですね」
「そうなんでしょうか…」
***
「今日は時間を取らせてごめんなさい。とりあえず今日のところは大丈夫です。」
「わかりました。失礼します」
その後気になっていたことをいくつか確認した後、亀梨さんには帰ってもらう。
部室には俺と月雪さんだけが残る。小淵さんの方はもう少しすれば来るだろう。
「月雪さん」
「なに?」
「亀梨さんの話を聞いてどう思った?」
「原因は浮気。あと、亀梨はストーカー」
「同じこと思ったよ」
亀梨さんは別れたあとの勉強の様子、どの学校が志望校か、そして入学したあとも宇川君が見学に行った部活まで知っていた。予備軍かはともかくストーカーと言って差し障りないだろう。
「亀梨が逆上しても問題ない。被害は宇川とその相手。私には関係ない」
「…そうだね」
どれだけ相談部が手を尽くそうとも今回に関しては最終的には当事者が解決するしかない。相談部ができるのはその手伝いだけだ。
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