第36話
高校のテストの追試が終わり。午前中にてお屋敷に帰ってくると。リビングに日記帳が置いてある。姉の愛菜の日記帳だ。どうやら、置き忘れたらしい。これは禁断の果実の臭いがする。わたしは日記帳を開いてみる。
『〇月×日。政府要人から月之宮家の裏のお仕事の依頼を受ける。戦後中断していた裏のお仕事の依頼だ』
これは……。
わたしは息を呑む。かつて明治維新から月之宮家がしてきた裏のお仕事の事だ。
月之宮家は明治維新後、欧米列強へのスパイ活動を歴史の裏舞台で行っていた。戦後途絶えていたスパイ活動の依頼だ。行先は勿論、中国である。高校卒業の後で留学生として入国して活動するらしい。月之宮家は日露戦争をピークに終戦まで栄華を築いてきたが、大きなお屋敷とメイドの夏、程度まで落ち込んでいた。姉の愛菜は卒業したらモデルかムービースターにでもなると思っていた。わたしは怖くなり日記帳を元の場所に置く。呪われた一族の月之宮家の定めか……。急いで夏に紅茶を頼む。いつもの様に夏が紅茶を運んでくるが手にすると震えが止まらないでいた。
「恋菜様、どうかされましたか?」
どうしよう?夏は当然知っている。
「夏の日ごろのご奉仕に感謝していただけよ」
「???……手の震えが感謝ですか?」
ダメだ、嘘をつききれない。
「そうね……ただ、姉の日記帳を呼んだだけよ」
わたしは紅茶を置き、精一杯の強がりで話す。夏は悲しそうになり、頷く。
「裏のお仕事の事ですか?」
「えぇ」
この月之宮家の地下薬品庫には毒薬を含めて怪しげな薬が置いてある。それで、多少の事は今まで想像できたが日記帳として見るのは初めてである。夏は目をそらして沈黙で答えた。やはり、姉の愛菜は依頼が来ているらしい。わたしは手の震えを止めて紅茶を飲む。これでも月之宮家の人間だ。凛として紅茶を飲み干すと。
「わたしの出番は有って?」
「はい、可能性はあります」
しかし、それでも高校を卒業してからだ。
「なら、高校生活を楽しみましょう」
わたしの言葉に夏もまた目つきが変わる。夏も月之宮家の人間である。色々な覚悟はできているらしい。わたしが紅茶を飲み終えると何事も無かった様に片付ける。大きな息を吐き漠然とした将来の事を考える。ふう~結論は出なかった。それは平和な昼下がりの事であった。
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