第7話
日曜日の朝……ピアノの音が聴こえる。夏が弾いているらしい。ピアノの音色は物悲しく夏の運命を語っているようだ。
いいえ……わたしの運命なのか……。
わたしは夏のいる部屋に行くが扉を開けることが出来ないでいた。このお屋敷は孤独で満ちている。そう、わたしも独りである。ピアノの音が止み、扉が開く。
「恋菜様、起こしてしまいましたか」
「大丈夫よ」
しかし、夏の瞳は死んでいた。これも違う、わたしの心の方が死んでいるのね。
「わたしのピアノをお聴きになりますか?」
夏の問いにわたしは寂しさしか感じなかった。そう、わたしは夏の気持ちに応えられない。夏の音色が死んで聴こえるわたしに聴く資格はない。わたしがうつろに立っていると。夏はピアノに向かい弾き始める。ホント、夏は優しいわ、何も言わずにピアノを弾くなんて。
♪
わたしは少し自分の心の闇が憎くなる。そして、夏のピアノの音に『癒すメロディーなんて時代錯誤だ』と思うのであった。わたしは扉を閉めてうずくまり耳をふさぐ。夏のピアノの音色が止まり再び扉が開く。
「癒すメロディーなんて時代錯誤よ」
わたしは夏に言ってやった。夏は怒るかと思いきや。うずくまるわたしに「紅茶でもお入れしますか?」と声をかけてくる。もし、ご奉仕なる言葉があるならこの事だろう。小さい頃からメイドとして生きてきた夏らしい。
「ありがとう、もう一眠りしてから頂くわ」
わたしは自室に戻りベッドに入る。眠れない……でも、何も考えたくない。ノックの音が聞こえて、夏が入ってくる。
「恋菜様、紅茶をお持ちしました」
夏の言葉に反応して起き上がる。
「わたしが寝ていたらどうするつもりだったの?」
夏は何も言わなかった。可能性の問題か……。わたしは紅茶を飲み、心を落ち着かせる。夏の笑みは自然でご奉仕の意味で紅茶一杯が幸せなのであろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます