第6話
わたしはホームルームで退屈を味わっていた。クラス単位で遠足に行くらしい。集団行動の苦手なわたしは窓から外を眺めているのであった。聞こえてくるのは
『ネズミの王国』に行きたいとか。某世界遺産に行きたいなどである。
「先生、体調が悪いので保健室に行っていいですか?」
担任が困った顔をしていたが関係ない。わたしは体調が悪いのだ。足早に教室を抜け出すと屋上に向かった。
この高校は屋上が解放されていて暇な生徒の行き場所になっていた。うん?彼が付いてきた。
「この柵を上るのは大変よ」
わたしは試しに言う言葉に恐れる彼であった。
「あぁ……なんだか、死ぬのが最近は怖くてね」
立体駐車場の屋上に比べて高い柵は普通には越えられないのであった。
「単純な男ね、わたしの存在がそんなに良くて?」
彼は照れくさそうに頷くのである。やれやれだ。変な関係になったものだと諦める。ありふれた恋愛なら簡単であるはずなのに、わたしの心の闇が邪魔をする。わたしは紅色の髪をなびかせて屋上の柵をおもいっきり蹴る。
「その感情は死に値するほど激しくて?」
その問いに彼は恐れおののく。やはり複雑な恋愛関係になった。わたしは二度目の蹴りを屋上の柵にする。大きな音とともに彼は震えあがる。
「おかしいな、僕の見立てでは、もっと、素直な人だと思ったのに……」
「ええ、素直よ、わたしはあなたを愛しているわ」
言ってから、気が付いた。彼の罠であった。この男はなかなかだ。わたしは顔を赤らめて『愛している』と言った事を考え込む。彼は恐怖の感情よりわたしの事が好きらしい。わたしは不機嫌になり屋上を後にする。複雑な関係になったと心から思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます