第4話
土曜日、わたしは夏のためにパンケーキを作っていた。夏は喜んでパンケーキを食べる。誰かのために作るのは楽しいのである。夏がパンケーキを食べ終わるとわたしはフライパンを洗おうとする。
「恋菜様、わたしが洗います」
「そう?」
わたしは手を洗うと厨房から自室に戻る。自室の机に向かい日記を書く事にした。今日は午前中に野良猫にミルクをあげた。喜んでミルクを飲む野良猫が可愛かった。野良猫は分かりやすいが夏の真意は不明であった。月之宮家のメイドとして生まれ住み込みで毎日働いている。わたしは夏を自室に呼び「休日はいらないの?」と尋ねてみる。労働基準法とかそう言う問題ではない。夏がメイドの仕事以外に興味があるかだ。
「恋菜様、わたしは月之宮のメイドです。生まれた運命に従うだけです」
「でも、休日は必要でしょ」
「はい、明日、ネットで知り合った友達と出かけてよろしいですか?」
わたしはやはり夏の真意が分からないでいた。オフ会が普通の時代とはいえ、本当にそんな人がいるのであろうか?
「いいわ、夏の休日を許可するわ」
「分かりました、明日の昼ご飯を用意しておきます」
「ありがとう、愛菜にはわたしから言っておくわ」
そうか……姉の愛菜と二人きりか……。夏が部屋を出て行くとわたしは日記の続きを書く。夏の休日についてだ。しかし、あの女と二人きりなのは問題だなと少し後悔をする。まあ、いいわ、たまには姉妹二人きりでいるのも悪くないか。ある意味、楽しみになったのである。休日に夏が休みを入れた日の事である。 姉の提案でわたしは姉の愛菜と二人でいた。 そう、昼飯を一緒に食べる事となったのだ。楽しいかと聞かれたら気分は極度の緊張感であると答えよう。わたし達はお皿を並べて、準備をする。 夏の作っていったのは、ハムエッグにコーンスープにサラダであった。 姉の琥珀色の瞳がこちらに向けられる。
「夏が休日に休みを取るなんて珍しいわね」
姉は威圧的な態度でわたしに接する。 いいえ、姉の態度は誰であろうと関係はなかった。
「友達と会うらしわよ」
わたしは小声で返事を返す。 それから会話は無く時間だけが過ぎていった。
「あら、午後のバレエレッスンの時間だわ」
姉の愛菜は席を立つと小首を傾げる。
「夏の帰りを待つのもね、この洗い物はわたしが洗うわ」
姉はわたしの分まで洗うのであった。 しかし、その態度はやはり威圧的で無能な妹に変わって洗ってあけるであった。 わたしは吐きそうになりトイレに駆け込む。昼飯を吐く事はなかったが気分は最悪である。食事をする大広間に戻ると。バレエの道具が入ったバックがテーブルに置いてあった。
「わたし出かけるけど大丈夫?」
「えぇ」
姉は紅色の髪をお団子にして出かける。
……夏、早く帰って来てと、心から願う。
わたしは海外で暮らす両親よりも長い時間を過ごしている夏に頼り切りだと感じる。不意にお屋敷に置いてある鏡を見ると自分の椿色の瞳が輝いていた。ホント、嫌な色……わたしはナイフを持ち出すと手首にあててみる。こんな小さなナイフでは切れないか……。
うん?玄関から音がする。夏だ。わたしは夏に会いに行くと……。
「恋菜様、紅茶ですね」
わたしは頷いて「夏の淹れた紅茶欲しいわ」と言う。小さなナイフで手首が切れなかったのはラッキーだと思う事にした。夏の淹れた紅茶が届く頃にはいつものわたしを取り戻していた。
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