第3話

 そして、偶然だが彼と同じクラスになった。 それは、わたしには幸福な事で素直に喜べた。


「皆さん、『恋菜』と呼んで下さい」


 最初の挨拶が終わり席に着く。 わたしは深く深呼吸をして高鳴った気持ちを落ち着かせると、彼が話しかけてきた。


「こ、この前はどうもです……それで、立体駐車場の事は内緒にしてくれるかな……」


 肝の小さい男……わたしは彼を支配してみたい感情が芽生えていた。


「死ぬ気ならいつでも付き合うわ」

「え、ぇ、その時はよろしく」


 彼の言葉に説得力は無くて、わたしには死ぬ気なんて全く無い甘ちゃんに映った。 それでも、何故、彼に魅かれるか謎であった。


「恋菜さん、でしたね。そ、その紅色の髪も椿色の瞳も素敵です」


 それは口説いているつもりなのか不明な発言である。 不器用なところは長い時間が過ぎても、あの頃の彼にそっくりだ。 でも、変わったのはわたしの方であると思うのであった。


 わたしは髪をなびかせて「ありがとう」とお礼を言う。 昔のわたしなら嫌味に聞こえて気分を害してただろう。 理由は簡単、この紅色の髪も椿色の瞳もコンプレックスであるからだ。


 あの女と同じ髪の色で違うのは瞳の色で、姉は琥珀色の瞳であるからだ。 椿色の瞳と琥珀色の瞳も双子である為にセットで見られる。 いっその事、同じ色の瞳であればいいと考えるのであった。 だから、わたしは椿の花が嫌いだ。


「椿の花は好き?」


 わたしの問いに彼は答えに困っているようだ。


「撤回するわ、今の質問は忘れて」


 安堵した様子の彼を見て、わたしは微妙な気分になる。それは、このまま、彼に考えさせるのもいいかと思ったからである。つまりは、彼にとってはわたしの存在は気になる異性なのかもしれない。 今度こそ、彼はわたしを選んでくれると信じる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る