第2話
夏から貰ったブレザーが初めて部屋にかけられた夜の事である。雨音が聞こえる、色あせた心に恵みの雨が降る気分になる。わたしは鳥かごから大空に飛び立つことに近い感覚を感じていた。でも、不意に鏡を見ると、わたしの椿色の瞳が目に入る。
嫌な色……。
ただ生きているだけの人生に変わりはあるのであろうか?わたしの心は憎悪に満ちている。憎悪だけではなく孤独は黄昏の狭間に例えられ三日月だけが祝福の光である。
息苦しい……過呼吸だ。
わたしはベッドに横になり落ち着くのを待つ。トントン、部屋の扉をノックする音が聞こえる、メイドの夏だ。重い体を起こしてドアを開ける。
「恋菜様……」
夏は言葉少なくわたしの部屋の前に立っている。先代のメイドの子供である夏は姉妹の様に育ったからか、わたしの体調に鼻がきくらしい。それは、わたしの過呼吸に反応して様子を見にきたのである。
「大丈夫よ、紅茶を一杯もらえるかしら」
「はい、分かりました」
夏が部屋から離れると、わたしは彼と一緒に居た立体駐車場の屋上の事を思い出す。彼は熱病の様に死にたいと言っていた。
ふ、一緒に死ぬのもいいかもしれない。そんな感情も夏の入れた紅茶が届くと薄らいでしまった。わたしは読みかけの小説を手にしてベッドに横になる。いつの間にか朝である。昨夜の雨は上がり部屋に日差しが舞い込む。
わたしは夏の用意してくれた教科書等を鞄に入れブレザーを着る。双子の姉と朝食の時間をずらす。そう、あの姉とは関わりたくないからだ。わたしは夏の作った朝食を食べて『市立飯淵坂高校』に登校するのである。
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