三日月の魔女
霜花 桔梗
第1話
夏の終わりの事である。 夜風は季節の移ろいを感じさせていた。 この街は狭く、駅前の繁華街だけが目印なのである。
わたしは風に紅色の髪が揺られ、椿色の瞳が輝くのである。 そして、今夜は三日月が出ていた。 こんな夜は心がざわざわする。 夜中にわたしは月に誘われて駅前の7階建ての立体駐車場に行く。 もっと月を近くに感じたかったからだ。
屋上で三日月をみていると青年がやって来る。
「僕は今から死のうと思うけど、君もここから飛び降りて死ぬの?」
わたしは三日月に誘われてこの立体駐車場の屋上に居たのだ。 客人である青年の言葉は説得力がなく、ただの気まぐれに聞こえた。
「えぇ、一緒に死んでくれるのね」
ほんの少しだけ相手をしてあげるとわたしの言葉に彼は正気を取り戻した様である。 彼は膝をつきブルブルと震えだす。 みずから死のうなんて熱病に近いと思わせていた。 気まぐれから、わたしは青年に名前をきくと。
彼は『一条 翼』と名乗った。 わたしも『月之宮 恋菜』と彼に名乗るのであった。
「残念、わたしも飛び降りるの止めたわ」
わたしは再び三日月を眺めると一瞬の沈黙の後で彼は死にたい理由を話し始める。
「僕は何で死のうと思ったのだろうか……。そう、世界の全てが嫌になったからだ」
その言葉にわたしは彼の人生の方が幸せである事を感じた。 それに比べてわたしは……。止そう、自分の運命を呪うのは簡単だ。 それでも、生きるのは……わたしは生きている理由を考えたが虚しいものであった。 おや?切れていた防犯灯が点滅しながら光を照らし始める。
それは偶然の再会であった。 わたしは彼に見覚えがある。それは心がざわざわする感情である。彼との再会は運命を感じていた。
彼は『市立飯淵坂高校』の制服を着ていた。
「あなたは高校生?」
わたしの問いに彼は頷いて「市立飯淵坂高校の二年生です」と答えた。近所の庶民の高校であった。
そう、わたしは遠くの女子校で退屈な毎日を送っていた。彼は足どりも悪く立体駐車場の屋上から去っていった。わたしはメイドの夏に携帯から電話をして転校をしたいと頼んだ。夜中であっても夏は快諾してくれた。明日にでも転校手続きを始めてくれるらしい。 簡単な話だ、少し大胆だが、わたしは彼を追いかける事にした。 わたしは三日月の見守る屋上で少しだけドキドキした。自宅に帰ると住み込みで働いているメイドの夏が出迎えてくれた。二度言う必要はなく、夏はいつも通りであった。それから数日後の事であった。
夏が『市立飯淵坂高校』のパンフレットを持ってきた。
「恋菜様、明日にでも高校に通えます」
手続きが完了したらしい。夏からブレザーの制服を渡されると渇いた人生に、こんな気持ちは初めてである。
そう、彼は子供の頃の初恋の相手で、わたしが殺そうとした少年であった。
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