アクトノイド

明弓ヒロ(AKARI hiro)

プロローグ

 ―― 第82回全国高校演劇大会

 各県の予選を勝ち抜いた代表校から演劇日本一を選ぶ、全国大会だ。強豪校、無名校、タレント集団、素人集団、様々な個性が入り交じる中、若き高校生たちが、血と(最近は、パワハラ指導禁止のため、あまりない)汗の結晶を、青春の全てをかけて競い合う。


 そして最終日。大会もすでに大詰め、残すところ後り二校だ。


銅鐘どうがね高校? どこにあんだ? 千葉?」


「おいおい、今どき『ロミオとジュリエット』かよ」


「演劇ってのは、演技、脚本、演出、全ての総合力が必要なんだけどね。これだから、無名校は」


「今年も優勝は、セイントポール西学園で決まりだな。なんてったって、あそこは、現役高校生ながら芥川端賞をとった山崎素子のオリジナル脚本、名匠ゴスペルバーグの血を引くアンソニー小林のトリッキーな演出、100万人に一人の奇跡と呼ばれる美少女の宮崎すいが主演だからね」


「ラス2がセイントポール西学園で、ラストが銅鐘高校か。セイントポール西学園の後なんて、公開処刑決定じゃん。かわいそー」


「主演が、とびきりの美人だったりして」


「写真見たけど、はっきり言って、ブス」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ブラボー!!」

「アンコール!!」


 セイントポール西学園の演目が終わり、観客席に向かって深々とお辞儀をする高校生たちに、怒号のような拍手と嬌声が巻き起こった。


「もう、優勝でいいよ!!」

「翠! 結婚してくれー!!」


 幕が下り、セイントポール西学園の学生たちが退場し、次に演じる銅鐘高校の準備が進む。しかし、観客の興奮は冷めやらない。


「山崎素子、ジャイアント直木賞も、いけんじゃね?」

「来年のアカデミー賞は、アンソニー小林で決まりだな」


 ―🔊 皆様、間もなく、銅鐘高校の『ロミオとジュリエット』の上演が始まります。どなた様もお早めにお席にお戻り下さい。また、公演の妨げとなりますので、お静かにご鑑賞下さるよう、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。


 劇場アナウンスなど、どこ吹く風と聞き流し、まるで全国大会の演目は全て終わったかのように、観客たちは好き勝手に私語を続けていた。


「終わったら、どこいくー?」

「セイントポール西学園の楽屋の前で、翠待ちしようぜ」

「山崎素子のサイン欲しい―」

「アンソニー小林、監督だけじゃく、主演もいけんじゃね?」


 未だ静けさが戻らない中、照明がゆっくりと落ち、開演のブザーが鳴り響く。暗くなった劇場で、観客のうち誰一人として期待していない幕が上がる。


 しかし、それは、後にこう呼ばれる。


 ―― 奇跡の幕開け ――

と。

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