10,それぞれが抱えるもの
ハロウィンの今宵は眠らぬ街の夜。きっと外は朝まで騒がしいだろう。そんな中、セミダブルベッドで身を寄せ合い寝転がる沙雪と明日香。
明日になったら、とうとう冒険が始まる。シャワーを浴びて一時的に鎮静化したものの、それから後はどう心を鎮めようとしても鼓動は速いままで、沙雪の心身を恐怖が支配する。
明日の今頃、私は生きているのかな? 大怪我していないかな? 凄く怖い思いをしておかしくなっていないかな? そんなことばかり、延々と考えている。旅行前夜は落ち着かないもの。青森から神奈川へ引っ越すときも、知らない街で、知らない人ばかりの生活に恐怖と不安でいっぱいだった。今度はゲームの世界。世界そのものが吹き飛ぶ恐れもある。
「眠れないの?」
狭いベッドで幾度も寝返りを打つ私に、片瀬さんが声をかけてくれた。
「うん。夜が明けたら冒険が始まって、色んな危険と対峙すると思うと、なんだか落ち着かなくて」
「そっか。私もね、怖いよ。冒険するの。色んな意味で。うちん
「ううん、片瀬さん、私よりずっと大変なんだね。なのにいつも元気に振る舞ってて、すごいな」
「へへっ、元気だけが取り柄だよ。でもね沙雪、私が沙雪より大変かなんてわかんないよ。私は沙雪の背負ってることの話を聞いても、重さまでは量れない。私も沙雪も世界中の人もみんな、体力も体質もメンタル力もそれぞれ違うから、沙雪がどんだけの恐怖を感じてるか、どんくらい気負ってるものがあるのか、なんとなくまでしかわかんないんだよ。もし大変さを数値化できるとしたら、もしかしたら沙雪のほうがずっと大変かもしんないよ。でも大丈夫、沙雪は私が守る。元気が取り柄の私と、冷静な沙雪が一緒なら、きっと相乗効果で恐怖なんか吹き飛ばしちゃうくらいすごいことだってできちゃうよ」
言って、明日香はおもむろに沙雪の背に抱き付き顔を埋めた。
沙雪のからだ、凄くあったかい。シャワー上がりだからだけじゃなくて、色々考え込んでオーバーヒートしちゃってるのかな。
沙雪は安らかな笑みを浮かべて目を閉じた。
「ありがとう、片瀬さん。二人で無事に元の世界に帰ろうね」
自ら発した言葉が胸に引っかかる。片瀬さんは現実世界に戻っても、帰る場所がないかもしれないのに。
「明日香って呼んで」
顔を見なくても表情が読み取れる、優しい声。それはきっと、私の失言も許してくれた証と、都合良く解釈した。
「明日香、ちゃん」
「ひひっ、もーう、やっと名前で呼んでくれた! 一緒に頑張ろうね、沙雪っ!」
「うん」
返事のトーンを少し上げて不安は
きっとこれは、私たちに与えられた試練だ。私に限ってはこれまでずっと温室で育ってきた。このままお嬢様育ちでいたら、大人になって壁に当たった後の結果は非常に酷なものとなるだろう。
そう、このゲームでは私の
さて、プラス思考を維持できている間に眠ってしまおう。でないとまた……。いけない、余計なことを考えて堂々巡りになる前に、さぁ眠れ、眠れよ私、思考を止めろ。
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