第3話 私と彼の話
花坂 明
彼とは大学に入ってすぐの頃に出会った。
道を歩いていたら、いきなり声をかけられたのだ。
一瞬、転生者監理局の巡回に引っ掛かったかなと思ったが、ただのナンパだったと知って、一気に体中の力が抜けた。
その後も断ろうとしたのだが、物凄い本気の顔で「一目惚れです!、付き合ってください!」なんて言われ続けた。
結局、その押しに負けてしまい、そのまま付き合うことになってしまったのだが.....。
「へぇ、貴方.....監理局の人だったんだ」
「えっと、言ってなかったっけ?」
「聞いてません!、そもそも貴方と仕事に関する話をしたことがないからね!?」
「あははっ、僕も君が大学生だとは思わなかったよ、高校生くらいかなって思ってたよ」
彼が言うとおり、私の見た目は大学生っぽいとは、あまり言えない。
まず、体は10代で成長止まってるし、顔も童顔で、おまけに髪の毛は肩までて揃えてあるので、なおさら子供っぽく見えるのだ。
この見た目のせいで、転生者だと何度もばれかけたし、一体どれだけ苦労したことか。
おまけに.....。
「えっ?、君たちはもしや付き合っているなのかい?、てっきり親戚のお兄さんか何かだと思ったよ」
一緒にいると、必ず親子か兄妹だと思われてしまい、付き合っている恋人同士だと誰も気づいてくれないのだ。
「それで、私に何の用があって呼び止めたんですか?、教授」
「ああ、本当は君に彼を紹介しようと思っていたんだよ、でも知り合いなら話は早い.....。
村雨さん、君.....私の助手にならないかい?」
「えーっと、何言ってるんです?、私まだ学生なのですが」
「授業中の君を見ていてね、この娘なら私の助手が務まるんじゃなかと思ったんだ」
「教授、ちょっと待って貰って良いですか」
「なんだい?、花坂君」
「助手ってまさか、現場検証の助手じゃないでしょうね!」
「そうだが、彼女は優秀だから良いと思ったんだが、 何か問題でもあるのかい?」
あの~?
「問題大有りですよ!、一般人をあんなところに連れていったら大変なことになりますよ!。
それに、彼女を危険な目に遭わせるのは、僕が絶対に許しませんので」
ちょっと、聞いてますか~?。
「それなら、彼女に聞いてみれば良いじゃないか!、君だけで決めてどうする!」
あの.....。
「いいえ、絶対に駄目です!」
あっ、駄目だこれ。
完全に私の話聞いてないや。
帰ろう、このままいたら絶対に面倒なことに巻き込まれるし、この後は予定があるからね。
「ちょっと待とうか村雨さん、何処行くのかな?」
「あっ、一応こっちは見てたんですね」
「遥、聞きたくないなら聞かなくて良いから」
「.....えっと、私この後用事があるので帰って良いですか?」
「「えっ?」」
「いや、本当に今すぐ大学から出ないと間に合わなくなってしまうので、今日はこれで失礼します」
「あっ、ちょっと待っ.....」
「行っちゃいましたね」
「君が余計はことを言うからだぞ。
全く、これで現場を調べる時に少しは楽になると思ったのに」
「貴女は、いい加減諦めたらどうなんですか?。
この仕事は、基本少数でやった方が良いものですから。
彼女を入れると面倒なことになりますよ。
僕も上に絶対一般人を巻き込むなって言われてるし」
「だが、私たちには人手が足りないのも事実だ。
早急に何とかしたいのだが、流石に無理か」
「仕方ないですよ、私たちの仕事がそれ自体が機密事項ですから」
彼らの仕事、それは.....。
転生者監理局の職員と転生者分類学の専門家による。
共同捜査である。
その頃
「まずい、まずいまずいまずいまずい!、このままだと遅れる。
あの二人の話なんて聞くんじゃなかったよぉ~。
早くしないと、家に担当さんが来ちゃう!」
彼も私に言っていないことがあったようだが、私にも実は内緒にしてあることがある。
「橘さん!、もう来てますか?」
「あっ、村雨ちゃん」
「あの、ちゃんづけはやめてくださいって言いましたよね?」
彼女は橘
私を担当している編集者さんだ。
そう、私が彼...明に内緒にしているのは、私の職業が小説家であることだ。
元々、生活費が欲しくて適当に見つけたバイトをしている時に偶然友人から「君さ、小説書いてみたら?、文章構成上手いからさ」と言われて、適当に書いた小説を出版社に送った結果。
何故か気に入られてしまい、担当までつけられて執筆をする羽目になった。
「村雨ちゃん、原稿は出来てます?」
「ええ、ここにありますよ」
ペンネームは村雨。
身バレを防ぐ為にはどうしたら良いかと、一度橘さんに相談した。
下手に身バレすると、転生者であることがばれる可能性が高くなるからだ。
そしたら。
「ペンネームをわざと本名の一部にすることで、逆にわからなくするってどうかな?」と言われ、そのとおりにした。
すると、本当にばれなかった。
「ありがとうございます村雨ちゃん。
これで、上司に怒られずに済みますよぉ」
「はい、今日はもう用事はないですか?」
「ん?、そういえばあったわ!。
.....ねえ、村雨ちゃん。
一度、本当に一度で良いからさ、テレビ局の取材受けて貰えないかな?」
「はっ?」
「いや、あのね。
上司が、テレビ局に頼まれてさ。
貴女を説得して、何とか顔出しをやって貰えないかって、そう聞いて来たのよ」
「橘さん、私は最初に言いましたよね?。
絶対に私のことを他には漏らさないって、言いましたよね?。
あれは、嘘ですか?。
私は、絶対に嫌です。
お断りさせていただきます!」
私がテレビ局に取材を申し込まれるのは、これが最初じゃない。
既に3回、これで4回目だ。
それだけお願いされても、私が頑なにテレビ局の取材を拒むのは、ただ転生者であることがばれるのが嫌なだけじゃない。
怖いのだ。
自分のことを探られるのが、何故なら。
本当の私は、空っぽだから。
何一つ、本気でやりたいこともなく。
何一つ、本当に楽しいと感じることもない。
これが転生者に課せられた。
代償だから。
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