Personal memorys Place -ワタシの部屋- (1)

 月の蒼い光がカーテンの隙間からさし込んで、ベッドで眠るワタシの横顔を照らして、ワタシは目が覚めた。どうしてこのカーテンはいつも少しだけ開いているのだろう。いつもワタシの顔を月光が照らせるだけ開いていて、ワタシを起こす為なのかな。それとも、ワタシには寝ている時間なんて無いからかな。

 ワタシはベッドから出てパジャマを脱いでクローゼットから部屋着を持ってくる。この部屋は、いつも白くて、蒼くて、綺麗だからワタシもキレイにしておきたくなる。ワタシは部屋着に着替えてパジャマを畳んで仕舞うという、心に染み付いた習慣をぼうっとしたまま行っている。心にって部分がおかしくも思えるけどなぜかそう思ってしまうんだ。記憶ってアタマにも、体にも、心にもあって、私たちが生きてきた時間の中にもあるんだ、ってあの人形師が言っていた。だからこれは心にある記憶。いつも白くて蒼くって、綺麗なままで、***がいて、その幸せと共にこの部屋を愛していたという記憶。だからワタシはこの部屋が好きなんだ。


 デラヌイは夜の月の夢の世界で、ここは、ラドベルの部屋は現世と言えばいいのだろうか、月夜の世界なのだ。いつも夜で朝が来ない。カーテンを開けると白い月の蒼い光が部屋中を照らす。だからこの部屋はいつも白くて、蒼いんだ。カーテンを閉めたらこの部屋は真っ暗闇になる。まるでデラヌイの闇のよう。カーテンを閉めたことは無いんだけど、デラヌイから帰ってくるといつも閉まっていて僅かに開いているんだ。この部屋にはワタシしか居なくて、他に誰も入れないはずなのに(だってこの部屋から出る扉は見つからないし、窓も開かないんだから)。

 ワタシはぼうっとした意識のまま、ティーポットに茶葉を1摘まみ入れてお湯を注ぐ。ベッドから目が覚めるとアタマがぼうっとして、条件反射なのかな。カーテンを開け、着替えて、紅茶を飲む。デラヌイから帰ってくるといつもそうしている。熱い紅茶の薫りにうっとりしていると、ふと思い出してきた。あの白い世界、白い轟音のなかでワタシは‥‥。


 突然、1本のロウソクが妖しい青い炎を灯した。それは仲間、もしくは人形師からの連絡だった。ワタシは手の感触を確かめた。デラヌイからワタシは戻った。なら、きっとレイソウも戻れたはず。あのときレイソウが返送の魔装陣を展開していたから当のレイソウが戻れないはずがない、けどやっぱり無事を確かめたい。 

 ワタシは燭台を化粧台の鏡の前に置いた。青い灯りが鏡におぼろげな人影を映す。それはワタシのじゃない。人影は段々とはっきりしてきて、ついには鏡自身が光を放っているかのようにくっきりと浮かび上がった。青白く目の下にくまのできた不健康な顔の女性の白衣を着た上半身が鏡に映った。それはワタシたちの人形体を造った人形師だ。


「斧装式を損壊させたな、シソウ」


どういう原理かわからないけど鏡に映った人影が事務作業じみた無気力そうな声を聞かせてきた。


「意外だな、オマエがアレを助けるとは」


気が滅入る声を聞かされる内に、ワタシは顔をそらして自重するように薄笑いしていた。

 

 バカだなぁ、ワタシって。レイソウが連絡してきたと思うなんて。ロウソクごとに連絡先は決まっているのに。


「無為なことをするものだな。オマエの名を忘れたのか」


燭台を置くまでの僅かな葛藤も。心配したなんて、ばれたくないって俯いたのも。みんな、バカみたいだ。 


「シソウ。いずれすべてに死を葬る、そのときに躊躇をするような種を植えておくんじゃないぞ。躊躇は迷いからくる。迷いとは必ずしも苦しみへ繋がるものだ」


こんなとき、まともな人なら自分に泣けてくるのだろうか。いいや、きっとワタシが弱いからだ。何度も殺してきたはすなのに、いまだに愚かな希望を捨てきれていなかったなんて‥‥‥‥‥‥。


「おまえの迷いは悲劇へと繋がるぞ。その芽を、早めに刈り取っておくことだ」


絶望できればすべて楽になれるのに‥‥‥。

心を深い海のそこに沈めてしまえれば‥‥‥‥。


「未来は伝えた。あとはオマエの覚悟を決めるだけだ。もっともこの忠告も何度目になるのか‥‥‥‥」


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