月夜の外縁(3)
「そろそろ、行こうか」
誰かがそう言って、ワタシたちは暗いデラヌイの闇夜の探索を再開した。デラヌイは暗い。夜の闇に加え深い霧が立ち込めていて全く見通しが効かず共に進む仲間を見失ったら最後、霧に囲まれ負の感情でできているという「ヌイ」に心を喰い殺されてしまうって。そうなったら、この闇夜の中で永遠に自分を責め続けることになるんだって。そんなの怖すぎるよ‥‥‥‥‥。でも、実際はそうなる前にこの人形の体がワタシの魂をデラヌイから脱出させてラドベルのワタシの部屋に戻してくれるようになっていて、つまりいくつもの"ボウエイサク”が仕込まれているからこの人形の体があればデラヌイの旅は安全なんだって、あの人形師は言っていたけどこの旅に安全なんてあるわけ無いよ。だって、デラヌイの世界は「ヌイ」と言う負の感情から来たもので出来ていて、「ヌイ」はとても凶暴だから。凡庸で甘えた精神なんかはすぐに喰い尽くされて負の感情に染められてしまう。そうなったら永遠に自分を責め続けるか他人を同じ目に合わせようとするんだって。いとあわれ。ぜったいにそうなりたくないよ。だってワタシはワタシの欠片をさがしてこのデラヌイをさまよっているんだから。そうしなきゃ、ワタシが苦しめてしまったお姉ちゃんをさがし出して償うこともできないんだから‥‥。
あいかわらずレイソウは二人の少女人形に囲まれじゃれつかれている。たまにこっちに話を振ったり困ったような顔を見せてきて、どうも助けを求めているらしいけどワタシは何か心に引っかかる感情があってレイソウを見つめるだけで一言も返しもしない。嫉妬と寂しさとちょっぴりの罪悪感は負の感情だと思うけどこれらの感情がなぜかワタシの胸を暖める。人形体には心の状態に合わせて体内を巡る魔法液の循環速度や温度が変化する機能があるらしいけど、‥‥余計な機能だよね。
前を進む3体の少女人形たちのワイワイとした黄色い感情がワタシたちの周りを囲んでいて、それはこのデラヌイの闇を仄かに照らしていて、この闇夜でワタシたちの心を守るバリアになっている。ヌイの負の感情にワタシたちが影響されるようにヌイもワタシたちの感情に影響を受けるらしく、ワタシたちの感情にヌイを染めて浄化していくことでワタシたちは精神に負荷をかけることなくこのヌイの海を探索できる。デラヌイに来てからのあの「こみゅにけーしょん」や「すきんしっぷ」はこの心のバリアを張るために必要な準備運動としてやりなさいとあの人形師に言われてやっていることであって‥‥‥‥あれは人に言われたことをやってるだけなんだよ‥‥‥‥‥(やっぱり仲間って邪魔だな)。
造られた感情と造った感情。嘘つきだらけの人形たちとデラヌイの闇。ワタシはこの暗い闇夜の方が心地いい。この闇と霧世界でレイエンと永遠にふたりきりでいられたらなぁと思う。おぞましいヌイの蠢く音に耳を澄ましてだんだんと人形たちの黄色い声が聞こえなくなってくると、スーっと意識がキレイにさっぱり無くなってスッキリしたときに、ふと静かに聞こえてくるような感情があってそれはワタシにとって大事なものなんだ。このデラヌイでしか近づけない感覚がワタシが無くした何かなの?あぁ‥‥‥‥‥、ずっときいていたいあの声が‥‥‥‥‥‥。
「シソウ!」
‥‥‥‥‥この声じゃない。
「シソウったら!聞いてるの?」
あぁ、感情が消える。あの感覚が遠退いて行く‥‥‥‥。もう、やめてよ。邪魔しないでよ。ワタシの心がわからないなら近づかないでよ。イライラするの。あぁ、もうわからなくなった。感情が消えてゆく‥‥‥。時間の無駄だ。つまらないこと考えさせないでよ‥‥‥‥‥。
「シエン!見て!気づいて!」
ワタシはパッと目を開いた。そしてその事に驚いた。いつの間にか目を閉じていたなんて。レイエンが後ろにいてワタシの肩に両手を当て支えてくれている。
「レイエン?」
ワタシは顔を横に向け上目遣いに(ワタシよりちょっぴり背の高い人形の)レイエンの横顔を見る。大きな蒼い瞳には光が宿ってる。闇の中を照らして見失わない輝く意志があって、その瞳の向く方にワタシの視線がひかれる。辺りは暗く感情の差異によってできる灯りが弱まっていて、それはワタシたち4人の感情がヌイのそれに近づいているということで、ヌイの侵食からワタシたちを守るバリアが無くなりつつあるということで、フソウがヌイに侵食されて黒くうずくまっていた。
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