5 -変身解除-
今回の目的は魔犬のサンプルの確保。
何だかんだで魔素体を4体も倒してしまったが、最後のドッペルゲンガーは論外として、カサジゾウとの十字砲火でズタボロにした個体と第二形態の一撃で半壊させた個体はサンプルとして使えない。当初の予定通り、頭部のみを撃ち抜いた最初の魔犬をサンプルとする。
しかし最初の個体も倒してから少し時間が経ち始めている。急がねばならない。
薙乃は司令室に周囲の状況を確認しつつ足早に仏壇・仏具店の裏口に戻り、駒木老人から渡されたスポーツバッグを回収する。そしてその足で西側の交差点、狙撃で撃ち抜いた最初の魔犬が倒れている場所へ向かう。
交差点の端、倒れた魔犬の傍らには先程薙乃を援護したものとは別のカサジゾウが待機しており、忙しなく上半身を回転させて周囲を警戒していた。
頭部のみ消し飛んだ魔犬は、胴体は未だに魔犬としての形状を保持しているが、首筋から噴出する魔素の量から察するに、犬としての形状を保つ思惟を失うのは時間の問題だろう。
薙乃はスポーツバックを地面に置き、ジッパーを開いた。
中から取り出したのは、人間の頭部位の大きさの、麦わら帽子と一体になった布に包まれた球体。
案山子の頭部である。
布の内側には大量の藁が詰められており、くいと持ち上げられた三度笠の鍔の下からは丁寧にへのへのもへじで顔が描かれている。
駒木曰く、この案山子の頭部は、かつての豪農の蔵屋敷に保管されていた百年以上前のもので、半ば付喪神に近い性質を得ている(らしい)。
ハッキリ言って、薙乃としては未だに胡散臭さは拭えないが、駒木の持論や仮説が『魔素』という正体不明かつ無軌道な存在と向き合うためのブレイクスルーになってきた事も動かし様の無い事実なのだ。薙乃は案山子の頭部をスポーツバックから恐る恐る取り出し、地面に倒れた魔犬の失われた頭部の位置に近付ける。
魔犬の傷口に案山子の頭部の根元を間近まで近づけた時、不意に獣の傷口から漏れ出ていた魔素が首の根元に滑り込み、案山子の首の根元からも黒い魔素の粒が漏れ出始めた。
薙乃は思わず手を放し、後退った。急に引っ張られる感触を抱え持った案山子の頭部に感じたのだ。
頭部の根元と魔犬の傷口から漏れ出る魔素の量は加速度的に増え、その性質も粒のようなものから収束し、繊維状のリボンのような形状になり、なんとお互いが混ざり合う様に絡まり合い、繋がってしまった。
カサジゾウも、カメラを魔素体と案山子の頭部に向けつつ、鋭い駆動音と共に後退した。
三度笠をかぶったへのへのもへじを新たな頭部として得た魔犬の身体は、ゆっくりと立ち上がる。立ち上がるというより見えない力で頭から引っ張り上げられている様な不自然さで直立する。魔犬の身体の構造も変形している。最早犬の形状でも類人猿の形状でも無くサイズはその中間、丁度人間に近いフォルムとサイズに膨れ上がった。しかも前脚だった部位は左右に真っ直ぐ開かれ、肉体で十字架を描くようなポーズを取った。
やがて魔素体の変形は終了、両腕を広げて直立するそれは身体は全身黒で体毛を思わせる繊維が表面に波打ってかつての魔犬の性質を残しているが、頭部には三度笠を被り布と藁でできた頭に文字通り『への字』の仏頂面を浮かべている。
魔素体を材料とした案山子が完成してしまった。
駒木曰く、肉食獣の死肉というものは害獣避けとしては一般的なものとの事。肉食獣の肉を焼いた物を田畑の周囲に吊るしておく事で他の獣の嗅覚に訴えて近寄らせないようにするのだ。案山子の『人間が居るように見せかける』というコンセプトとは若干ずれているのだが、害獣避けという用途の一致から案山子の素材としてはそれ程悪くないらしい。そして、この『コンセプトの微妙なずれ』というのが重要らしく、魔素体がもっと案山子の材料に適した性質を持つものだったら、付喪神である案山子の頭部に完全に取り込まれて、魔素で作られた木か藁の身体を持ったただの案山子が完成してしまう。『犬』という案山子の材料として余り適していない材料だからこそ、頭部を失った魔犬と胴体を欲しがる案山子の頭はお互いの存在を自身に込められた思惟によって完全に侵食する事を叶わず、『魔犬の身体を材料にした案山子』という不気味なオブジェが完成する。案山子の材料の立場が強要され、動けなくなった魔犬のサンプルを手に入れる事が出来る、という訳だ。
薙乃とカサジゾウはそれぞれに、交差点の中でそそり立つ黒い案山子を凝視し、不意に動き出さないか、異常が無いかを観察した。
この、対象の魔素体に込められた思惟を利用しつつ、別の魔素体に作り変えるという行為は、付喪神化した案山子の頭部の変身能力に指向性を持たせ、周りの魔素や道具を取り込んででも案山子としての役割を堅持するように『設定した』ものらしい。設定、というのはつまり人間の思惟の固定化と具体化。データや理屈、論理や伝承の束を『呪文』とし、魔素のより明確な役割を与えるもの。
そんな事が可能なのか? 薙乃は駒木からこの計画を訊かされた時思わず口にしたが
「魔犬を作っている連中と同じ事をするだけだからね。僕らに魔法を使えない道理はないよ」
と返された。
民俗学者・駒木
薙乃は仮面越しに天を仰いだ。相変わらず無人哨戒機が優雅に空を舞う。
若者達が戦闘ロボットを操り、老人は魔法を使う。時代の変化に怖気を感じているのが自分だけではないと信じたいものだと、薙乃は思った。
「事前調査では、あのペットショップの中には魔素体が居なかった事が確認されています」
無線の先から司令官の少々萎縮した重々しい声が響いていた。
「ふむ。となるとやはり魔犬とドッペルゲンガーは二階に潜伏していたという事か……」
ガンケースにアサルトライフルを仕舞った薙乃は、行きに乗ってきたトラックの荷台に座り、仮面の無線で司令官と会話をしていた。
「恐らくは。やはり作戦領域内の建造物は全館を査定する必要があるという事でしょう」
「まぁ、甘い見通しで一番痛い目をみたのが最高責任者本人だったのだから不幸中の幸いという所だろう」
「恐縮です。
……ただ、前例が出来てしまった時点で対応策は必要になります」
「ふむ……」
IKセキュリティの『基本的な』業務内容のひとつは、魔素体浸透域に於ける偵察と安全確保である。魔素体に侵攻された地域に魔素体の動向を感知する各種センサーを取り付けたモニタリングポストを設置する自衛隊の仕事をバックアップ(場合によっては設置業務そのものを受注)するのだ。
「で、現時点で可能なのか? 建物の二階を調べる事は?」
……これまでの安全確認に於いて、建物の二階より上に関しては無視されてきた問題なのだ。スタッフの安全確保にプライオリティを置いた上での哨戒機と戦闘ロボットを中心とした安全確保では調査可能な範囲に限界が出てきてしまう。入り口が締め切られた建造物に関しては最初から調査から除外されているのだが、出入り可能な建物に関しても、犬の姿をした怪物が用も無く階段を登ったりはしないだろう、という希望的観測を元に二階は調査されてこなかった。その点については取引先である自衛隊サイドにも了承を得ていた。だが、想定していない事態が実際に起こってしまったなら、今まで通り無視するという訳にはいかない。
「上層階の調査にはドローン搭載型のカサジ……、BM3-2が使用可能でしょう。ただ現場で現在運用されている数には限りがあります」
「『本社』に発破を掛けるか……」
……トラックの外のスタッフ達の動きが騒がしくなり始めた。どうやら『荷物』の積み込みが完了したらしい。
二、三言葉を交わした後、薙乃は通信を切り上げた。後日細かい詰めの話になるだろうが、(表向きでの)現場業務は元自衛官三佐である司令官に一任してある。必要なら意見を言う程度が自分の仕事だ。いや、もっと異質な、別の『仕事』が薙乃を待っているのだが。
「ふー、よいしょっと」
幌の外から、別の仮面の人物が荷台によじ登って来た。
「済んだか?」
「ああ、滞り無く。魔犬の身体は上手いこと案山子になってくれていたよ」
そう言いながら薙乃の向かいに座り仮面とヘルメットを外したのは、駒木だった。薙乃も被っていた仮面を外した。
「ただ、やっぱりプロの動きは手際がいいねぇ。ぱっぱっぱーと魔犬にワイヤーを掛けてクレーンで吊るんだよ」
「事前に予行演習していたらしい」
「ああ、なるほど。まぁ、そうだよね」
魔犬を案山子に変えた事が確認されると、すぐさま薙乃を連れてきた車列が交差点にやってきた。そして自称魔法使い・駒木老人の確認の元すぐさまクレーン車への魔犬積み込みが始まった。社内でも存在が機密扱いになっている薙乃は先行して到着していたトラックの荷台に引っ込んで待機していたのだ。
「いやー、しかし災難だったねぇ。あんな数の魔素体が隠れていたとは……」
「……作戦領域内の建物の上層階の調査の省略は私も了承していた。自業自得だよ」
「……『変身』の方は、保てるのかい?」
「コンパクトの光量を確認した。晩までは持つ」
「ほんの一瞬あのドレス姿になるだけで半日分の変身時間を消費してしまう訳か。凄まじいねぇ……」
「凄まじい、が実戦に耐え得る水準とは言い難いな」
「なまじ、東京のシフト・ファイター達を見ちゃってるからねぇ」
薙乃は小さく溜息を吐き、纏めたポニーテールの乱れを手櫛で整える。滑らかで繊細な感触を指に感じながら、『少女性の追求』について考える。自分は確実に前進しているのだ。前に進んでいるからこそ今日の成果もあるのだろう。しかし、この前進は、本当に自分が行き着くべきゴールに続いているのだろうか? そして続いていたとしても、それが途方も無い遥か彼方のように思えてならない。横道に逸れに逸れて妥協に妥協を重ね、全く関係の無い結末に辿り着き残った物が無数の下劣な嘘、などという事になりかねない気配がして、居た堪れない淀んだ不安が、常に薙乃の脳裏の底に横たわっていた。それは前に進めば進むほど、行動の大胆さとその成果の薄さのギャップによって蓄積されていくようだった。
「まぁ、とにかく魔犬を調べてみようよ。敵と思しき相手の正体に繋がるかもしれないしね」
薙乃の心の澱みを知ってか知らずか、駒木老人は努めてお道化て口にした。
夕闇が迫り始める頃、IKセキュリティの車列の一団は、行きと同じ道筋を辿って帰路に着いていた。ただ、行きと違い、車列の真ん中を走るクレーン付きトラックの荷台にシートが張られていた。
一団は蛇行する山道を超え、自衛隊の検問へ。トラックから降りた輸送隊の隊長による数分間の手続きの後、隊長はトラックの助手席に戻り、何事も無く車列の走行は再開された。
「信頼されているんだねぇ……」
十分に検問から離れた辺りで、駒木がまた、感心したように呟いた。
車列はしばらく荒れた田畑が広がる幹線道路を進むが、次第にその風景は変化を始める。点在する家屋には生活の明かりが灯ったものが徐々に増え、田畑もそれに併せきちんと手入れされたものが目立つようになってきた。山々と自衛隊、そしてモニタリングポストの障壁に守られた人間の生活圏に戻ってきたのだ。
「……そう言えば
そんな外の光景の変化を察知できない幌の中の駒木は、場繋ぎ的に薙乃に話し掛ける。
「まだ決定的な事は何も。両親の経歴については途中経過である程度訊いたが」
「どの程度掛かるものなんだろうね、そういう調査って?」
「さてな。アイツは急かすとヘソを曲げるからな」
「ああ……。そういう所あるよね」
農地広がる国道の中で不意に、車列が二手に分かれた。装甲車二台と薙乃と駒木が乗っていない方のトラックが左折し、農村の中に場違いに鎮座する巨大な倉庫を擁した建物へと向かっていった。残りの二台、薙乃達が乗るトラックと戦果を乗せたクレーン付きトラックは真っ直ぐ幹線道路を進む。
田園風景はやがて町並みになる。夜の帳が降り始め閑散とした道路をしばらく進み、二台は脇道に曲がり、町の中心から離れる。
また田畑と農家が混在するような道をしばらく進むと、やがてひときわ圧迫感がある高く長い塀が現れた。瓦屋根が架けられ人の背よりも高い威圧的な土塀は左右に延び、中央に立派な門を構えている内側に広い敷地の屋敷が存在することを示唆する。そしてその土塀の囲いの先には、郊外の田園風景然とした景色から完全に浮いている真新しい倉庫のような建物が鎮座している。二台のトラックは土塀脇の道を横切り、郊外の土地を利用した非常に大きな倉庫へと向かっていった。
『IKセキュリティ資材倉庫』
という看板が掲げられた入り口に二台は入り、それと共に倉庫のシャッターは鉄が軋む音を立てて降り始めた。
倉庫の天井は高く眩い照明が夜の闇に落ちる間際の倉庫内の明暗を色濃くする。倉庫の両端には数台のトラックが停車されているが明らかに広いスペースを持て余し気味だ。そして入り口の真向かいには箱型の建物があり、今、鉄の重厚な扉がゆっくりと開いている最中。トラックも搭乗可能な地下へのエレベーターである。
薙乃と駒木とを乗せたトラックは倉庫の端に駐車し、魔犬を乗せた大型トラックはそのままエレベーターの中に入って行った。
薙乃はトラックの荷台から降りた。駒木もそれに続く。
「……私は帰るよ」
薙乃は駒木に向き直り、微かに疲労を滲ませながら口にした。
「ああ、変身も限界だろうしね」
「お前はどうする?」
「ああ……、あー、僕は地下に行って魔犬の状態を再度固定したいね。地下で暴れ出されても困るしね」
「ふむ……」
「まぁ、改めて魔素体を間近で見たいっていうのもあるしね」
駒木の表情には、長時間トラックの荷台での移動で蓄積した疲労が見て取れたが、それ以上に、新しいおもちゃの包み紙を開ける直前の子供の様な高揚感が見て取れた。
「……程々にな」
二人はそこで分かれる。
薙乃は倉庫の端の地下へと続く階段を下った。コンクリートの狭い螺旋階段を四階まで下ると、倉庫の中央とは反対側に向いている扉を開いた。その先には全面コンクリートの狭い地下通路がまっすぐ伸びていて、天井には等間隔に換気扇と蛍光灯が備え付けられている。薙乃はその道をまっすぐ歩き、その突き当り、エレベーターの扉へと行き着いた。
エレベーターで上の階へ。停止し扉が開くと、白い土壁が行く手を塞いでいる。薙乃はその壁を押し開き外に出る。
出てきた場所は日本家屋の廊下である。床は板張りで、左右に閉じられた襖が見て取れる。
エレベーターの出入り口を塞いでいた壁は隠し扉になっていて、また閉じてしまうとエレベーターの入り口は隠され、ただの白い土壁にしか見えない。忍者屋敷みたいなものだ、面白みを感じないと言えば嘘になる。
「お帰りなさいませ、会長」
隠しエレベーターの出入り口に敷かれていたマットの上でブーツを脱いでいると、落ち着きのある女性の声が薙乃に掛けられた。
「ああ、ただいま」
薙乃はやはり、若干高圧的な口調でそれに応えた。
薙乃の眼の前には、薙乃より年上、30台前後の女性が立っていた。理知的で整った顔立ちの女性で、肩口で切りそろえられた髪で、白のワイシャツと黒のパンツとヒヨコのファンシーなキャラクターがプリントされたピンクのエプロンという、『仕事から帰って来て大急ぎで台所に立ったOL』然とした服装で薙乃を出迎えた。……家事の手伝いは秘書の業務から逸脱しているのだが、率先してやっているものを辞めさせるのも無粋に思えるので、薙乃は何も言わない事にしている。
「お風呂の準備が出来ています」
「ああ、わかった」
「あ、駒木先生はどうなさるんです、夕食は?」
「……それは訊かなかったな」
「わたしの方から訊いておきます」
「ああ、頼む」
ブーツを頼む、と言い残し板間を歩いて夜の闇ですっかり暗くなった屋敷の奥に入って行った。
じっとりとした蒸し暑い空気が浴室の入り口から漏れており脱衣場でもそれを感じ取れた。
砂埃にまみれた戦闘服を脱ぎながら改めて、今日という日に自身が体験した、というか行った所業を思い返すと、眩暈がしそうだった。ただ、それですら精々スタート地点でしかない。……とにもかくにも、今日という日は終わった。次に進むしかないのだ、もし自身に続く者が現れたなら、その誰かに少しでも多くの物を残せるようにするために。
戦闘服の下のスポーツウェアの様な長袖の上下のインナーと下着も脱ぐ。そして髪を纏めていたゴムバンドに手を掛け、ポニーテールを解く。しなやかな黒髪が肩や背中や頬に流れ、肌を否応無くくすぐる。
薙乃は胸元に右手を当て、鎖骨の根元の辺りから何かを引き摺り出そうとするように皮膚をつまむ。すると、指先が胸部の内側から『何か』を引き抜いた。泥の沼から引き上げるように硬質な白い塊をずるずると取り出すのだ。
それは白いプラスチックの質感のコンパクト。ケースには、華とも炎とも付かない
躍動する藍色の意匠が施されている。
薙乃はコンパクトを開いた。持ち上げた蓋の方には小さな鏡が付いていたが、掌に載せた底の方には本来あるはずのファンデーションは無く、代わりに、仄暗い蒼い光が滲み出るように弱々しく灯っていた。
「シェイプ、リストア」
薙乃はぼんやりしたその光を眺めながら、重苦しい声で呟いた。
不意に、薙乃の身体から、昼間にドレス姿に変身した時と同じような藍色の炎が、全身から湧き上がった。しかしそれは脱衣室に燃え移る事無く、瞬く間に消え去った。
そして炎が消えた後に立っていた人物は、長身の少女の姿では無く、一人の老人男性だった。
年齢は六十代後半から七十代前半、身体の節々には深い皺が刻まれているが、背筋がピンと張り姿勢が良く、皮膚の張りと筋肉まだ残っており、立ち姿から衰えは感じられない。
髪は先程の黒髪など見る影も無い短い白髪。顔には緩みが無く、深く皺が刻まれた貌は苦渋を噛み殺す様に鋭く張り詰めた表情をしている。そして、眼差し。重々しく鋭い、行き過ぎる艱難辛苦を耐え忍んできたような眼差しだけは、先程まで同じ場所に立っていたはずの鶴城薙乃と非常によく似た、いや、全く同じと言っても差し支えない程同一の印象を見る者に抱かせる。
老人の指がコンパクトを閉じる。そして自身の着替え、男性物の寝間着の浴衣の内側に心持ち隠す様にコンパクトを仕舞った。
老人は自身の両掌を胸の辺りに掲げて広げる。
ちゃんと老人の、潤いも張りも無い皺の入った自分の掌だ。
老人は自分の両手を確認した後、小さく溜息を吐き、浴室への扉を開けた。
……こうして、『鶴城
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます