闇に光る白髪4
『どういうことなんだ!』
腹の出た五十手前の男が、テーブルに拳を振り下ろしながら叫ぶ。
怒りで震える肩は大きく上下して、顔も真っ赤に染まっている。
『き、貴様……何をしたかわかっているのか!』
太った男は唾を机の上に撒き散らすほどの勢いで叫び続ける。
冷静さの欠片もない本物の激情だった。だが、そんな一方で怒りの矛先であるフィズと呼ばれた男はどこ吹く風といった様子だ。
『何をしてもいいって言ったから俺は『ホワイト』を確認できる方法を考えて実践したわけですよ。それに『ホワイト』の戦力まで把握できたんですし。文句ないでしょ?』
『大ありだ! あれらは『ホワイト』と戦う時のために温存しておいた怪物たちなんだぞ!? それにほとんど残ってない魔力まで盛大に使い散らしやがって!』
そう言って、再び勢いづいた腹の出た男だが、その怒りを向けられた金髪のフィズは涼しい表情で腹の出た男と向き合っている。
『いやいや、ボスは『ホワイト』を探せって言ったから僕はあえて怪物を解き放ってみただけですよ。怪物が現れたら『ホワイト』は絶対来ると思って……。事実来たでしょ?』
またしても太った男が机を叩く。
軽くヒビが入りそうなほどの威力だが、それでも男の拳も机もギリギリで堪えており、机の上の書類を吹き飛ばすに止まった。
フィズはそれでも気にしないとばかりに太った男に話そうとして、やめる。
『おいおい、怖いな……穏やかに行こうぜ』
『黙れ』
正面に座る銀髪の大男。その右手がフィズに向かって突き出されていたのだ。
その手のひらの前には淡く光る紫色の魔法陣。完全に攻撃態勢だった。
フィズは流石にやばいと思い、少しひきつった笑顔を浮かべながら、目の前の男に向き直る。
『落ち着けよグラッド。お、俺にも俺なりの考えがあってだな――』
『ほぅ、話してみろ』
『ここいらで『協力者』に対しての情報を落とさないとまずいんだよ。ただでさえ最
近本国の連中が積極的にこっちの世界へと進行してくるのに、このままじゃいつまでたっても俺らは帰れねぇし……』
『それで?』
『だ、だから。『ホワイト』を止めるって意味でも『協力者』を……と、とりあえず魔法を解けって。お、落ち着いて話せないだろ?』
『ふむ……なるほどな――死ね』
『な……』
グラッドと呼ばれた男が、突き出した五指を握り締めると、それに呼応するかのように魔法陣の光が強くなる。
そして、次の瞬間フィズの様子が一変した。
『あ、ああ……あああアあああァァぁぁアアア!』
まるで、服の内側に突然何かが現れたかのように体中を掻きむしりながらフィズはのたうち回る。ボリボリと勢いよく顔も掻きむしり、盛大に出血する。
おぞましい光景が広がる中、しかしそれを眉一つ動かさずに見守るトレーラー内の男女。
やがて、一人の女が立ち上がったかと思うと、こちらもまた五指を突き出して、魔法陣を淡く光らせる。
『お疲れ様、フィズ。あなたはもう用済みよ』
そう言って、女は赤色の魔法陣を光らせると、フィズがいきなり炎に包まれた。
『あああああああああああづぁぁぁldなあっだおいjふぁおいえんふぉあだああああああああああ!』
奇声を発し、のたうち回るフィズ。
だが、それも太った男が張った結界のせいで動きが阻害されて動けない。やがて、フィズはぷつりと糸が切れたかのように動かなくなって、死んだ。
『……』
しかし、先程まで同じ車に乗っていたはずの仲間たちはそれをなんとも思っていないかのような視線で見下ろす。まるで、ただ死にかけの虫が道路の端で必死にあがいているのを見るかのような、冷たい眼差しだった。
やがて、グラッドと呼ばれた男が「……ボス」とだけ言うと、太った男は思い出したかのように机へと座り直す。
『すまない、取り乱した。……ウホン、とりあえずフィズの死体は再利用だ。後で怪物化させるぞ』
『了解しました。あとフィズのせいで残りの魔力がかなり大幅に減ってしまいしましたがそれはどうしますか?』
水色の髪がフードから除く女が尋ねる。
『そうだな、とりあえずそれはここらで調達するしかないだろう。本国の侵攻に紛れてちょっとずつ魔力の高い人間を回収していくぞ』
『了解しました』
『あと、『ホワイト』の戦力分析はしておけよ。あとは……『協力者』か。正直やつの脅しもいつまで持つか信用ならんのだが……』
『ですが、いざという時に時間を稼げる程度の魔力は保有しております。それを考えると……』
『まだ危ない橋を渡るには早すぎる、か……よし。ならそっちの調整はしておいてくれ』
『了解』
ボスと呼ばれた男は水色の髪の少女にそれを頼むと、ゆっくりと椅子に座り直した。
『私たちは絶対に本国へと帰還する。そのためには手段を選ぶな。まずは魔力調達の邪魔になる『ホワイト』を止めるんだ、いいな?』
そういってボスが全員の顔を見て尋ねると、キャンピングカーが揺れるほどの勢いで、全員が大きく肯定した。
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