なな

 そうして何も進展しないまま、クリスマスイブがやってきてしまった。


「今日が最後か」

「ごめん。でもずっとうちの家にいてもいいからね」

「ありがとう」


 こんなやり取りを二人はずっと続けている。

 涼子も諦めぎみで、トナカイでもしょうがないかあとそんな気持ちになってきていた。

 とりあえずナルミの家は快適で、ご飯も犬食いだがおいしい。

 漫画も小説も、スマホをいじっていないのに、前よりも充実している気持ちはしていた。

 ナルミと一緒に過ごして、どうでもいいことを話して1日が終わる。

 それが楽しく感じられていた。


「今日は来ないの?」

「うん。今日は家でゆっくりするんだ」

「そう。つまんないなあ」


 ナルミはクラスメートの子にクリスマスパーティーに誘われていたけど断り、涼子は複雑な心境に陥っていた。


「参加しないの?」

「うん。一緒に家で映画みよう。DVD、面白そうなもの借りようよ」

「うん」


 涼子はナルミの返事に頷くが、もやもやとした気持ちはなくならない。


「やっぱり参加してきなよ。私は家で待ってるから」

「涼子ちゃんが行くなら、行くよ」

「私は嫌だなあ。家でゆっくり映画みていたい」

「じゃあ、私も」

「だから、それがおかしいって。ほら、もしかしたら友達になれるかもしれないでしょ。行って来たら?友達になってくれたら、私だって人間に戻れるし」


 涼子が何度もそう言って、ナルミは彼女と一度家に帰ってから、クリスマスパーティーに行くことにした。


「じゃ、行ってくるけど。早く帰ってくるから」

「ゆっくりと。友達作ってきてね」


 妙なやり取りをしてから、ナルミは渋々出かけて行った。

 足を使って器用にリモコンを操作して、涼子はテレビをつける。ナルミの家には映画チャンネルが入っていて、彼女は早速見ることにした。

 1時間ほど過ぎてから、クリスマス映画が始まり、サンタクロースが登場する。すると、それは見覚えのある、あのサンタで涼子に向ってにやっと笑った。


「え?何?」

「ホッホッホ。小原ナルミちゃんから君へのプレゼントだ。来なさい」


 テレビの画面から手がにゅっと伸びてきたかと思うと、足をつかまれた。


「ひいい~~」


 無駄な抵抗も意味なく、涼子はテレビの中に連れ込まれた。


「ここは?」


 テレビの中に入ったと思ったらまばゆい光がし、涼子は眼を閉じた。そして開けると真っ暗な場に移動させられていた。


「涼子ちゃん!」

「え、小原さん?!」

「どうして、涼子ちゃんを」

「ホッホッホ。本人に話さず決めてしまうことはいけないよ」


 状況がわからない涼子の前で二人は何やら言い合いをしている。


「涼子ちゃん。おめでとう。君は人間に戻れるよ。だけど、代わりにこのナルミちゃんがトナカイになることになる」

「ど、どういうこと?」

「ナルミちゃんの願いが変わったんだ。君を人間に戻したいということだ」

「はあ?そんな願い私は願いさげ。だいたい、小原さんがトナカイになったところで、うちには住めないよ」

「大丈夫。私は自分の家に」

「透明になっちゃうんだよ?どうやって家に入るの?」

「カードが」

「カードだけが浮いていたらおかしく思われるよ。事故にあったらどうするの?」

「それは……」

「そんな願いはだめだよ。私はトナカイのままで、小原さん家に住むからいいの」

「え?いいの?」

「だって、小原さんの家、居心地いいもん。一緒にいたら楽しいし。楽だし。それで」

「本当?私と一緒にいて楽しいの?」

「うん。本当。初めて親以外の人と一緒にいて安心できるの」

「嬉しい。私もそう思っていたんだ。だけど、私のせいで、元に戻れないなんて」

「大丈夫。だって、友達って作るの難しいもん」

「ホッホッホー」


 サンタクロースが大きな笑い声をあげた。


「なんだ。すっかり二人とも友達じゃないかね」

「え?」

「嘘?」

「一緒にいて楽しい。安心する。それが友達っというものだよ。まあ、若干微妙なところもあるけどね」


 サンタクロースが指を鳴らし、涼子の体が光に包まれる。

 光が止んで一気に外気の寒さにさらされ、ジャージ姿の彼女はぶるっと震えてしまった。


「涼子ちゃん!うわあ。本当に、柱木涼子ちゃんなんだね」

「え、うん。えっと初めまして?」

「ははは」

「さあ、君たちの願いは叶えたぞ。僕は次の子供たちのところへ行く。それではメリークリスマス!」


 立派なそりが空から降りてきて、サンタクロースが乗り込む。


「本当にサンタクロースだったんだ」

「本当に……、こんな性悪サンタクロース」

「涼子ちゃん!」

「何か言ったかね?」

「いいえ、何も」

 

 涼子は慌てて首を横に振る。


 どこからか鈴の音が聞こえてきて、サンタクロースは「ホッホッホー」と朗らかな声をあげ空高く昇っていった。


「くっしゅん!」

「はい。これマフラー」

「ありがとう」


 ナルミからマフラーを受け取り、涼子は首に巻く。


「さあ、家に帰ろう。凍えちゃう」

「そ、そうだね」


(実家に帰るのは明日でいいかな)


 少し親不幸だと思いながらも、あともう1日我儘を聞いてもらおうと涼子は思う。


「涼子ちゃん、私たち友達なんだよね」

「う、うん」

「だったら、ナルミって呼んでよね」

「うん」


 ナルミは腕を絡めると歩き出した。

 女子同士でちょっとおかしいかなと思いながらも、涼子はその暖かさに感謝しながらその隣を歩く。

 

 クリスマスイブの夜。

 サンタクロースは子供たちの夢を叶えるべき、世界を飛び回る。

 鈴の音を響かせ、朗らかに笑いながら。

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メリーメリークリスマス♪ ありま氷炎 @arimahien

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