よん

 テーブルの上にはコンビニの弁当がのっている。

 だが、トナカイの姿の涼子には箸が持てない。


「……床に置いてもらってもいい?」

「大丈夫?」

「うん」


 お腹を空かせていたが、外で食べるわけにもいかず、ナルミの提案で、彼女の家でご飯を食べることになった。

 悪いと思いながら、コンビニでお弁当を買ってもらい、レンジで温めるまではよかった。


 トナカイの涼子は少し悲しくなりながら、犬のように床に置かれたお弁当を食べている。最初は恐る恐るだが、一口食べると止まらなくなり、がつがつと食べ続けた。


 はっと気が付いて、顔をあげるとナルミが凝視していて、涼子はあまりの恥ずかしさにいなくなってしまいたくなった。


「み、見てないから。うん。さあ、私も食べよう」


 明らかに嘘くさく言いながら、ナルミはテーブルに置かれたコンビニ弁当を食べ始めた。


 ナルミのマンションはセキュリティーのしっかりした高級感漂うものだった。一階には警備員がいて、エレベーターのパネルにカードを読み取らせると、自動的に彼女の部屋のある階を表示し、停止してくれるハイテク溢れるマンション。

 不釣り合いのコンビニの袋を手に、彼女は涼子を気にしながらエレベーターを降りて、部屋の前に到着する。

 そこでもカードを差し込むと、扉が開く形式だった。

 マンションというよりもホテルという言い方がしっくりとくる。


 部屋は洋式で、床は木製のフローリング。ソファは布製、カーテンも同色クリーム色で、飾りっけのない部屋だった。

 台所、リビングルーム、寝室、ユニットバスの作りで、涼子は緊張しながら、部屋に入った。

 コンビニ弁当の香りと食欲に負けてがつがつと食べてしまったが、涼子は食べ散らかしてないか床を確認する。いわゆる犬食いであったが容器以外は汚れておらずほっとした。


「何か飲む?器にいれればいいよね?」

「うん。ありがとう」


 あの食べ方まで見られたのだから、涼子に遠慮はなくなっていた。その分、ナルミの願いを叶えなければと使命感に燃える。


(容姿も整っているし、頭もよさそうだし、家もすごい立派だし。願いってなんだろう?)


「麦茶にしたよ。熱いものだめそうだから」

「ありがとう」


 器を床に置くナルミを涼子は見上げる。


「あのさあ、願いって何?」

「ああ。それね。叶えないといけないもんね。ははは」


 ナルミはどうも胡麻化そうとするように笑った。


「私が叶えられそうなものって、まったく想像がつかないんだけど」

「うーん。私もわからない。そうやって叶えるもんでもないんだけど。でも叶えないと元に戻れないんだよね」

「うん。そう。だから、教えてください」


 涼子は麦茶の入った器から口を離し、姿勢をあらためてナルミを仰ぐ。


「私の願いは、友達ができることなのよ」

「え?そんな簡単じゃ。っていうか小原さん、友達いたじゃない」


 あまり把握していないが、ナルミは涼子と違ってクラスで浮いた存在ではなかった。

 反射的にそう答えてしまい、後悔する。

 思った通り、ナルミは眉を潜めて涼子を凝視している。


「リョウ……なんで。そういえば、クラスメートに……」


(あ、うわ。やっちゃった)


 ナルミの表情が徐々に変わっていく。

 それが見たくなくて、涼子は俯いてしまった。


「名前はリョウ、女の子、17歳……。もしかして、あなた、柱木涼子さん?」


(ばれてしまった。わかるよね。声変わってないし)


 恐る恐る顔を上げると、ナルミは腰を落として、刺すように涼子を見ていた。

 

(怒ってる?やばい。どうしよう)


「答えないってことは、正解ってことね」


 ナルミは黙ったままの涼子に興味を失ったように再び立ち上る。


(やっぱり怒ってる?!どうしよう。こんなんじゃ、願いをかなえるなんて無理。友達なんてなれるわけがない!)


 動揺する涼子を尻目に、ナルミはリビングルームからいなくなってしまった。

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