ご
「友達になりましょう」
しばらくして戻ってきたナルミは、涼子にそう言った。
「えっと、はい?」
「あれ?戻らない。おかしい」
ナルミが真顔でそんなことを言ったので、涼子は笑い出してしまった。
「友達になりましょうで、友達になるなら、世の中の人みんなすぐ友達になれるって」
「確かにそうだよね」
(そう、友達ってそんなに簡単になれないよ。大体、私には友達がいない。クラスメートは知り合いであって友達ではない)
「じゃあ、どうしようか。涼子ちゃんが人間に戻れないってこと?」
(涼子ちゃん、そう来たか)
そんな呼ばれ方親戚にしかされたことないと、寒気を覚えつつ、涼子はナルミを仰ぐ。
怒ってるかと思えば、そんな感じではなくて、彼女はほっとした。
(だましていたことになるからね)
「あせらないの?」
涼子があまりにも冷静だったのか、ナルミがちょっと苛立った声をあげる。
「いや、あせってるよ。このまま一生透明トナカイとか最悪だし。でも、友達になるのは難しそうだから」
「そうだよね」
ナルミはそう一言を言うと黙ってしまった。
随分雰囲気を変えてしまった彼女に涼子は戸惑ってしまう。
(クラスメートだってわかる前はあんなに親し気だったのに。まったく話した記憶がなかったけど、もしかして嫌われていたのかな。っていう、それだったら、もうおしまいじゃない?)
「……友達になれると思ったのになあ」
「え?」
ナルミが漏らした言葉に涼子は反応する。
(どういう意味)
「私をまったく知らない人だったら、友達になれると思ったの。涼子ちゃんなら、私のこと知ってるから、もうだめでしょ?」
「……どういう意味?っていうか小原さんのことなんて私ほとんど知らないけど」
「え?っていうか小原さんって言い方に戻ってるね。まあ、いいけど。涼子ちゃんは、私が頭がよくて、顔もよくて、性格もいいって知ってるでしょ?」
(えっとこれは、なに?自慢してるの?)
涼子が答えないと、大仰にため息をつく。
「私がクラスメートに見せている姿はぜーんぶ嘘。頭がいいフリするのも面倒だし、顔をよく見せるために化粧をするのも、性格いいフリするのも、本当は嫌なの。友達みたいな人ならたくさんいるけど、みんな本当の私を知らないし、なんか一緒にいても疲れるよ」
涼子は黙って彼女の独白を聞いていた。
フリと言ってるけど、涼子はクラスの中でそんな風にふるまっているナルミと話したこともなかったし、正直透明トナカイになってから話したナルミのほうの印象が大きい。
「あの、知ってると思うけど、私クラスで全然目立ってなくて、殆ど誰とも話したことないんだ。だから、よくわかんないんだけど、小原さんは別にフリなんかしてないと思うよ。だって、私がこの姿になってからはフリをしていなかったわけでしょ?でも、小原さんは、私を助けてくれたし、親身にもなってくれた。とんでもない存在の私を信じたりしたでしょ?だから、フリなんて思えないけど」
涼子は思ったことを口にしたつもりだった。
すると見る見るうちにナルミが顔色を変える。
「ああ。もうフリがフリじゃなくなっているの?そんなことしたくないのに。本当に嫌になる。私は一生そうして生きていかないといけないかな。友達もできず」
「いや、だから、意味わかんないんだけど。フリじゃないし、友達もいっぱいいたでしょ?」
「フリなの全部。愛想なんて振りまきたくないし、本当は誰とも話したくなかったの。だから涼子ちゃんがうらやましいなあと思ったこともあった。いっつも一人で平気そうだったし、何があっても無表情ですごいなあって」
(それは褒められているのか、どうなのか?)
「一人って、一人になるのは簡単だよ。一人になりたければ一人になればいい。誰にもかまわず。それなのに友達が欲しいっておかしくない?」
「だって、寂しいもん。一人って」
「意味がわからないよ。寂しいと思うなら人と一緒にいるしかないよ。そしてそれが友達なんでしょ?」
「わからない。無理に自分を作って一緒にいてもらうのが友達なの?」
「うーん。私はわからない。友達なんていなかったから」
(そう、いつも一人だったなあ。寂しいと思ったときは本を読んだり、スマホいじったり)
「涼子ちゃんは強い」
「強い?全然だよ。人といるのが面倒なの。気にするのが」
涼子が溜息とともにそう言って、二人の会話が途切れる。
沈黙が訪れ、それを破ったのがナルミのくしゃみだった。
「暖房いれないと、私は毛皮があるけど、小原さんは寒いでしょ」
「そう、そうだったね」
鼻をすすって、ナルミはエアコンの暖房のスイッチを入れた。
その動きを見ながら涼子は考える。
この調子では涼子はナルミの友達になれないだろう。
でも、彼女の願いは友達を作ることだ。
涼子と友達になることではない。
「小原さん。私はいいことを思いつきました」
「涼子ちゃん、突然どうしたの?」
「小原さん、友達を作りましょう。いや、フリをやめて、今ある友達を本当に友達にしましょう。そしたら、あなたに友達ができるはず。そして私は人間に戻れる」
(そう、この手があった。すでに「友達」がいる小原さんだ。すぐに本当の友達ができるだろう。いや、この場合は本当の友達を見つけるかな?)
涼子がそう断言し、ナルミは複雑な表情をしたが、とりあえず頷いた。
透明トナカイの涼子は家に戻るわけにもいかず、ナルミに友達ができるまで、彼女の家に厄介になることになった。
(家に連絡したほうがいいかもしれない。だけど、どうやって)
ナルミはベッドで、涼子は床に敷いたマットレスの上に横になる。重くなる瞼と戦いながら家の事も考えたが、彼女は眠気に負けてそのまま寝てしまった。
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