第納話-魔法はどこから出るの?
「ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした」の閑話になります。
本編28話ぐらいまでお読みいただいたほうがお楽しみいただけます。きっと。
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「仕事納めだね〜」
シルバーの毛に覆われたネコミミをピンと立てて、その少女ヴェルは目の前の少女に挨拶する。
「えっと……え? そうなの?」
「ヨルちゃんが言ってなかったっけ?」
「言ったっけ……というか仕事納めって魔猫屋の営業が終わりってこと?」
「そうそう、今年は四人もお客さんが来てくれたのよ!」
「……そう」
桃色の毛をしたネコミミ少女のヨルは、今の言葉が聞き間違いなのか、本当に四人しか来なかったのか考えようとして、やめた。
それよりも気になることがあった。
「ところで、店の飾り付けが怖いんだけれど」
「えー、前回“クリスマスぐらいは飾り付けたら?”ってヨルちゃんが言うから頑張ったんだよ?」
十歳ぐらいの少女がメイド服を来ているようにしか見えないヴェルは、手を胸の前で組みながら満足げに言うが、そのセンスは世間のそれとは多少ズレていた。
至る所に髑髏を模したものが置かれており、目は光っているし口から怪しい霧が黙々と吹き出しており、サバトのようだった。
「ぷーちゃんが好きそうな感じになっちゃってるわよ」
「それはそうと、お手紙が届いてます」
「なんで無視するの?」
「もういいかなって」
真顔でそんなことを言い放つヴェルから目をそらし、ヨルは諦めたような表情で頬杖を突きながら、机の上に置かれた小さな髑髏を手で転がし出す。
「で、なに? お手紙って誰から?」
「ヨル様の魔法について詳しく教えてください。だって」
「……様?」
「多分、詠唱とか
「待って無視しないで。あと、昔の魔法がイケてないみたいなこと言われても困るんだけど」
「じゃあ、わかりやすく火魔法の初級の方にある
「殴るよ?」
「これは読み方が違うだけじゃなくて、効果も違うのです」
ヴェルはヨルのことは放っておくことにしたのか首を右に向け誰かに説明を始める。
「昔は発現から発動まで、ながーい詠唱が当たり前だったんだけれど、最近の人たちは妄想力が豊かなせいで、発動させる
「……妄想力?」
「発音の違いは?」
「んー、時の流れの変化? かな?」
昔は魔法を発現させる詠唱と、効果を発動させる
素早く使いたい時は発動
今は
そして発音が違うが為にその威力は、完全に本人の力に左右されてしまっている。
「でも確かに私も昔は一言だけで魔法…神法か、使っていたわ」
「つまり妄想力が豊かだったヨルちゃんは、今ではすっかり妄想癖が退化しちゃってるの」
「いま妄想癖ってゆった」
「感性が豊かな女の子の方が好かれるらしいよ」
「特殊すぎるのも問題だとあたしはおもう」
「じゃあ次の授業では詠唱について話しようかな☆」
「あ、これ続くのね」
「ちょっと面倒くさがってるけれど、
「じゃあ、頑張って……私は宿屋に帰るわ」
「タイトルに齟齬が出ちゃうから、ヨルちゃんは帰れないよ☆」
その言葉にヨルがバッと後ろを振り返ると、当然のように店の扉は消え失せていた。
そして瞬時に真っ白な光に覆われ、ヴェル謹製の例の魔法実験部屋へと変貌した。
「あんま刺激するようなこと言ってると脱がされちゃうよ☆」
「なんでよ!! このあいだはヴェルが無理やり着替えさせたんじゃない!」
「あれも不思議な力が働いただけなのよー」
ヴェルは目を輝かせ、両手をわきわきしながらヨルに近づいてゆく。
「ちょ、っと、なにその目付きと手! 怖い!」
「耳長女には見せたんでしょ? 観念するのよ!」
「あっ、あれは不可効力だからぁーーって、やめっ……!」
――――――――――――――――――――
『アネさん! アネさん! どうしてあっしは縛られて十字架に吊り下げられているんですかい?』
「ちっ、目を覚ましたの」
ヴェルが舌打ちしながら鉄の棒を手に、サタナキアへとジリジリと近寄る。
『あっ、あと、アネさん、二人してどうしてそんな格好をされているんで? あっし、さっきから鼻血が止まらないです!!』
「うるさい、言わないで」
ヨルはなぜか赤色のビキニタイプの水着を着ており、耳と尻尾の毛並みが大変な残念な感じになっている。
「ヨルちゃんは中身がささやかだから、大胆な水着が似合うよね☆」
上から目線でヨルを煽るヴェルは、黒いワンピースタイプの水着を着ていた。
「ささやかって……否定しないけれど……」
ヴェルの幼女のような見た目のくせに、一部だけ大変な事になっている姿を見て溜息をつくヨル。
「ちなみに"
腕組をしながら胸をそらし、ヨルを煽るヴェル。だがヨルはすでに壁の方を向いて座り込んでいた。尻尾も路上に捨てられているロープのように力なくヘタっている。
「じゃあそれぞれの効果を検証しよー☆」
『これ、あっしがマトになる流れ……』
「最近のぷーちゃんは察しも諦めも良すぎるなー」
ヴェルがほっぺたを膨らませながらサタナキアににじり寄る。
『ひっ……!』
「じゃ、行ってみよー」
「その前にヴェル、神力があるのに魔法使えるの?」
「このボディは魔法も使えるようになってるの☆」
なんとか復活してきたヨルが懸念を心配するがどうやら、
ヴェルが足元の具合を確かめながら、腰に手をあてて仁王立ちする。
ヨルは落ち着かない格好のまま、的になっているサタナキアをじぃっと観察する。
「流行りの奴、昔の詠唱破棄、昔の普通の奴の順でいくね☆」
普通の奴とは詠唱から始める魔法だ。
そもそも詠唱はその力を司る神々との契約であり、呼びかけであり、接続である。
基本的には自分の魔力と周囲の魔力だけである程度魔法は使えるが、詠唱により世界の力たる神々の力を乗せた魔法では、その威力は比べ物にならない。
「いくよーっ!『
辺りがカッと赤く輝いた瞬間、空間に浮かび上がった三桁を超える槍が出現する。すべてが真っ赤に燃え上がっており、近づくだけでも普通の人間には耐えられないだろう。
―――ゴゴゴ!!!
それらは意思を持っているかのごとく全て爆炎と熱を撒き散らしながらサタナキアへ向かうのだった。
「ーかーらーのー!『
ヴェルが"
―――――――――――――――――――
「と、このように発動ワードだけでもこんなに威力が違うのよー」
こんなに違うというヴェルだが、サタナキアは最初の一撃で黒ずみになっており地面にもクレーターができている。
初級魔法どころではなかった。上級魔法だった。
二発目はさらにひと回り大きいクレーターができた。深さも倍以上になっている。
「次、ダサい方の詠唱付きやってみるねー」
「ヴェル、その、マトが息してないわ」
「……『
その瞬間サタナキアは時間が巻き戻るようにみるみる内に怪我が治ってゆく。ついでに縛られていた縄も元に戻り、改めて十字架から吊り下げられた状態まで戻された。
『アネさん! ゲイラヴォルの姉さん! せめて縄は解いてくだせぇ!』
「ぷーちゃん……その、もう諦めよう」
ヨルは心底悲しそうにサタナキアに告げ、サタナキアはヨルの一言ですべてを悟ったような目になってしまった。
「じゃぁいっくよー」
『
ヴェルの操る上級爆炎魔法が発動した瞬間、辺り一面がカッと真っ赤な光で染め上がり、遅れて聞こえる轟音。そしてヨルは膨大な魔力の奔流に吹き飛ばされた。
―――――――――――――――――――
しばらく後、ヨルが気がついたときには、なぜか宿屋のベッドの中だった。
「………夢?」
のっそりと起き上がって、顔でも洗おうかと布団を出たところで自分の格好に気付く。
「水着……夢じゃ無かったんだ……焦げてるし」
所々焦げている赤色のビキニを見下ろしながらヨルはポリポリ頭を掻き、ゴミ箱に入っていたサタナキアを拾い上げる。見た目はいつもどおりだったが、炭のような、焦げた焼き肉のような匂いがした。
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