【閑話】ネコミミ少女の暇つぶし

八万岬 海

第聖話-メリーって何?


「ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした」の閑話になります。

本編24話ぐらいまでお読みいただいたほうがお楽しみいただけます。きっと。

――――――――――――――――――――


「いぇーい! めりーくりすまーす☆」


「……どうしてヴェルがそんなこと知ってるのよ」


「だって私、神だし!」


 その反応に目頭を押さえ、テーブルに乗せられたティーカップから紅茶を一口飲むみ心を落ち着かせようとしている少女。

 ネコの耳と尻尾を生やしたセリアンスロープの少女"ヨル"。

 椅子の背もたれから桃色の毛に覆われた尻尾がにゅっと出ており小刻みにフリフリと動いている。




「それで急に何の用? クリスマスパーティーでもするの?」


「んー。というよりねー」



 

 人差し指を口元に宛て考え込む素振りを見せるのは、その特徴だけはヨルと同じ種族に見える"ヴェル"。シルバーが混じった黒髪の十歳ぐらいに見える少女だった。


 彼女も頭からはネコの耳、腰のあたりからは頭髪と同じ毛に覆われた尻尾が生えている。そしてその仕草は容姿にふさわしい可愛さがあった。


(……あざとい)


 しかし彼女の正体は神族と呼ばれている、この世界において最上位の存在である。


「勿体ぶらないでよ……」


 半目でそう問いかけるヨルも、ヴェルと同じくこの世界の神族だったが、滅びて別の世界に転生。 十七年前に再びこの世界に生を受け、数ヶ月前に前世での記憶を取り戻してから旅をしているのだった。



 そんな二人がテーブルを挟んで座っているのは、ガルムの街にある魔猫屋の店内。よく判らない商品が所狭しと並べられた薄暗い店内には、他に誰もいない。



 というより、この店にはあまり人は近寄ろうとしない。




「だってクリスマスイブに重い話を更新するからさ! しかも昨日もだよ! ヨルちゃんかわいそう! ヨルちゃんマジ乙女! あと私、出番無くなるフラグ!」



「それは私に言われても困るわよ」



――――――――――――――――――――



「そもそも聖夜なんていう概念はあるの?」



 前世の知識があるヨルにとっては身近なイベントではあるが、本物の神がいるこの世界にそのようなイベントがあるとは思えない。


「聖夜じゃないけれど、もうすぐこの街が完成した日を記念するお祭りならあるよ!」


 その質問待ってましたと言わんばかりにヴェルは身を乗り出してくる。

 おおよそ、容姿に相応しくない胸の膨らみが強調され、ヨルの目が死んだようになる。



「ふーん、それってどういうお祭り?」



「参加者が意中の相手を巡り、ライバルと坂を転がりながら戦って、穴に落ちるってやつ。勝てば意中の相手とバトル相手に言うことを一つ聞かせられる」



「ごめん、もっかいゆって?」



「男女が戦いながら坂を転がって最後に穴に落ちるお祭り。毎回半分以上が大怪我で動けなくなる」




「……なにそれカオス過ぎない?」




「カオス君はヨルちゃんが尻に岩槍ぶっ刺してから三千年ずっと寝込んでいるわよ?」


「そういう意味じゃないわよ、あのアホのことは思い出させないで。じゃなくて、そのイベント考えた奴、どういう頭してるのよ」


「えへ。こういう頭だよー触ってみる? 優しくしてね☆」


 ヨルはヴェルが言ったことを脳内でまとめようとするが、やはりなにを言ってるのかさっぱりわからない。


「……」


「で?」


 ヴェルの絹糸のような髪とネコミミをむにむにと撫でながら、ヨルは目を閉じて考えていると、ヴェルが更によく判らないことを言う。



「やっぱクリスマスだし、知り合いにプレゼント配ろうよ☆」




 そういってヴェルはどこからか赤い衣装とブーツを取り出す。ついでに猫の手をデフォルメしたような形の手袋も取り出す。


「……布面積がおかしい!」



 一瞬サンタ服かと思ったのだが、明らかに水着より布面積が少ない。というか紐だ。

 そのくせ帽子だけは形状が合っている。



(これじゃあ、ネコ耳サンタ水着だよ)



「ヨルちゃんの知ってるクリスマスって、こーゆー衣装を来てみんなの家に夜中に忍び込むんでしょう?」


「忍び込むのは正解だけど、プレゼントを置きにいくだけだからね?」




「これ着て、お世話になってる人のおうち、一緒にまわろ?」




 上目遣いでそう言うヴェルだが、黒歴史一直線な提案は受け入れることはできない。その上、嫌な予感しかない。



「ごめんだけど、む『拘束カペラ』――ちょっと!」



「は〜い、ヨルちゃん脱ぎ脱ぎしましょうねーばんざーいして〜☆」



「ちょ、やめっ――!!」



――――――――――――――――――――


 その夜、傭兵ギルドマスターのアドルフ・フォン・ウォルターが診療所に運び込まれるという事件と、赤い下着のような衣装をつけた女盗賊が現れたと言う噂が広がることとなった。



「眠っていたら枕元に扇情的な格好の女が居たんだ。夜這いだと思ったから起き上がったんだが、気がついたら朝だった」



そのように病院のベッドで語るアドルフは頭に殴られたような跡があった。

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