17:パーティ結成(仮)【1】


 エルティナの言う「頼みたいこと」については、明日来てくれた時に詳細を伝えるとのことだった。受ける受けないの判断は、その時にしてくれればいいと。


 そうして彼女との歓談を終えた四人は、「今日中に目を通さないといけない書類が沢山できたの……!」と爛々と濁った眼で笑う彼女をその場に残し、ギルドの一階、各種登録の受付窓口へと並んでいた。

 勿論、目的はコロナ以外の三人の冒険者登録と、四人でのパーティ登録である。


「にしても、ローリエがギルドマスターと知り合いだったなんてね」


 順番待ちの列の最後尾、暇を持て余したらしいコロナが話題を切り出した。


「ボクもビックリだったよ。まさかエル姉とこんなところで会えるなんて」

「エルティナさんとは結構お久しぶりだったのです?」

「うん、最後に会ったのは五年前くらいかなぁ。それまでは寮を出てからも結構会いに来てくれてたんだけど、帝都に行っちゃってからは全然会えなくって」

「帝都……そういえば、大神殿の神殿騎士になったって言ってたわよね。あの若さで教会総本山のお抱え騎士だったって、アンタの姉は一体何者なのよ?」

「えー、普通の優しいお姉ちゃんだよ? よくお話を聞かせてくれたり、一緒にお散歩したり……」

「ふふっ。ローリエさん、お姉さんと仲が良かったんですねぇ」

「えへへ、まぁね」


「…………」


 ローリエたちがエルティナのことについて話をしているのを、アリスは横でじっと聞いていた。

 帝都。大神殿。神殿騎士。どれも知識データベースに登録の無い単語だ。

 ただ会話の内容から推察するに「帝都」には「大神殿」という宗教施設――おそらく、ローリエが育ったという神殿と同質のもの――があり、エルティナはそこに勤める「神殿騎士」だったらしい。コロナの口ぶりから、「大神殿の神殿騎士」というのは相当に優れた能力の持ち主のようだった。

 アリスはそう理解して、自身のデータベースに各情報を暫定的に記憶インプットする。

 能動的にインプットした情報について、アリスは「忘れてしまう」ということがない。そのため再起動以降、こうして何気ない会話等から情報を収集・分析することで、この世界について少しずつ詳しくなっているのだ。アリスはデキる探査機なのである。


「あ、次みたいね」


 気付けば前に並んでいた人たちはいなくなっており、アリスたちの番がやってきていた。

 

「お待たせいたしました。次の方、どうぞー」


 職員に呼ばれ、窓口へ。

 コロナが三人の冒険者登録と、次いでパーティ登録をしたい旨を伝えると、それぞれに紙とペンが手渡されて記載台へと案内される。紙に目を通してみれば、名前や年齢・出身地といった情報を記し、登録証を発行するための申請書類らしかった。


 何ということは無い。アリスはさらさらと各項目に記入していく。後で追記する必要が無いように、詳細情報も予め備考に記しておくことも忘れずに。

 そうしてアリスはものの数分で申請書を書き上げると、完成したものを確認する。一か所を除き、完璧だった。

 その一か所――最後の項目『魔型』は、恐らく今の世界独自のものだろう。こればかりはどうしようもないので、近くのコロナに尋ねてみることにした。


「コロナ、質問があります。魔型とは何ですか?」

「え、アンタそんなことも……って、そうよね、知らないわよね」


 一瞬呆れ顔をしたコロナだったが、相手がアリスと知って納得したように頷く。


「魔型っていうのは、各個人で適性のある魔力の扱いのことを言うのよ。例えばあたしは炎の攻撃魔法が得意だから、『放出型・火』って感じね。で、これがローリエなら『放出型・光』か『分与型・活性』、ミミィは……あたしの見立てだと、多分『循環型』になると思うんだけど……」

「???」

「……まぁ、その辺の講義は長くなりそうだからまた追々ね。今回はあたしが代筆してあげるわ。貸してみなさい」


 魔法関係の話がとことんダメなアリスは、そう言われて素直に申請書を渡した。

 コロナは受け取ったそれに目を落とし、


 氏名:アリス(備考:Autonomous Lunar Intelligence Searcherの略称)

 年齢:3(備考:継続稼働年数による)

 性別:なし(備考:機体は女性型)

 出身:キャロル国際宇宙開発技術総合研究センター

 魔型:


「…………」


 その内容を一目見て、ぴしりと固まって動かなくなった。

 数秒後、コロナは徐にローリエとミミィを呼び寄せると、アリスの書いた申請書を一緒に確認。それから何やらひそひそと協議をして、お互いに目配せして頷き合う。そして、


「あー、登録の書類、書き間違えちゃったみたいだからもう一部貰いたいのだけど」


 コロナは職員から新しい書類を受け取ると、猛烈な勢いで何やら書き込んだ。アリスが横から覗いてみれば、そこにはこう記されていた。


 氏名:アリス

 年齢:10

 性別:女

 出身:不明(備考:小さい頃に人攫いに誘拐されたため)

 魔型:放出型・光


「はい、これ。代筆しておいたから」

「ありがとうございます、コロナ。……あの、記載事項の大部分が編集されているようなのですが」

「……アンタねぇ、さっきのやつをそのまま提出なんてしてみなさい。子供の悪戯と思われて放り出されるのがオチよ」


 そこはかとなく呆れた様子のコロナは、アリスにしか聞こえないよう小声で話す。


「まず名前。これはもう『アリス』しか書かなくていいわ。『おーとのまなんとか』は心の中にしまっておくこと。あと、アンタの見た目で三歳は無理があるのを自覚しなさい。

 性別は素直に見た目通りで答えるように。それと……出身は不明にしておいた方が無難よ、アンタの場合。理由もそれらしいことを書いといたから、覚えときなさい」

「ふむ……了解しました」


 ≪偽装情報:探索者シーカーアリスは齢十歳の人間の少女であり、幼少時に人攫いに誘拐されたため出身は不明である≫

 コロナからダメ出しを貰ったアリスは、そう自身のデータをアップデートした。これから自身の情報について尋ねられた際には、この内容を基に答えることにする。


「魔型の『放出型・光』というのは?」

「アンタが鉄巨人を吹っ飛ばした謎攻撃からの類推」

「……なるほど」


 曰く、何だかすごく光ってたから、とのことで。

 ――荷電粒子砲プラズマキャノンは魔法ではないのですが。

 そう言いたくなったのをぐっと堪え、アリスは曖昧に頷いた。



 こうしてコロナによる手直しという名の大改造を経たアリスの申請書は、特に問題なくギルド職員の検査を通過。しばらくして、先に申請していたローリエたちの分と合わせて登録証が発行されることとなった。


「お待たせしました。こちらがみなさんの登録証になります」


「おおー……!」

「なんだか、冒険者って感じがしますです……」


 配られた真新しいメタルプレート。

 そこには綺麗な文字で、それぞれ、


 ≪ランクF ローリエ=リフェリシア 15歳≫

 ≪ランクF ミミィ=タアレ 17歳≫

 ≪ランクF アリス 10歳≫ 


 と彫り込まれていた。


「あ、アリスちゃんもFランクなんだ。ミミィは?」

「わたしも同じくですねぇ」

「新規で登録した人はみんなFからのスタートなのよ。ま、すぐEに上がるけどね」


 それから、職員から冒険者として活動していく上で必要な知識――依頼の受け方や報告の仕方、注意事項や禁止行為(冒険者同士のトラブル防止や、不正・虚偽の報告の禁止など)についての説明を受け、三人の冒険者登録は完了した。


 そしてそのまま、パーティ登録へ。こちらはパーティメンバーの登録証を揃えて申請するだけで完了し、特に何かの発行を待ったりややこしい説明を受けたりするわけでもない。


 そのため、冒険者登録と違ってすぐに終わる……はずだったのだが。


「……そういえば、考えてなかったわ。パーティ名」


 ことここに至って、そんな重大な問題が発覚したのだった。


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