05:強敵との遭遇
恩を返そうとするミミィの活躍は、それはもう凄まじかった。
「敵ですっ! はぁぁっ!」
『ギェッ!?』
「また敵ですっ! たぁぁっ!」
『グェッ!?』
「あっ、あんなところにも! とぉぉっ!」
『ギャッ!?』
いち早く敵の存在を感知すると、まるで肉食獣のような瞬発力で一瞬にして距離を詰め、手にした剣(錆びているので鈍器のようなものだ)で薙ぎ払う。
一体が倒れたかと思えば、次の瞬間にはまた次の相手へと向かっていく。
先行して敵を全滅させては戻ってくるので、ローリエたちの仕事は一気に減った。
「はぇー、ミミィって強いんだねぇ」
「そ、そうね……」
……減り過ぎて、正直暇だった。
と、そんな調子で洞窟を進んでいくローリエたちであったが、
「「……!」」
コロナとミミィが、ふとその足を止めた。
この先から、何やら不穏な気配が漂ってきている。
それを敏感に感じ取った二人は、思わず顔を見合わせる。
「ふんふん……これは結構殺気立ってますね」
「まぁ、ここまで派手に暴れてきたし。流石に奴らも怒るわよね」
「え、なになに? 二人ともどうしたの?」
唯一危機感知に失敗したらしきローリエが、ちょこんと首を傾げる。
「この先に『何か』いるわ。あたしたちのことを待ち構えてるみたい」
「ローリエさんのことはわたしがお守りしますので、ご安心くださいです」
「う、うん、わかった。気を付けて進もうね」
三人は最大限の警戒をしつつ、剣を構えたミミィを先頭に先へと進む。
王城のダンスホールを思わせる、辺鄙な洞窟には似つかわしくない広大な空間。そこには、殺気に満ちた多数のゴブリンたちがひしめいていた。
そして――広間の奥。暗がりでよく見えないが、そこにはゴブリンとは違う「何か」がいた。
『――――!』
その「何か」は、ローリエたちの姿を認めると、およそ生き物の発声器官から出ているとは思えない、耳の奥を突き刺すような不協和音を発し、
『『『ギィィィッ!!』』』
どうやら、それは「かかれ」という号令だったようで。
ゴブリンたちは気勢を上げ、一斉にローリエたちへ襲い掛かかってきた!
「くっ、『
コロナは咄嗟に【炎波】の呪文を唱え、向かってくるゴブリンたちを迎撃する。
何体かは直撃を受け絶命し、また何体かはそのダメージに怯んだ様子だったが、流石に数が多すぎた。
『ギィッ!』
「っ!?」
魔法を潜り抜けたゴブリンが一体、コロナに向かって跳びかかった。
その手にしたナイフがコロナの首筋へと迫り、
「あぶないっ!」
『グギャッ!?』
すかさず、ミミィが剣で弾き飛ばした。
フルスイングされたゴブリンは岩壁へと激突し、そのまま消え去る。
「あ、ありがと」
「いえいえ! 次、来ますですよ!」
コロナの【炎波】による一時的な混乱から立ち直ったゴブリンたちが、手にした得物を振りかざして突撃してくる。
いくらゴブリンとは言え、あの数で袋叩きにされてしまえば、後衛職であるローリエもコロナも最悪の事態は免れない。
瞬時にそう判断し、二人を庇うように前へ出るミミィ。そして、
「さぁ、あなたたちの相手はここですよぉーっ!!」
仁王立ちしたミミィが叫ぶ。
不敵な姿に挑発されたゴブリンたちは、目標をミミィ一人に定めて殺到する。
「っく!」
無数に振るわれる粗悪な武器を、ミミィは剣で受け流しながら耐える。
致命打こそ受けないものの、数の暴力により、徐々に手傷が増えていく。
そこへ、
「『
「ローリエさん、感謝なのです!」
ローリエの【治癒】が、ミミィの傷を癒す。これでミミィが倒れる心配は無くなった。
あとは、ミミィが身を挺して一か所に引き付けた彼らを、何とかして一掃するだけだ。
「コロナ!」
「ええ! ミミィ、奴らを吹っ飛ばして離脱して!」
「了解なのです! ――はぁぁっ!!」
『『『ギッ!?』』』
ミミィが剣を横薙ぎに一閃、ゴブリンたちはまとめて吹き飛ばされ、たたらを踏む。
「さぁ、終わりよゴブリンども! 『
そこへ、コロナの魔法が炸裂した。
ゴブリンたちを包み込む、白熱した業火の渦。
悲鳴すらもなく、ゴブリンたちは灰と消えていった。
増援の気配はない。どうやら、この洞窟のゴブリンたちは広間に集められていたもので最後だったようだ。
だが、喜んでいる暇は無かった。
『――――!』
それは、暗がりから立ち上がり、ゆっくりと動き出した。
ゴブリンの五倍はあろうかという長身。
鈍く光る金属の身体。携えるは巨大な片刃剣。
まるで感情の窺い知れない無機質な単眼が、立ちすくむローリエたちを見据えていた。
コロナが、思わず怯えたように声を震わせた。
「あれ、まさか、鉄巨人っ……!?」
鉄巨人。それは亜人の一種にして、どの亜人とも異なる異質な存在。
かつて魔王がこの世界に君臨していた時代、対人類兵器として魔王によって産み落とされたとされる、歪な命。
その金属の身体はあらゆる攻撃に対し耐性を持ち、並の生物を超越した膂力で振るわれる剣は、プレートメイルですらも容易く両断するという。
勇者と魔王の伝説の中で語られるような存在――正しく、強敵であった。
『――――!』
片刃剣を構え、悠然とローリエたちに迫る巨体。
「先手必勝です! やぁぁぁっ!!」
その行く手に立ちはだかったミミィが、鉄巨人の脚目掛けて剣を振るう。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、
ミミィの剣が根元から折れ飛んだ。
拾った時点でボロボロであったものが、ついに耐久力の限界を迎えたらしい。
「っ、剣が……!」
「ミミィ下がって! 『
「ならボクも! 『
剣がダメならばと、コロナとローリエが【火炎牢】と【光矢】の魔法を鉄巨人に放った。
魔法陣から生まれた灼熱の檻がその身体を包み込み、飛来する一条の光の矢がその頭部に命中する。
通常の相手であれば、確実に仕留められているであろう攻撃。
『――――!』
だが、それでも鉄巨人が歩みを止めることはなかった。
「ええっ、全く効いてない!?」
「そんな、ウソでしょ……?」
絶望するローリエたちの目の前で、鉄巨人は手にした得物を――処刑人の斧を想起させる剣を、ゆっくりと振り上げる。
そして。
「っ、ローリエさん、コロナさん! 気を付け――」
鉄塊が無造作に振り下ろされ。
轟音とともに、大地が崩壊した。
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