予想外、想定外、
突如、成幸は心臓の律動が早くなるのを感じた。
「あいつが千花ちゃんと早苗ちゃんを…!」
鬼姫は静かに戦慄くと成幸の背後から駆け出した。
腰にさげた刀を抜き、青鬼に向けて疾駆した。青鬼は気配だけで察知すると腕だけを鬼姫の方へ投げるように繰り出した。さきほどの速度を誇る鬼姫は迫り来る腕を高く跳躍するとそのまま青鬼の眉間めがけて刀を突き刺した。さらに、手から小さな朱色の火玉を繰り出し切断された足首を燃やし尽くした。鋭い痛みを感じたのか青鬼は眉間に鬼姫を手で払った。眉間には刀が刺さったままである。
青鬼の足元からは巨大な木が現れた。
「鬼姫、距離を取れ。巻き込まれるぞ!」
清明の言葉に鬼姫は飛び退いた。
突如、巨大な木はメキメキと音を立てて目に見えて成長すると青鬼を覆い尽くした。
「何あれ、防御のつもり?」
鬼姫は数メートル離れた清明を見た。
「いや、養分を吸って回復しているようだな。くそ、忌々しい。あの状態では手出しができん」
清明は忌々しげな様子を隠すことなく爪を噛んだ。
「なんでよ、木ごと焼けばいいんじゃないの?」
「あの木は地脈を通して青鬼に力を与えている。焼いたところでまた生えてくるだけだ…できるかどうか分からんがこのまま封印してしまおう」
清明は九字の印を切り始めた。青鬼の足元では地面に巨大な陣が浮かんだ。
瞬間、
「こわいのもういない…?」
その場にそぐわない童女の声に一同は絶句した。
青鬼がいる付近の家屋の中から二人の童女が顔を出していたのだ。
「千花ちゃん、早苗ちゃん!」
生きていた…。
ホッとする鬼姫は叫ぶと同時に走り出しだ。
「ちっ、巻き込んでしまう」
清明は即座に封印を中断する。
青鬼はその隙を見逃さなかった。覆っていた巨大な木は見る見る姿を変えて、家屋ごと二人の童女を押しつぶそうと槌の様相をしていた。
そのまま振り下ろす気だった。
「このぉぉぉっぉぉぉ!!!」
そこに成幸は飛び込んでいた。
鬼姫も走っていたが成幸の方が瞬間早く駆け出していた。しかし、槌は童女たちに向けて無残にも振り下ろされる。
ドズン、そんな音が聞こえた。
家屋は一撃で粉砕しており、振り下ろされた衝撃でその場は掘り返されたように土砂が窪んでしまっている。
「成幸!」
「成幸!!」
清明と鬼姫は叫んだ。
清明は途中で術を中断したので半拍ほど反応が遅れたのか、鬼姫に遅れながら走った。途端、鬼姫はその場に辿り着くも振り下ろされた槌を横薙ぎに食らって、何軒かの家屋をぶち抜いて吹っ飛んでいた。動き出しは遅いが勢いを増した攻撃により暴風を思わせるほどの速度で鬼姫を吹き飛ばした横薙ぎの一閃はそのまま清明も襲った。
「ちっ!」
清明は即座に『金剛』『守護』の二枚を取り出す。清明の周囲には正十六面体の半透明な結界が現れた。しかし、青鬼の槌の勢いは止めきれずに槌は結界を割った。
別な方向、空中に投げ出された清明はきりもみしながら地面に着地するも、不時着の際に強かに身体を打ちつけてしまう。
苦悶の声を一瞬あげて、視線の先を見ると青鬼が立っていた。
その表情はこの状況を嗤っているように見える。全身を見れば、燃え散ったはずの足は蘇り、さきほどの攻撃はすべて回復しているように見えた。
大地を司る地脈から力を得る木剋土。
視線の先では自分を倒さねばここを通さないとでも言わんばかりの態度で青鬼が対峙していた。
「そこをどけ!」
自分はいち早く成幸のところへ行かなければならないのだ。
清明は怒りを露にして叫び、立ち上がった。
全身は傷つき、白い狩衣は土に汚れ、顔には煤がついていた。
「回復が追いつかないほど傷つけて、私の前に立ったことを後悔させてやる」
無言の青鬼を前に清明は九字の印を切り、声を出した。
「臨」独鈷印。
「兵」大金剛輪印。
「闘」外獅子印。
「者」内獅子印。
「皆」外縛印。
「陳」内縛印。
「列」智拳印。
「在」日輪印。
「前」隠形印。
清明の黒い髪は軽く逆立ち始め毛先は薄い茶褐色になっていた。
爪は尖り出し、開いた口からは鋭い牙が見えていた。
一秒でも早くこいつを倒して成幸を探す。
もしも命の鼓動が止まったとしても、どんな手段を以ってしても蘇らせる。
そう思っていた。
その瞬間、突如、黒い炎が青鬼の背中を覆い尽くした。
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