巷を騒がす百鬼夜行

それから、半年後のこと―。


月が隠れたとある夜のことだった。

「…今日はもう遅い、なるべく早めに帰るぞ」

「はい。それは何よりです」

牛に牽かれ、豪奢な屋形の中にいる男、鹿島為雅は身を強張らせながら先頭を歩く者に言った。屋形の中にいる男のことを頼りない灯りの元では熊と見間違う人も少なくないだろう。先導する牛飼い童が持つ松明の灯りに反射して、屋形の中には大きな陰影が出来ていた。影だけ見ると幽鬼のように揺らめいているようにも思える。これが式部省に勤める貴族だとは誰も思わなかった。

早めに帰る。そう聞かされてほっとしたのか牛飼い童は早足で再び歩みを進めていく。

「おい、ここの角を曲がれば屋敷はすぐであろう?」

為雅は大路と小路の十字路に差し掛かると牛飼い童を呼び止めた。

この角を左折すれば自分の屋敷は目前だというのにも関わらず、直進しようとしたからだ。

「しかし、この道は天文博士により暫くの間、通行禁止の令が出ていまして…」

牛飼い童が答えると数日ほど前に出ていたお触れのことを思い出した。

天文博士、陰陽寮の頭目である。理由は分からぬが禁止であることを公告されたのでしぶしぶ従ってはいたが見渡す限り見張っている者は誰もいない様子だった。

「…ええい、構わん。そちとて今日は早く帰りたいであろう。さぁ行くがよい」

「は、はい…」

語気をやや強めて、敢行することにした。命令された牛飼い童は牛の手綱を引いて、牛車をやや急な旋回をさせて左折した。直進してしばらくすると、何も異常が無いことに安心したのか為雅は安堵の溜息をついて、ぼやいた。

「はぁ…。お触れだというから従っておれば何も無いではないか」

曲がる前の大路と比べれば若干狭いものの至って普通の、何の変哲のない道である。ここを直進して抜けきったところが為雅の屋敷である。あのまま直進していれば大きく迂回することになる。それこそ時間の無駄というやつではないか。それに夜というのは恐怖心もそれなりにあるわけで、すぐに屋敷に戻れるのなら当然曲がるだろう。

そう、自分に言い聞かせながらも

「百鬼夜行が出たとは聞いてはいたがまさか出くわしたりはしないだろうな…」

為雅は呟いた。

そのとき、

「がーはっはっはっは!」

豪快な笑い声は地獄からの使者のように、不気味で、浮世離れした声だった。

頭上から響く声はまるで声の主が近くにいるような気にさえさせる。こんな大きな声ではよもや京中に響いているのではないかと思われるほど響いていた。

「為雅様、この声は」

長年、鹿島家で働いている牛飼い童の男が怯えて、立ち止まった。為雅はいつもの様子とは違う男の様子に触発されて、屋形からちょいと顔を出して周囲を窺うも自分たち以外誰もいないことを確認する。

「お前にも聞こえたか?」

「はい、最近。巷でよく噂になっているという百鬼夜行でしょうか」

牛飼い童の言葉に、為雅は思案顔になった。

為雅が身を強張らせているのには理由があった。

そう言ったのは、百鬼夜行に出会うと災厄が降りかかると噂されていたのを思い出したからだ。

曰く、鬼に出会えば生きたまま首から食われる。

曰く、鬼と口を聞けば、とりつかれる。

曰く、鬼は美しく人を誑かすのが上手だ。

話にはいくつか尾ひれがついているかもしれないが、実際に鬼や妖怪に出会った者の大半は死んでいる。それも無残な死に様だと聞く。百鬼夜行に出会っただけで家督を取り潰された話も聞いたほどだ。運良く、生き延びた者もいると言うが徳の高い僧に清めてもらわねば死期が早まるという。

まさに百害あって一利なし。

「出会う前に、さっさと帰るぞ。さぁ、歩け」

為雅は牛飼い童に怒鳴ると屋形の中、恐怖心を抱いていた。

脳裏は既に不安で満たされている。

百鬼夜行。

深夜の京を集団で徘徊する鬼や妖怪のことである。

出会った者は、皆、不幸になる。

そう考えるだけで、為雅は背筋が寒くなる思いだった。

屋形の中から見える風景は、真っ暗で牛飼い童が持つ松明の灯りだけが頼りだった。暗闇は人の心を不安にさせるとはよく言ったもので、しだいに早く帰りたいと願う気持ちが口に出ていた。

「かえる…、はやく、かえる…」

為雅は思わず手に持った扇子を強く握っていた。牛車の歩みはとても遅い。これでは走ったほうが早いのではないかと思えるほどだった。

「た、為雅様…」

牛飼い童は、再び怯えた声をあげた。

「どうした」

「何か、足音が近づいていませんか?」

何事かと思い屋形から顔を出して前方に目を凝らしてみるもただただ深い闇が広がっていた。耳を澄ましても足音など聞こえない。今日は風がほとんどないためか牛の鼻息程度しか聞こえなかった。

「何もないではないか」

「しかし、先ほどまでは何か大勢の足音が聞こえて…」

「大丈夫だ。怖いと思うからそのようなありもしない音が聞こえるのだ。さぁ、出せ。早々に戻って酒でも飲んで寝るぞ」

為雅は、自分に言い聞かせるように言うと屋形の中に戻ろうとした矢先。

額に何かが飛びついた。

「!!!???」

うわっ、そんな悲鳴を上げて、屋形の中で大きくひっくり返った。その拍子に大きく牛車が揺れた。

為雅は慌てて顔を拭うと手には何やらぬるぬるとした液体がついていた。

「なんだこれは」

そして、束の間、牛飼い童も続いて悲鳴を上げた。

「うわわぁぁぁ」

「どうした!」

為雅は声を張り上げた。

身を起こそうにも出っ張った腹が邪魔で上手く起き上がれない。

「何かが、飛んできて。うわっ、動いています。来るな、来るな!」

牛飼い童はひとしきり悲鳴を上げるとドサリと倒れた音を立てて喋らなくなってしまった。

 「おい、大丈夫か。くそっ。何がどうなっているんだ」

 ようやく起き上がった為雅は屋形より出ることはせずに、屋形の中にかけていた刀に手をかけた。鬼や妖怪を刀でどうにかできるかは定かではないが幾分、落ち着いた。牛飼い童が持っていた松明の灯りを落とした際に提灯の細い竹割りや紙に引火してちょっとした小火になった。おかげで視界が少し良好になった。

 為雅は息を殺して集中していた。

もぞ。

「!?」

 服の下で何かが動いた。手で払おうにも、服の下で蠢いているらしく服の中に手を入れた。柔らかい、それでいて、びくびくと躍動している。そして、どこかぬるぬるしていた。為雅は、恐怖と得体の知れない気持ちの悪さに相まったが、努めて冷静に手のひらの大きさをした何かを引っ張り出した。

それは、ふてぶてしい顔をした大きな蛙であった。

ゲコ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

為雅は悲鳴を上げる。その際、掴んだ蛙を放り投げた。

その直後、屋形めがけて無数の何かが張り付く音がした。

そして、少しの間があった後、すぐに声が聞こえた。

ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。



翌日 平安京 朝廷内 陰陽寮に至る廊下で…。


「なぁ成幸。昨晩、百鬼夜行が出たのは知っておるか?」

陰陽寮所属の鹿島為雅はひどく疲れた顔で隣を歩いている源成幸に話しかけた。

熊のような大男とは違い、成幸は細身の青年だった。

「百鬼夜行…ですか?」

成幸はオウム返しに答えた。

「あぁ、そうだ。お前も耳にしただろう?」

為雅は、明朝、自分の屋敷に向かう小路で気絶しているところを発見されたのだ。発見された時の姿がまるで犬や猫がするような腹を見せた降参のポーズだったために、朝から廷内では笑いの種になっていた。

「いえ、俺は知りません。さきほど、出勤したばかりですから」

言いながら、あくびをかみ殺す。昨晩は寝入りが良くなかったのだ。

「そうか。なら、最初から話さねばな…」

言いかける為雅の話を遮るようにして

「ですが。昨夜、為雅殿が仰臥の姿勢をもって降参したという話は知っています」

「成幸、からかうな。」

為雅はジロリと成幸を睨んだ。

「すいません、つい」

「…まぁいい。それで話を戻すがあの百鬼夜行はどうやら夜にしか出ないんだ」

「それはそうでしょう。でなければ百鬼夜行とは言いません、もしも昼に出たら百鬼昼行ではありませんか」

「都の人間が恐れおののく百鬼夜行を昼行灯と並べて例えるか。さすが朝廷一の朴念仁と謳わる男だ」

ちらりと為雅は成幸に目をやった。朴念仁とは言われていない。今のは先ほどからかわれた分の軽い仕返しである。

「為雅殿に武士になる機会を取られ代わりに事務や雑務の仕事で日々を忙殺されて、日に日に腕が落ちるのを実感しておりますよ」

家に置いてある刀は思えばここ最近手入れをしていない。それどころか鞘からも出していないことに気がついた。

「そう皮肉を言うな、成幸よ。まだまだ貴族の時代は終わらん。武士などという無粋な世界はお前には似合わない。それにお前は剣の腕も立つが寮内の仕事の方でも中々使える男だと俺は贔屓目を抜きにしても思っているんだぞ」

為雅は常々思っていることを口にした。

「ありがとうございます」

「で、だ。ここからが本題なのだが」

為雅は、わざとらしく咳払いをする。

「あぁ! 俺、今日は急ぐのでした。では、これにて」

成幸はその場でお辞儀をして、歩みを急がした。

これ以上は、まずい。為雅が自分を褒める時、それは何かあるときだ。

そう成幸の第六感が告げていたからだ。

「待て、待て、待て。お前は中々使える男だからこそ俺の話をもう少し聞いていけ!」

「嫌です。もうそろそろ陰陽寮に着くじゃありませんか。直属の上司面していますけど為雅殿は陰陽寮の所管ではないでしょう」

「そうだが、上司みたいなものだろう。お前の叔父にあたるわけなんだから」

「えぇ、そうですね。為雅殿は父の義弟にあたるわけですから。そういえば、入寮の際はお世話になりました。では、また明日」

成幸はあきれ顔を浮かべて歩みを速めた。

「お願い待って。本当に困ってるんだって」

為雅は小走りで成幸を追い抜くと陰陽寮の部屋の前で為雅は行く手を阻むように両の手を広げていた。とおせんぼ、というやつである。

その姿は本当に熊のようだった。森で出会えば死を覚悟するようなデカさである。

そんな熊に臆した様子を浮かべることなく

「本当ですか?」

「そうだ」

「本当の本当ですか?」

「そうだ」

「…では、聞きましょう」

成幸は、腕組みを解くと歩みを止めた。

「手短にお願いしますよ」

こんな風に聞く成幸には理由がある。以前もこのような頼み事をされた際は、貴族の女性の屋敷への夜這いの手伝いだったのだ。当然、というか自明の理のように裏口を通れずに失敗に終わったのだ。

「…京は今、未曾有の危機に見舞われているのだ。」

「京は、とか言いながらも自分が夜、女性の元へ出向くためじゃないんですか?」

「どうして分かったんだ」

「やっぱり…。はぁ分かりました。話を聞くだけでいいなら聞きますよ。時間も押していますからね」

成幸は観念することにした。

昨日の話、為雅が夜中に外を出歩いていたのはそういうことだった。

まったく懲りていない様子に成幸は呆れていた。

「あぁ、分かった。手短に言おう。本当にあの百鬼夜行を知らないんだな?」

「えぇ、俺はその時には家に帰っていますから」

「お前も良い年だというのに、女の噂の一つも出ないとは…。はぁ、義兄さんの墓前になんて言えばよいのやら」

「…自分は未熟な身。もっと出世せねば嫁に来てくれる女性などいませんよ」

成幸は内心、『イラッ』としながらも、早々に終わらせたいので為雅の芝居に付き合うことにした。

「成幸、お前は堅い男だな。顔は悪くないというのに、そんな堅物な性格だと益々女が遠ざかるというものだ」

豪快に笑う中年くらいの男はいつもよりも割り増しで機嫌が良かった。義弟というくらいなので年は父親とそう変わらない。だが、性格はというと質実剛健だった父親に比べて軟派な性格の為雅、そんな義弟は年甲斐もなく度々、女性の元へ行く道楽貴族。体型は服装のせいかもしれないがどこか狸に似ていた。皆は熊だと言うが成幸には狸に思えていた。これが夜毎女性の元へと通っているというだけでそれはもう百鬼夜行のはぐれ一人旅ではないかと成幸は考えていたりもする。

そんな二人は陰陽寮の部屋の傍らで立ち話をしていた。

「はぁ、そういうものでしょうか」

「そう気を急くものではないな。今にお前にぴったりな女子が現れるだろう。どうだ? 一度でいいから俺に縁談を任せてみろ」

「本当に遠慮したいのですが…」

成幸は為雅が今まで接近していた女性の遍歴を思い出していた。巨漢の為雅と同じような体躯をしたとてもふくよかな女性である。成幸が横に並べばそのまま丸呑みでもされてしまいかねない。

「待てよ。そうだ。一人お似合いの人物がいるぞ……天文博士だ」

為雅の言葉に成幸は視線を上げた。

為雅の言葉に釣られて背後を見る。丁度、陰陽寮の奥部屋から出てきて向かいの廊下を歩いていた。白色の衣冠姿に、小さい顔の上にちょいと乗った烏帽子、整った横顔、唇には紅を差した妙齢の女である。

何より、聡明そうな気品に溢れていた。

「天文博士…? 彼女が天文博士ですか」

成幸は、陰陽寮に勤めるようになって三ヶ月ほどになるが今まで天文博士を見かけることはなかったのだ。鬼のように美しいと比喩されていたのは知っていたが、まさかこれほどまでとは思っても見なかった。

「まさしく麗しの君、というやつだな。世が世なら、傾国の美女というやつにでもなっておったな」

為雅は手を顎にやりながら食い入るように見ていた。

「…為雅殿。言が過ぎますよ」

「いやいや、成幸。見てみろ。あの美しさはまるで人ではないみたいではないか」

人ではないなら、鬼だな。

などと為雅は言っていた。

「いや、人でしょう、どう見ても。人外なら頭に角があるか尻に尾でも生えているでしょうし、人ですよ。昨晩、百鬼夜行に会ったからそんなことを言うのですよ」

「あ、そんなこと言うなら、お前にお似合いな女子を紹介しないからな」

どうやら先ほどの言葉『一人お似合いの人物がいるぞ、それは天文博士だ』ということではなかった。ただ単に言葉を言い終わる前に天文博士が見えただけらしい。

見えただけでここまで食い入るように見るとは…。

「いりませんよ…。」

そんな為雅の横腹を肘で突ついて諌めていると、いつの間にか、廊下の向こうを歩いていた女性がこちらに気づいたのか立ち止まっていた。

「こっちを見ているぞ。成幸、ほら」

急かされるように視線を向けると彼女と視線が合った。

にこり、と微笑みかけられた。


「っ!?」

胸が高鳴った。

清明は恭しく目礼すると、微笑を浮かべたまま歩き去っていった。

「聞かれていましたかね…、今の」

「さあな。しかし、宮廷内では彼女に見蕩れる男は少なくないからな…」

「では、あしらいかたも心得ているのでしょう。彼女、美人ですからね。大変そうだ」

「いやいや、男たちは遠巻きで見るだけに留まっているのだ。何故だか分かるか?」

「何故です?」

成幸は首を傾げた。

言ってはなんだが、宮廷内の男たちは美しい女性がいればすぐに声をかけるというのが相場である。あのように美しい女性だと毎日誰かから声がかけられてもおかしくないのだ。

 「おいおい、彼女は言わずと知れた安部清明だぞ。彼女の機嫌と気分の匙一つで家を断絶させることだって可能なのだ」

「そんな大げさな…」

「大げさなものか。彼女は平安一の陰陽師。総ての吉兆を占う責任者だ。帝だって頼りにしているくらいなのだぞ。生半可な貴族では太刀打ちなんてできないさ」

「そうでしたか…。身持ちが固く美しい人か…」

正直言うと、身持ちの固い女性というのはそれだけで美徳である。しかも、美しいなら尚更である。

「おい、成幸。もしや、お前、惚れたな?」

「なっ! そんなわけありません」

「そう恥ずかしがるな。彼女に惚れるのは当然だ。なら、この俺が機会をやろう」

そう言うと為雅は懐から白い封書を取り出した。

「…これは?」

「彼女に、渡す依頼書というやつだ。ここ最近の百鬼夜行の行動は目に余るというか、京全体が困っているからな。こうやって定期的に彼女に討伐依頼を出しているのだ」

「何故、為雅殿がそれを持っているのですか?」

「…昨晩のことが起こる前にも式部省の権限を使って天文博士のお近づきになろうと思った時期があったのだ。しかし、それは叶わず。依頼書の全ては彼女に届くことなく無残にも随身の者で堰き止められてしまったのだ」

「はぁ、色々と画策なさっているようで安心しました」

「…で、だ。成幸、お前にはこの封書を彼女に届けるという職務を俺の権限でお前に一任する。陰陽寮の仕事は今日でおしまいだ。今からお前は式部省の文官として安部清明直属の書簡係である!」

「そんないきなり!?」

「これで少しは彼女に近付く機会が増えるであろう?」

為雅はニヤリとした笑みを浮かべていた。きっと恋路の幇助をしたという笑みなのだろう。

「ま、まぁ確かに…。でも、為雅殿と同じように門前払いを食らうのが関の山ですよ」

「今のままでは機会は無いがもしかしてというやつもあるだろう。やってみる価値はあると思うがな。駄目もとでやってみるのもいいだろう」

「た、確かに…」

今日の為雅の言葉はどこか心強く感じた。

「うむ、なら、頼む。是非とも協力して百鬼夜行を討伐してほしい。詳しくはここに全て書いてある。では私は、亡くなったお前の父、義幸殿の代わりに職務に励むとしようか。あぁ、そうだ、清明の屋敷の門は叩くなよ? どんな結界が反応するか分からないからな」

為雅は陰陽寮の部屋の前から回れ右をして、今来た廊下を大股歩きで去っていった。

「……ダメもとでやってみるのもいい、か…」

成幸は引っかかっていた。

さきほど微笑みかけられた際、清明の艶やかな唇が動き『それでは、また』と言われた気がしたのだ。しかし、あの距離である。大きな声を出さねば聞こえるはずもない。為雅も気付いていないところを見ると、勘違いなのであろうか。

「………」

成幸は手元の白い封書と為雅の後ろ姿を交互に見送りながら、数刻後、戻橋を渡ることになった。

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