気になるあのコ
「それじゃ、また明日ね~!ハルハルのお誘い成功したら教えて!」
「うん!絶対オッケー貰うから、覚悟しといてね!」
アタシ、
スキップしながら応接室へと向かうと、丁度ホームルーム終了を告げるチャイムが誰も居ない廊下で反響する。
「あ、今日早く終わったんだっけ。ちょっと待たないといけないかな?」
そのまま応接室の鍵を開けて、中でお目当ての人を待つことにした。
「よし、着いたぞ。じゃあ俺は課題の採点に戻るから、喧嘩するんじゃないぞ。」
「え、あ、はい。」
スマホを眺めながら待っていると、廊下から声が聞こえた。先生と、お目当てのあのコだ。先生が小走りで遠退いていくが聞こえて、その後に扉が開かれる。
「もー、遅いんですけど。女の子待たせたらダメってママから教えてもらわなかったの?」
「え、えっと、ひ、春秋先輩…?」
とりあえず、呆然と突っ立っている悠誠君を、座るように促してみる。
「ねー、そこに突っ立ってたらお話出来ないじゃんかよ。とりあえず座んない?」
「あ、あぁ、はい。」
悠誠君はアタシの一言で我に帰ったのか、少し動揺した足取りで椅子へと腰掛けた。未だになぜ自分が呼ばれたのかわからないといった顔をしていたので、私から話を切り出すことにした。
「えっと、何て呼べばいいかな。もうめんどいからユーセーでいいよね。」
悠誠君とか金重君って呼ぶと、お互いの関係に距離が感じられるから下の名前で呼び捨てにする。本来なら君付けだけど、末期患者でもあるユーセーには少し踏み込んで接してみるとこにした。
「それでさ、ユーセーにはアタシの実習ペアになって欲しいの。」
「お、俺が?」
「うん!キミじゃないといけないんだ。」
ユーセーは呆気に取られた顔をさらに豆鉄砲で撃たれたかのような顔をした。ちょっと面白かったけど、それでもそんな顔をする理由がある。アタシはそれについて聞かれる前に、先に答える。
「あ、指名して無理矢理ペアにすればいいじゃんって考えてるでしょ?でもさ、もしアタシのことがどうしてもダメって人をペアにしても、お互いに不幸になるだけじゃん?だからアタシはキミたちからオッケー貰ってペアになりたいの。」
「あ、あぁ…なるほど…。」
ユーセーは納得してくれたみたいだけど、まだ気になることがあるみたいだった。アタシがそのことについて考えてると、次はユーセーからアタシに質問をしてきた。
「まぁ、指名した事情ってか理由はわかったんすけど、なんで俺なんすか?」
アタシからするとこれ以上ない相手なのだが、ユーセーからすると確かになぜ指名されたのかわからないのも納得できる。
「ユーセーってさ、感起師界の中ではちょっと有名なんだよ。全然克服しない人って、どうして克服出来ないのかを考えて克服出来るようにするために、話題に上がったりするんだ。」
年々減りつつあるシンドローム末期患者のなかで、アタシと同世代の人がいるのは稀なケースになってきている。現に、ある先生から聞いた話では、ユーセーは今までに名のある4人の感起師からカウンセリングを受けているらしい。が、成果は全く上がらなかった。そこで、同世代の自分で言うのもアレだけど腕に覚えのあるアタシなら克服させられるんじゃないかとも考えている。
「はぁ…。」
自分が有名であると言われても、それらしい扱いをされていないせいか、いまいちピンときていない様だった。
「それでね、アタシも気になって指名してみたってこと。どう?アタシとペアになってくれる?」
アタシは話を本筋に戻して、ユーセーにペアになってもらうように承諾を求めた。正直なところ、興味半分と自信から来る確信半分でもあった。
困惑しているユーセーが必死に言葉を探しているのを、私はじっと見つめて待つ。
「あの、バイトあるんで後ででいいっすか?」
出て来たのは、待ってほしいという返答。ここまで来ると、返事を待って下手に断られるよりも、多少強引なやり方であってもオッケーをもらいにいった方がいいと思い、さらに言葉を続ける。
「え?ダメダメ!オッケーなのか、ダメなのか、今ここで決めて。じゃないとここから出してあげないから。」
アタシは真剣に頼み込んだ。ここを逃すと、もうユーセーみたいな人には出会えないかもしれない。しかも多感な年頃で同世代なんて、世界中探しても片手で数えられる位の人数しか居ないかもしれない。
「え、じゃあ…いいですよ。本気じゃないならすぐに解散しますから。」
ユーセーの口から、オッケーが出てきた。体感ではオッケーかどうかは半々と思ってたから、実際にオッケーをもらえると安堵と喜びが込み上げてきた。
「やった!じゃあさ、ペアになるわけだし、ファイン交換しよ!」
ファインとは、世界中で使われているSNSで、連絡手段としてはもちろん、写真の投稿や今起こってることなども共有することができるサービスだ。
「ねーねー、アカウント教えて!アタシのアカウントこれだから、間違えて拒否したりしないでね!」
アタシはオッケーをもらえた嬉しさから、喜びを隠すこともせずに連絡先の交換を求めた。
「え、えっと、これでいいっすよね。」
ユーセーは少し慌てた様子でアタシのアカウントを登録してきた。その様子を見て、ユーセーがバイト前だったことを思い出す。
「あ、ごめん!バイトあるんだったよね?また後で連絡するから、バイトいってらっしゃい!」
「あ、あぁ、どうも。いってきます…?」
「うん!」
ユーセーは戸惑うような、照れるような素振りを見せながら、腕時計を見る。うぉ、やべっと言いながら、バイト先へ向かっていった。
アタシはペアになれた喜びと、少しの不安を感じながら帰路についた。
アタシは寮へ帰ると、ブレザーのままベッドへ倒れ込む。
「へへ…オッケーもらっちゃった…ほんとにもらえるなんて…嬉しいなぁ…えへへ。」
まるで初恋の告白が成功した時のように嬉しくて、顔がにやけていた。…初恋なんてしたことないけど。
「あ、そうだ!報告しないと…報告報告っと…。」
アタシは恵梨にファインで自慢をする。
『オッケー貰えたよ!』
『ほんと!?よかったじゃん!』
送信した直後に、恵梨からお祝いのメッセージが送られてきた。
『それで、その後どうなったの?』
『ユーセーはバイトだって。終わったら連絡してくれるって!』
アタシは、思い出したかのようにブレザーから私服に着替えた。着替えながら、恵梨からのメッセージに返信する。
『えー、もう呼び捨て?待ってるだけでいいの?もう何か送っとこうよ!』
『今回はちょっと違った方法をやってみようかなって思ってね。ダメだよ~、バイトの邪魔になっちゃうかもしれないじゃん。』
恵梨は、オレンジのバッチを付けた同じ学年の親友だ。そして、アタシが初めて克服させたシンドローム患者でもある。克服してからも、友達としてよく遊んだりしている。シンドローム経験者として、経験者ならではのアドバイスもくれたりする良い親友だ。アタシが学校で少し有名なのも、恵梨がアタシのことを広めていったことも要因の1つになっている。
アタシは着替えが終わると、勉強のために机へ向かう。テストまで1ヶ月切っているため、ある程度やっておくのが自分なりのやり方だ。それに、ユーセーがわからないところがあれば教えてあげることも出来る。
ペアになったばかりだから、お互いを知ることが大切になる。そのためにも、一緒に居られる理由を1つでも多く用意を用意しておくことも、感起師の仕事でもある。
「えっと、今日のノートはっと...。」
ユーセーは勉強出来るのかななんて考えながら、私はペンを走らせた。
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