普通にデートを楽しむ二人
あえて言うまでもないことだが、なじみとのデートは楽しかった。
めちゃくちゃ混んでいたせいでジェットコースターに並ぶだけで1時間以上かかったりもしたけど、全然苦にならなかった。
むしろ行列に並んでいると必然的に押し込められて密着度があがるからうれしいくらいだけど、心臓がドキドキしすぎて苦しいからやっぱりしんどい。
それに、並んでいるあいだの話題にも事欠かなかった。
なにしろ最初からこんなに並ぶとなると、予定していた場所にも半分くらいしか行けなくなる。
だから計画を変更しないといけないので、そのことについて話し合ったりしていたんだ。
これは絶対乗りたいとか、これはそこまででもないかなとか、こっちのは映画にも出てたからはずせないよねとか。
そういえばあのシーンすごいよかったねとか。あそこでさりげなく出てきた台詞が実は伏線になってたときは、めえちゃくちゃ感動したよなとか。
取り止めのないことを話していたら、いつの間にか俺たちの順番が回ってきて、まだまだ話し足りないのにとちょっと不満に思ったくらいだ。
おかげで係りの人に不思議な目で見られてしまったけどな。
そんな感じで午前中は十分に遊び倒したため、いったんレストランに入ってランチを食べることにした。
お昼時だし相当並ぶと思っていたんだが、到着してすぐに運良く団体のお客が出て行ったためすぐに座ることができた。
「ラッキーだったね」
「やっぱり日頃の行いがよいからだろうな」
「そんなにほめられると照れちゃうなあ」
なぜだかなじみが頬に手を当ててうれしそうにしている。
「なじみのことだなんて一言もいってないけど」
「ちがうの?」
「もちろんなじみのおかげに決まってるけどな」
秒で手のひらクルクルしてしまった。
なじみがニコッと笑顔になる。
「やっぱりなー。そうだと思ったんだー」
そういって目の前で笑う女の子を見れば、手のひらの裏表なんて些細な問題だよな。
歩くだけで道が開けるモーゼのごとく、店に近づくだけで席が空くのは当然のことと言えるだろう。
だからこれもなじみのおかげ。すごい。
ランチを注文して待っているあいだに、なじみがお花を摘んでくるといってちょっと席を外した。
天使なだけじゃなくて花の妖精でもあったのか。かわいい。
いやもちろんその意味はわかってるけどな。
あえて知らない振りをするのがマナーというものだろう。
それはともかく、席を外した今のうちに、俺は今日のなじみの様子を思い返してみた。
てっきり勝負を決めるために今日のデートに誘ってきたと思ったのだが、今のところそのそぶりは見られない。
むしろ普通に楽しんでるようにしか見えなかった。
もちろん俺も普通に楽しんでいるけどな。
いや普通どころか、めちゃくちゃ楽しんでいる。
楽しいすぎて時間のたつのが早すぎるくらいだ。
今だってなんでもう昼を過ぎてるのかわからない。
体感的には、着いてからまだ数分しか経ってないぞ。
開園は10時だったから、今はまだ10時5分くらいのはず。え、13時? おいおい俺のスマホ壊れてるんだが?
それはともかく、めちゃくちゃデートを楽しんでる様子のなじみだったが、なんか様子がおかしい気がする。
どこがおかしいのかと聞かれると、うまく答えられないんだが……。
俺たちは似たもの同士だから、相手の考えてることもだいたいわかる。
でも、だいたいだ。
たまには間違えることもあるし、意見があわなくてケンカすることもある。
なじみの態度になんだか違和感がある。
それがなんなのか考え込んでいるうちに、なじみが戻ってきた。
「はい、これおみやげ」
そういって俺の前に置いたのは、一輪の花だった。
まさか花を摘みに行くといって本当に花を摘んでくるなんて思うだろうか。
天使過ぎでは。
いやちがった、妖精だった。
「まさか本当に花を摘んでくるとは……」
「ねー。お手洗いのところに持ち出し用の花がいっぱいおいてあるから、アタシもビックリしちゃった」
「お手洗いって言っちゃってるけど」
「あ! ちがうちがう! お外まで花を摘みに行ってきたの!」
持ってきたのはドライフラワーなんだよなあ。
そんなところもかわいいんだけど。
それにしても、やっぱりなじみは勝負をかけてこない。
今だって普通に楽しんでいるだけだ。
これは俺から来るのを誘っているんだろうか。
なんらかのカウンター狙いとか。
あり得そうな話ではあるけど、なんだかしっくりこない。
なじみがそこまで計算するだろうか。
無いわけじゃないんだけど、なじみの性格を考えると、なんか違う気がするんだよなあ。
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