本音で語り合いたいから
「実は、今日のデートはルールを決めようと思うんだ」
「ルール? なにそれ?」
「なじみは俺のことが好きなくせに、それを認めないだろ」
「そんなことないよ」
「あれっ?」
「アタシは子供の頃からずーっとコウのことが大好きなんだよ」
「そ、そうなのか」
「でもね、コウの方がアタシのことをもっと大好きでしょ」
「ああ、もちろ……いやなにいってるんだ。そんなことないぞ」
「ちっ」
危ない危ない。
まったく油断も隙もないな。
「とにかくお互い認めさせたいけど、素直になれないから認められないわけだ」
俺は素直になれないわけじゃなくて家の都合なんだけど、それを言い出したら話が進まなくなるのでここではそういうことにしておこう。
「だからルールを決めよう。今日のデート中は相手にウソをつかないこと。そうすれば本心がすぐに分かるだろ」
嘘発見機があるわけじゃないから嘘をついてるかどうかなんてわからない。
でも俺たちはお互いのことを思い合っている。
少なくとも俺はなじみのことが大好きだ。
だからこそ約束は守る。
嘘をつかないと決めたのなら、今日の俺はなじみに対して絶対に嘘をつかない。
それになじみの家にとって「約束」は重い意味を持つからな。
約束したのなら、なじみはそれを必ず守るだろう。
「わかった。いいよ」
なじみがうなずく。
そして俺の腕に抱きついてきた。
その状態で俺を見上げてくる。
「ねえ、アタシに抱きつかれてうれしい?」
うぐっ!
まさかいきなりこれほどの破壊力の攻撃を繰り出してくるとは!
なんという適応力。
もしかしたら同じ事を考えていたのかもしれないな。
うれしいかと聞かれたらもちろんうれしい。
めちゃくちゃうれしすぎてこのまま倒れてもおかしくないくらいだ。
しかしそれを正直に言うことは負けを意味する。
俺が負ければ、なじみと結婚する未来はなくなる。
なじみが好きだからこそ、なじみを好きだと認めてはいけないんだ。
今更だがなんて辛いルールなんだ。
こんなの耐えられない。
だからこそ早くこの状態を終わらせる必要があった。
「ああ、もちろんうれしいぞ」
「!! それってつまり……」
「こんなことをためらいなくできるくらい、なじみが俺のことを好きってことだからな」
「!!!!」
ぱっとなじみが離れた。
「別に、そういうつもりじゃなかったっていうか、本当はすごく恥ずかしかったっていうか……」
耳まで赤くなっている。
本当に恥ずかしかったんだろう。
嘘をついてはいけないルールだしな。
俺は少しだけ目をそらして言った。
「でも、さっきみたいにしてくれると、ちょっとだけうれしいのは本当だ……」
「!!!!!!」
なじみがパアアッと顔を輝かせる。
「そ、そっかー。コウがそこまでいうのなら、アタシもやってもあげてもいいっていうかー」
「もちろんなじみがやりたいならだけどな。俺はまあちょっとはうれしいかな? くらいだし……」
「あ、アタシだって、コウがどうしてもっていうのならやってあげてもいいよ。ちょっとはうれしいかな? くらいだし……」
「……」
「……」
「……でも。せっかくのデートなんだし……。それっぽいことはしたいよな」
「……そうだよね。やっぱりこういうのは雰囲気が大事だと思うし」
「そうそう。だからこれは好きだからとかそういう理由じゃなくて……」
「うんうん。アタシだってせっかくだからしてみたいっていうか……」
「……」
「……」
「えっと、じゃあ……」
「うん、そうだね……」
俺が腕を少しだけなじみに向けると、なじみがおずおずと俺の腕に抱きついてきた。
最初はおっかなびっくりだった手が触れ合い、やがてギュッと力がこもった。
「……えへへ」
となりでそんな声が聞こえた気がしたけど、俺もうれしすぎてそっちに顔を向ける余裕がなかったから、まだ勝負はついてないよな。
それにしても、すでに幸せメーターが振り切れていてすっかり忘れていたが、まだデートどころか待ち合わせをしただけなんだよな。
なのにもうこの破壊力。
実際にデートが始まったらどうなってしまうんだろうか。
一抹の不安と、抑えきれない楽しみな気持ちを持ちながら、俺たちは入場口へと進んでいった。
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