第四章 大好きだよゲーム
朝から二人で待ち合わせ
俺となじみは小さい頃からなにをするにも一緒だった。いわゆる幼なじみってやつだ。
一緒にお風呂に入ったこともあるくらいだからな。
子供の頃の話なのでさすがに今はもう入らないけど、その代わりにお互い告白して付き合うことになった。
こういうのもなんだがなじみは世界一かわいい。
控えめに言ってもこれまでに生まれてきた全人類の中でなじみが一番かわいくて、そして未来永劫なじみよりかわいい女の子は現れないだろう。
つまり人類の到達点。かわいいオブかわいい。それが長澤なじみという俺の彼女なんだ。
そんななじみが俺の彼女だなんて今でも信じられない。
おかげで、朝の待ち合わせ場所にもいつもより早くついてしまった。
早くなじみに会いたいと考えながら歩いていたら、ついつい足が弾んでしまうのも当然だよな。
とはいえ、待ち合わせの時間までまだけっこうある。
どうやって時間をつぶそうか。
とりあえずスマホのなじみフォルダでも見ていやされるとしようかな。
そんなことを考えながら、何気なくいつもなじみがやってくる道へ目を向ける。
そこに天使が舞い降りた。
「おはようコウ」
声を聞くだけで体温が二度上がる。
ごく普通の朝日も、彼女がいるというだけで神の後光に様変わり。
人類の到達点にして世界一かわいい女の子。
長澤なじみがそこにいた。
「あ、ああ。おはようなじみ」
答える声がどもってしまったのは仕方がない。
むしろちゃんと挨拶ができただけでもほめてもらいたいくらいだ。
ちなみに俺はなじみが世界一どころか宇宙一かわいいと思っているのだが、友達にそう話したら、かわいいのは認めるがさすがにそこまで言うのはお前だけだ、と言われてしまった。
なじみのかわいさがわからないなんて可哀想な奴らだよな。
まあライバルが減る分には全然かまわないんだけど。
「コウがこんなに早く来るなんて珍しいね。今日はどうしたの」
「なんとなく早起きしてな。それで早くついたんだ」
そんな俺なんだが、少しでも早くなじみに会いたいと思っていたらいつもより早く着いてしまった、なんて正直に答えるわけにはいかなかった。
俺がなじみを好きだと認めるわけにはいかない事情があるんだ。
だからそんな嘘をついたんだが、俺たちは幼なじみで似た者同士だ。
互いの考えてることなんてすぐにバレてしまう。
なじみが、顔を逸らした俺の正面へと回り込むと、ニヤついた笑みでのぞき込んできた。
「ふうーん。なんとなく早起きねえ」
「な、なんだよ。誰だってそういうときくらいあるだろ」
「でも、だったら家で待ってればいいだけでしょ? なのにこんなに早く来ちゃうなんて、コウったらそんなにアタシに会いたかったんだ?」
ニヤニヤした小悪魔的な笑みがキュートでかわいい。天使のような小悪魔の笑顔。
超至近距離からの笑みに、俺はたまらず視線を逸らした。
なじみがニヤリと笑みを深める。
「目を逸らしたってことは、やっぱりアタシのこと好きなんだ」
クスクスと笑い声までこぼしている。
これで自分が勝ったと思っているんだろう。
だから俺はあえて言ってやった。
「そんなの当たり前だろ」
「……えっ」
「世界一かわいい彼女が朝から俺のことを待ってるんだぞ。一秒でも早く会いたくなるに決まってるじゃないか。できるなら前日から徹夜したかったくらいだ」
「ちょ、ちょっと待って待って……!」
なじみの顔が急速に赤く染まっていく。
「かわいいって言ってくれるのはうれしいけど、いくらなんでもそこまではさすがに照れるっていうか……心の準備がいるから少し待ってほしいっていうか……」
「どうしてだ。本当のことなんだから別にいいだろう。俺は何度でも言うぞ。なじみはかわいい。世界一かわいい。いやもういっそ宇宙一かわいい」
「あわわわあわああ……」
なじみの顔がどんどん赤くなっていく。
しまいには耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。
ちょっと言い過ぎちゃったかな?
なじみがかわいいのは本当のことだからいくら言っても言い足りないくらいだが、困らせたかったわけではない。
黙り込んでしまったなじみをどうなだめたらいいか迷っていると、急になじみが俺の服をつかんで引っ張った。
されるがままにしゃがむと、なじみが俺の耳元でささやく。
「実はねアタシもなんだ。コウのこと、世界で一番カッコいい彼氏だって思ってるから」
「え、そ、そうなのか……?」
「えへへ、そうなのです。だってコウは本当にカッコいいんだもん。だから今日も、コウと会うのが待ちきれなくて早く来ちゃったの。あんなに素敵な人がアタシのことを待っててくれるなんて、考えただけでうれしくてうれしくて、もう一秒だって待ってられなかったんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」
「ダメだよ、待たないよ。だってコウがカッコいいのは本当のことだもん。だから何度でも言うよ。コウは世界一カッコいい自慢の彼氏。ううん、宇宙一カッコいいアタシの一番大切な人なんだから」
「あわああわああわああああ……」
頭がパニックになってショートしてしまう。
なじみが俺のことをそんなに思ってくれていたなんて……。
うれしすぎるのと、恥ずかしすぎるのとが混ざり合って、頭の中がわけわからなくなってしまった。
そうか……。
よかれと思ってかわいいかわいいと言っていたけど、言われるほうはこんな気持ちだったのか……。
なじみがニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込む。
「どう、アタシの気持ちわかった?」
「ああ、すっげーうれしい」
「もう! そういうことじゃないよ!」
ぽかぽか俺の体を叩いてくる。
なんだこれ。幸せすぎる。
幸せをかみしめていると、やがて手を止めたなじみがはにかむような笑みを浮かべる。
「でも、うれしかったのはアタシも同じだよ」
「こんなかわいい女の子が俺のことを好きだと言ってくれるんだ。うれしくないわけないよな」
「本当だよ。こんなにカッコいい人がアタシなんかを好きになってくれるなんて……。奇跡すぎて今でも信じられないくらいだもん」
「いや、いくらなんでもそれはほめすぎだろ」
「コウこそアタシのことほめすぎだよ~」
「えへへ……」
「えへへ……」
「それにしても、コウがこんなにアタシのことを好きだったなんてビックリしたよ」
「本当にな。なじみがこんなに俺のことを好きだなんて知らなかったから驚いたよ」
「ほんと、コウの愛にはかなわないなあ」
「ほんと、なじみの愛にはかなわないよ」
「いやいや、コウのほうがアタシを好きでしょ?」
「いやいや、なじみのほうが俺のこと好きだろ?」
「コウの方がアタシよりも一瞬だけ早く先についてたでしょ? つまりそれだけ好きってことじゃない」
「なじみの方が俺よりも一瞬だけ早く先についてただろ? つまりそれだけ我慢できなかったってことじゃないか」
「いつまでも意地張ってないで、早くアタシのことを好きって認めなさいよ!」
「そっちこそさっさと素直になって、早く俺のことを好きだって認めろよ!」
「はあー!?」
「はあー!?」
さっきまで仲良く談笑していた俺たちは、一転して超至近距離からにらみ合う。
通りがかったサラリーマン風の人が不思議な物を見るように俺たちを見つめていた。
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