相手を好きだと認めさせるたったひとつの冴えた方法
「というわけで佐東、俺のカッコよさと、なじみのかわいさ、どっちが上なのかおまえの意見を聞きたい」
「おまえはいったいなにを言ってるんだ?」
朝の教室で佐東が呆れきった目を向けてきた。
俺が真剣に相談してるのに、まじめに聞く気がないらしい。
「しょうがないな。じゃあはじめからもう一度説明してやろう。今日はいつも通りなじみと待ち合わせてから登校してきたんだよ。そしたらなじみが、俺がうれしそうだからアタシのこと好きすぎるでしょうとか言い出したんだよ。
でも、そういうなじみだって俺に会ったとたんうれしそうな顔になったんだから、俺のこと好きすぎると思うんだよ。
でもなじみはそんなこと認めないだろ。なので、どっちが好きなのか決めるために、俺の格好良さと、なじみのかわいさ、どっちが上か勝負することになったんだ」
「なるほど、何度聞いても意味がわからない」
なぜだ。こんなに丁寧に説明したのに。
「功はほんとなじみちゃんのことになるとおかしくなるよな」
むしろ生温かい目を向けられた。
俺はいたって普通のはずなんだが。
しかたがないので、スマホを取り出すと、取ったばかりの写真を表示させた。
「しょうがないな。よく見ろ佐東、こっちがさっき取ったなじみの写真。そしてこっちが今朝撮ったなじみの写真だ。今朝俺に会ったときのほうがうれしそうだろう?」
「どっちもめちゃくちゃ笑顔なんだけど……」
ダメだこいつにはわからないらしい。
なじみが得意げに胸を張った。
「ふふん、やっぱりね。つまりアタシはコウのことが普通に好きってことが証明されたわね」
「く……っ!」
「それに比べてコウの写真を見てよ」
なじみがスマホの画面を志瑞に見せる。
「ほら、さっき取ったコウの写真よりも、今朝取ったコウの写真のほうがカッコいいでしょ?」
「どっちもデレッデレのうれしそうな笑顔なんだけど」
「ええー、和歌ちゃんどこ見てるのよ! 今朝の方がカッコいいでしょ!?」
「なじみってほんと崎守とのことになるとちょっとおかしくなるわよね」
「ふっ、やはりな。これで俺はなじみのことが普通に好きだって証明されたな」
「むぐぐー!」
なじみが悔しそうにうなる。
「わかったわ。じゃあ勝負よ。放課後までに絶対にコウのカッコいい写真を撮ってやるんだから!」
「いいぞ、受けて立とう。絶対になじみのかわいい写真を撮ってやるからな」
「絶対にコウのほうがカッコいいもん!」
「絶対になじみのほうがかわいいだろ!」
にらみ合って火花を散らす俺たちにむけて、佐東と志瑞がそろってため息をつく。
「普通に好きだってことは否定しないのよね」
「これ以上なにを勝負するんだ……。いや、そもそもなんで勝負してるんだ?」
「私に聞かないでよ。というか、もしかして今日はずっとこれが続くのかしら……?」
「オレもう早退しようかな……」
なにいってるんだ。
二人に審査してもらうんだから、終わるまで付き合ってもらうぞ。
◇
結論からいうと決着はつかなかった。
どの写真を撮ってもなじみがかわいすぎるんだよな。
優劣なんて付けられるわけがない。
まあ俺のフォルダは充実したからそれでいいとするか。
しかし、相手の方が自分よりも好きだと証明することは、思ったよりも難しいということがわかった。
口で言い争ってもお互い認めないから、いつまでたっても終わらないし。
だいたい俺のほうがなじみを好きなんだから、証拠なんてあるわけないんだよな。
それにしても、なじみはどうしてあんなに俺の家へ嫁に来るのを嫌がるんだろうか。
なじみは家が大嫌いだから、家を出られると知ったらむしろ喜びそうなものなんだが。
まあ、すぐ感情的になるくせに肝心なところでヘタレるなじみのことだから、好きだと認めるのが恥ずかしいとか、なんか負けた気がするからとか、そんな理由だろう。
まったく、そんなところも最高にかわいいな。
とはいえそうもいっていられない。
口では勝負がつかない以上、なじみが俺のことを好きだという、絶対に言い逃れのできない証拠を用意する必要があった。
「といってもなあ……」
なじみが俺を好きだという絶対に動かない証拠。
そんな都合のいいものがあるわけない。
というか、人の気持ちという形のないものを、証拠という形のあるもので示すということに、すでに矛盾が発生している気がする。
嘘発見器とか、心の中を読める機械とか、そんなのがなければ無理じゃないだろうか。
もっとも、本当にそんなものがあったとしたら、俺に使われた瞬間に負けが確定してしまうんだがな。
どうしたものかと思いながら、ぼんやりとスマホを眺めていた。
特に目的があったわけではなく、自動で連続再生される動画を見ていただけだ。
こうしてると無限に時間を潰せるんだけど、けっこう見たことある奴とか似たようなものばかり流れてくるから飽きることもあるんだよな。
たまには全然違うやつとかも流してくれればいいのに。
そんなどうでもいいことを考えていたとき、その動画が再生された。
『キスガマン選手権』
「これだ!」
思わず立ち上がって叫んていた。
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