第二章 キスガマン選手権
いつもの登校風景
「おはようコウ」
朝の通学路で、待ち合わせていたなじみと合流した。
今までは特に待ち合わせることもなく、たまたま一緒になったら一緒にいくという感じだったんだけど、さすがに俺たちはもう付き合ってるわけだしな。
ちゃんと待ち合わせをしようということになったんだ。
「約束の時間より五分も早いのに、もう先に来てるんだ」
さっそく先制攻撃か。
俺の正面で少しかがむと、イタズラな笑みで俺を見上げてくる。
「もうコウったら、そんなにアタシに会いたかったんだ?」
八重歯の似合いそうなキュートな笑顔が俺のハートを直撃した。好き。
「好き」
「……ふえっ?」
おっと、つい心の声が漏れてしまった。
しかたないよな。
だってなじみがかわいすぎるんだから。
けどなじみにも不意打ちだったようで、見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。
「あ、あの、えっと……」
しどろもどろになりながらも、周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、俺にだけ届く声で小さくささやいた。
「アタシも好き、だよ」
二度にわたる恋の矢が俺のハートを貫く。
照れながらも精一杯の勇気を振り絞ってこんなかわいいこと言ってくれるんだよ。
これで好きにならない奴なんているの?
俺はもう好きだからこれ以上好きになれないと思ってたけどまだ上があったわ。
好感度10兆が好感度20兆になった感じ。
もはや天文学的好感度だけど、宇宙一かわいいどころか未来永劫かわいいなじみは時空を超越したかわいさをもっているわけなんだから、天文学ごときで俺たちの愛を計れるわけがなかったな。
愛の深さに感銘を受けていた俺の袖を、なじみが小さく引っ張る。
「あ、あの、黙ってないでなんかいってよ……。恥ずかしいじゃない……」
「あ、ああ、ごめん。うれしくてつい……」
「アタシだって好きって言われてうれしかったんだからね」
すねたように頬を膨らませる。
ちょっと可愛いが過ぎない?
なんなの今日。
もしかして俺を殺しに来てるんだろうか。
なら本望だ。死因、幸せ死。我が生涯に一片の悔い無し。
「そろそろ行こうよ。ずっとこうしてたら遅刻しちゃいそうだし」
「あ、ああそうだな。早く行かないと」
歩き出した俺の横に、なじみが少しだけ駆け足になって並んだ。
たったそれだけのことでものすごく心が満たされる。
これが恋人になるってことなのか……。
「それにしても、コウってアタシのことちょっと好きすぎるよね」
「えっ」
いきなりいわれて、心を見透かされたのかと驚いた。
「な、なんだよいきなり」
「だってうれしそうな顔してるもん」
「……いや、そんなことないぞ、いつも通りだ」
慌てて表情を取り繕う。
が、なじみの目はごまかせなかったようだ。
「だーめ、何年一緒にいると思ってるの。アタシに会ったときからずっとうれしそうにしてるのわかってるんだからね」
「ぐっ……」
「そっかそっか。コウってアタシに会うのがそんなにうれしいんだ? いくらなんでもちょーっとアタシのこと好きすぎるんじゃないかなあ? えへへー」
「ぐぐぐ……っ!」
勝ち誇るなじみはすっかり上機嫌である。
なんとか表情を取り繕ったつもりだったんだが、さすがに幼なじみの目はごまかせなかったようだ。
なによりその指摘は事実なのでなにも言い返せない。
強いていうなら、なじみに会う前からじゃなくて、朝起きたときからもうずっと楽しみすぎて口元がヤバかったくらいか。
「アタシもコウのこと好きだけど、やっぱりコウのほうがアタシのことを好きだよね?」
朝の先制攻撃でいきなり窮地に追いつめられてしまった。
ニヤニヤした笑みでグイグイ迫ってくる。
腕が触れただけで心臓が跳ね上がった。
なんでなじみの腕はこんなにやわらかくてあたたかいの? 本当に同じ人間なの? あ、人間じゃなかった。天使だったわ。
ついでになんだかいい匂いまでしてくるし。
ヤバい、理性が溶けそうだ。
このままなじみを抱きしめて愛を叫べたらどんなに幸せだろう。
でもそれはできない。
なじみを好きだからこそ、ここで負けを認めることはできないんだ。
舌を噛みちぎる勢いで噛みしめて意識を取り戻すと、ここぞとばかりに反撃を開始することにした。
「そういうなじみだって、俺に会ったとたんいきなり笑顔になったじゃないか」
「アタシはいつだって笑顔だよ」
ニコッ。
かわいい。
だがもちろんだまされない。
「俺に作り笑いが通用すると思うなよ。何年一緒にいると思ってるんだ。この際だから言っておくが、俺はなじみの笑顔が大好きなんだ」
「あ、そ、そうなの……?」
「ああ、そうなんだ。いつもなじみの笑顔にいやされてきた。うれしいときに笑い、楽しいときに笑い、美味しいスイーツを食べて浮かべるなじみの笑顔が好きなんだ。毎朝俺に向けてくれる笑顔が、一緒にお昼を食べようと誘ってくれる笑顔が、一緒に帰ろうというとうれしそうにうなずいてくれる笑顔が、俺は好きだったんだよ!」
「ちょ、ちょっと、ちょっとストップ、ストップ! そそそそんなうれしいこと急にたくさん言われると幸せすぎてアタシのキャパが……!」
顔を真っ赤にしたなじみが止めようとしてくるが、もちろん止めるわけがなかった。
「いいや、やめないね! なじみは俺と目が合うと必ずニコッと笑ってくれるよな。友達と話してるときでも俺が来るとすぐに顔を輝かせるし、新しい服をほめたときなんかはそれはもう一日中ニッコニコだっただろう!」
「あーあーあー! 聞こえないー! 聞こえないー!! 聞こえないー!!!」
「あのときのなじみは完全に俺に恋する乙女だった!」
「やめてーやめてー! そんな本当のこと恥ずかしいから言わないでー!!」
なじみの顔はもうすっかり茹でダコみたいになっていて、目もグルグル渦巻いている。
「そんな俺だからわかる! 今朝俺の姿を見たときのなじみは、キラッキラの笑顔だった!」
「あわわわわわ……」
「まったく、本当になじみは俺のことが好きだよなあ。もっと素直になればいいのに。まあそんなところがかわいいんだけど」
「はあ……はあ……。だ、だいたい、そういうコウだって、アタシのことそんなに見てるなんていくらなんでも好きすぎるでしょっ。まあそんなところがカッコいいんだけど」
「いやいや、なじみのかわいさには負けるよ」
「いやいや、コウのカッコ良さにはかなわないなあ」
「俺を好きななじみのかわいさのほうが上だろ!」
「アタシを好きなコウのカッコ良さのほうが上でしょ!」
「「なにおおおおおお!!」」
顔をくっつけてにらみ合う俺たちを、通り過ぎる人たちが変な目で見つめていた。
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