そして一週間後

 登校したばかりの朝の教室で、なじみがニヤニヤとした笑みを近づけてきた。


「コウっていつもアタシのこと見てるけど、アタシのこと好きだよね?」


 一兆年に一人といっても過言どころかむしろ足りないレベルの超絶かわいい美少女がこうして話しかけてくれるだけで今後一生幸せになれることは約束されているのだが、その気持ちをぐっとこらえて俺は真面目な顔を作った。


「当たり前だろ。いっつもどころか毎日なじみを眺めていたいくらいだ」


「えっ、あ、そ、そうなんだ……」


「だって、こんなかわいい彼女がいたらそりゃ毎日見たくなるに決まってるだろ……」


「……アタシ、そんなにかわいいかな。えへへ……」


 頬を少し赤くして、はにかむように微笑む。

 天使すぎて昇天するかと思った。

 思わず手が伸びて、なじみの髪をなでるようにさわる。

 さらりとした絹のような感触に手が幸せになる。


「こんなにかわいい彼女がいるなんて、俺は世界一幸せ者だな」


 思わずそんなことをいうと、なじみは小さな笑みと共に首を振った。


「ちがうよ。コウは世界で二番目だよ」


「え、どうして」


「だって、それはね……」


 なじみが俺に体をぴったりとくっつけ、耳元でささやく。



「コウの彼女になったアタシが世界で一番幸せだもん」



 耳から脳が溶けるかと思った。

 なんだこれかわいすぎる。

 こんなかわいい子が現実に存在するの?

 するんだなあこれが。


 幸せすぎてなじみの頭をなでる手が止まらない。

 なじみも俺の膝に座ったまま、うれしそうに目を細めた。


「えへへー、これ好きー」


「俺も今すっげえ幸せだ」


「好きになった人がコウで良かった。あの日告白してくれてありがとう」


「俺だって好きになったのがなじみで良かったよ。あのとき告白してくれてありがとう」


「どういたしまして」


「こちらこそどういたしまして」


「ねえコウ、好きだよ」


「知ってるよ。俺だって好きだ」


「でもコウのアタシに対する愛には負けちゃうかなあ」


「さすがになじみの俺に対する愛には負けるけどな」


「アタシの彼氏になれたコウが世界一幸せのくせに!」


「俺の彼女になれたなじみが世界一幸せなんだろ!」


「はあ!? 自惚れないでくれますー!? アタシは世界で二番目に幸せですー!」


「俺のほうが世界で二番目に決まってるだろ!」


「コウだってアタシが告白したときすっごくうれしそうな顔してたじゃない!」


「いやだって、なじみが俺のこと本当に好きなんだって思ったら、ついうれしくなったっていうか……」


「あ、うん……。実はアタシも、アタシのことをそこまで想ってくれてるんだって思ったら、すごくうれしかったんだ……。同じ日に同時に告白するなんて、すごくロマンチックだなって……」


「はは。やっぱ俺たち似た者同士だよな。改めて思ったよ。俺はなじみが好きだ」


「うん。ありがとう。あたしもコウのこと好きだよ」


「でもなじみの愛には負けるけどな」


「そんなあ。コウのアタシに対する愛にはかなわないよ」


「確かに俺はなじみが好きだが、なじみの方が俺のことをもっと好きだろ」


「まさかあ。だってコウ、アタシのこと大好きじゃない」


「……いくら俺のことが好きだからってさすがに妄想しすぎじゃないか?」


「そっちこそアタシのこと好きすぎてまともに考えられなくなってるんじゃないの!?」


「はあー!?」

「はあー!?」


「………………ほんとあんたらのそれなんのケンカなの……?」


 始業のチャイムが響く中で、志瑞の呆れ返るような声が聞こえた。



 屋上での告白から一週間。

 俺たちはずっとこんなケンカを続けている。

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