Kapitel.6 瞳鏡《プピレ・シュピーゲル》

 次に狙ったのはガラス職人のユーヌ。


「ディーナー。あんた自分でなにやってんのか解ってんのか? テハーがやられたって噂は聞いたよ。まさかアリスズュステーム中にアリス側に加担するって、誰も思わねえよ。気でも触れたんか?」

「私は真っ当にただ、殺したいだけだ」

「やっぱ気が狂ってるってーの」


 ユーヌの言葉を切るようにロイが短剣ドルヒを投げると、彼女はそれを睨んだ。

 すると軌道が180度変わり、ロイに向かって飛んでくる。彼はこともなげに避けつつ、「厄介だな」と呟いた。

 ユーヌが得た使命者の能力は見たものを跳ね返す。それは視認によるゼロ秒での反撃。


「“瞳鏡プピレ・シュピーゲル”に攻撃は通用しねーよ」


 ロイは踵を返すと森に入っていった。それをユーヌが追いかける。

 背の高い木々に、月の光は遮られ、そこはとても暗かった。

 ロイを追い詰めようとユーヌが駆けたとき、なにかに足を取られて転んだ。しかし地面に顔面が着く直前に、彼女の体は180度回転して、転倒前の状態まで体が起き上がった。“瞳鏡プピレ・シュピーゲル”は、自分に向く攻撃のすべてを跳ね返すようだ。それが地面であっても。


「無駄無駄。しっかしあたしはなにに転んだんだ?」


 彼女は自分が転んだ辺りを見る。するとそこには細い糸が張られていた。ロイの罠である。あらゆる場所に糸が張られていた。


「どうする? 糸はどこにも進行していないぞ?」

「小賢しぃー。んでも、それでどーすんの? あたしが動かなきゃいいことだろ?」

「お前がそこに居ることで既に、目的は果たされている」


 ロイはなにかを投げた。ユーヌは目を凝らした。が、飛んでくるはずのなにかを見ることはできなかった。その物体は彼女の眼球に突き刺さり、悲鳴を上げた。

 ロイはくずおれた彼女に追撃の刃を振りかざす。ユーヌは残った瞳でそれを見た、がしかしそのあるはずの先端を、彼女は視認することができない。もう片方の眼球もそれで貫かれた。


「なんでぇ……!」


 両目から血を滴らせながら、嘆いた。


「月明かりの無い場所に追い込んだ」

「それでも見れたはずだ! 短剣ドルヒだろ!? 刃の部分は月明かりの無い場所だって、光って見えるはずだ」

「その短剣ドルヒの刃は、黒く塗った後、わざとざらつく程度にヤスリをかけてある。まったく光を反射しないものだ。使命者の能力は、使命者の噂と一緒に流れてきていた。実際に見て見ないと分からない部分もあるが、見たら跳ね返されるのなら、見えないようにするまでだろう」


 言い終わるとロイはユーヌの首を掻っ切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る