第135話 女の子がいる場で下ネタを言う場合は、その女の子が許してくれるかどうかを確認してからにしよう。まあ、このケースは誰でもアウトだと思うけど。
色々なことがあった夏休みも終わり、後期が始まった。
三年の秋になって、チラホラとインターンとかに行ったっていう話を周りで聞くようにもなった。といっても、まあ大体その手の真面目な話は古瀬さん経由なんだけど。島松と星置? ……あのふたりからそんなワードが出てくるはずがない。
ゼミの教授から「そろそろ卒論のテーマとか決めろよー」と言われ、そういえば栗山さんも卒論の提出間近でそろそろ立て込むのかなあと思ったり。実際はいつもと大して変わらなかったのだけど。どの時間に卒論書いているんだって思うけどね。
たくさんの終わりをちらつかされるこの時期も、僕や星置、島松、古瀬さんの四人は変わらず頭の悪い会話を繰り広げていた。
「また合コン負けたよ……いつになったら俺に彼女ができるんだー教えてくれよみんなあ」
学食四階の和食レストラン。窓の景色がオレンジに色づいた眺めはこれまた一興で、うちの大学が誇れる数少ないポイントなのではないかとすら思う。
「もういっそ諦めたどうだ? 彼女作るだけが大学生活じゃないと思うけど」
「むきー。いいよな、いいよな。お前ら三人は彼氏彼女いてよお。どうせ独り身の俺を低俗な人間だと思って見ているんだろ?」
箸に掴んだとんかつを周りに突きつけ、喚きだす星置。
「べ、べつにそういうふうには見てないよ……? 星置君」
「……被害妄想が過ぎるぞ星置」
続けざまに島松と古瀬さんに窘められると、
「くう、いいよなお前らは、そろそろ付き合い始めて一年だっけ? さぞやることもやっているんでしょうね余裕ですねえ」
「っっ」
「ちょ、星置、おまっ」
こいつ、とうとう古瀬さんいる前で下ネタぶち込みやがった。あまりにも彼女できないから思考が逝きはじめたか。
「ご飯食べているときにそういうこと言うんじゃねーよアホ。だから彼女できないんだよ」
「上川もあのゆるふわの先輩と無事お付き合いを始めて? ふうん。どいつもこいつも『チェリーズ同盟』を裏切りやがって」
だからその同盟を承認した覚えがないんだよなあ。
「……もう、俺は一生ひとりで寂しく死ぬんだろうな……」
ひとりで喚いてひとりで落ち込む星置。……面倒くさい。
「上川……。綾ちゃんって彼氏いるの?」
「……まさか、お前僕の幼馴染に手を出すつもりか?」
「……あれだけ可愛い子と知り合いなのに、友達に紹介しないとかそんな不義理あるか?」
別に友達に紹介したくないわけではないけど、星置には嫌だ。絶対に。
「綾とお近づきになりたいなら自力でどうにかしてください。あ、もしデートとかするなら僕に申請しろよ」
「兄貴かよ。お前兄貴かよ」
「上川君と綾ちゃんはほんとに実の兄妹みたいに仲が良いよね」
「とりあえず、僕の目が黒いうちはお前に綾をマッチングさせたりはしないから。攻略したければひとりで頑張って」
「ああ……俺に彼女……彼女ぉ……」
と、独り身を嘆く星置は放っておいて、こんな感じに、大学生活は進んでいった。
「じゃあ、僕はもう授業ないから帰るね。お疲れー」
お昼も済ませ、講義が残っている星置たちと別れ、僕は駅に向かおうとする。すると、
「あ、上川くーん」
その三人とちょうど入れ違いになるような形で栗山さんが僕のことを見つけ、文学部棟の3号館の出口から駆け寄ってきた。
「上川くんもこれから帰り?」
あっという間に隣の位置を確保して、笑みをキープしたまま尋ねる。腕まで掴んでくるから、まだ僕の様子を見ている三人に筒抜けだ。
「……ほんと、あれで年上とか反則だと思わないか? 島松」
「うーん。まあ、年下って聞いても違和はないよね」
「見ていてほんのりするよね、あのふたり」
……とりあえず、今はこの場から逃げよう。うん。逃げたほうがいい。
「は、はい。帰りなんです。帰りなんでとりあえず駅行きましょうか栗山さん」
「うんっ」
友達三人の生温かい視線から一刻も早く逃れるために、早足で3号館の近くを後にする。
「栗山さんももう終わりなんですか?」
「えへへー、とりあえず今日やらないといけない卒論の準備は終わったんだー。ね、今日も家行っていい?」
「……駄目って言っても来るじゃないですか」
「やったー」
僕から同意を得るなり、すぐに音の外れた鼻歌を奏で始める。ただ、以前と変わったことがあるとするなら。……歩いているとき、手を繋ぐようにはなったってことかな。
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