第133話 まあ、同性のほうが話しやすいことってままあるよね。

 綾の悲鳴が落ち着いたタイミングで、ふたりの話し声が鮮明に聞こえるようになってきた。

「で、どうしたんですか? 急にそんな服を着て」

「う、うう……だ、だって急に上川くんと付き合うことになって、どんな感じで会いに行けばいいかわからなくなって……そういえばこんな感じの女の子が載っている本いっぱい持ってたなあって……」

 流れ弾が飛んで僕に当たっている気がするけど、もういいや。綾に僕の性癖嗜好知られてもなんか、仕方ないよねみたいな。

「それでそんなロリータっぽい格好してきたと」

「……うん」

「そもそもそんな服持ってたんですね、栗山さん」

「これしかないけど……、高校生のときに友達と買い物したとき流れで買うことになってね」

 ……その友達、深川先輩じゃないでしょうね。っていうか深川先輩しかいないでしょ。あんな服、仲良い友達同士じゃなきゃ買う流れなんてならないでしょ。まあ、まだ軽い感じだけど、今の栗山さんの服は。

「まあ、よっくんが栗山さんにそういう服着て欲しいとか、栗山さんが着たいって言うなら話は別ですけど、無理してよっくんの好みに合わせることはないと思いますよ? いつもの栗山さんで充分よっくんを落とせたんですから」

「そ、それは……そうだけど」

「あー、もう歯切れ悪いですね。いつもみたいに何も考えずに私たちをイラつかせてくださいよ。栗山さんは考え込むととんでもない方向に動き出すんですから」

「上川くんにも似たようなこと言われたかも……」

 言いましたね。はい。

「栗山さんは上川くんのこと好きなんですよね?」

「うん、好きだよ?」

 直球……。聞いたこっちが恥ずかしくなる。あ、お湯沸いた。

「別に付き合うことが嫌なわけでもないんですよね?」

「うん……」

「じゃあ今まで通り普通にいればいいと思いますよ? 変に気張らなくても、ふたりは見ているこっちからすれば付き合っているふたりにしか見えないので」

「そ、そうなの……?」

 そうじゃないの? だとするなら栗山さんの距離感の測りかたバグってるよ。

「……え、ええ。だから栗山さんはいつも通りでいいと思います」

 綾も引いたな今。「え? あれで普通なの?」とか思ったな。

「そ、そうなんだー」

 あ、ちょっと語尾が緩くなってきた。

「いつも通りの栗山さんで、よっくんは十分悶々としているはずなので、それでいいです。多分」

 ……おい、悶々としているって。事実だけど、事実だけどさあ。言いかたあるでしょ。

「だから思う存分いちゃついてください普段通りに」

 ……いや、少しはいちゃつかなくてもいいんですよ? 言うなら島松と古瀬さんくらいの距離感でいいと思うんですよ僕。

「はい、栗山さんは何も考えずに、思うがままに行動してください。それが一番です」

「うん、わかった」

 突然、再び服と服とが擦れる音がし始める。

「え? え? あ、そっちなんですか? 違いますって、私じゃなくて、よっくんのほうですって。ひうっ! そ、そこ触ったらだめですっ、くっ、くすぐったいっ! よ、よっくん、いつまで紅茶淹れているんですか、もう終わってますよね? 気づいてますからね、お湯沸いたの聞こえてますからねっ! ひゃう! くっ、栗山さんっ」

「えへへー、ここ最近、幼馴染ちゃんのこともふもふできてなかったから、成分補給させてねーうりうりー」

 ……紅茶、冷めそうだな。

 お茶菓子でも探すか……。そう思って戸棚を開くと、台所と部屋を繋ぐドアが開かれた。

「よっくん、ひどいです。いい加減助けてくれてもいいじゃないですか」

 半分涙目になっている綾が抗議声明を僕に送る。背中には、栗山さんが髪の毛をわしゃわしゃとしている。

「……い、いやあ、ちょっと準備に手間取ってさー」

「もう紅茶出来上がっているじゃないですか。いつまで台所に避難しているんですか。ほら、よっくんも部屋に戻ってください」

 そうして、綾に引っ張られるような形でベッドに連れ込まれる。

「ちょ、綾さーん、待って待って待って」

「ふたりも一緒なんだね、わーい」

「へっ、く、栗山さん? そ、そこくすぐったいんですけど」

「……よっくんも栗山さんにもふられればいいんです」

 ……おう。なんだこれ。なんなんだこれは。なんか予想していた絡みと、違うぞ。

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