第132話 想定外の状況になるとポンコツ化するヒロインって可愛くないですか(真顔)?

「っていうか、私栗山さんいないタイミングでよっくんの家いていいんですか? これって浮気になったりしません?」

「……綾にその気はないし僕にもないし栗山さんも僕と綾の関係は知っているから大丈夫……あ」

「あ、ってどうかしたんですか?」

 ……これ、前に僕が島松に言ったこととそっくりそのまま同じ状況じゃないか。僕も人のこと言えないよこれじゃあ……。

「いや……僕の話」

「とにかく、拗らせないようにだけ気をつけてくださいね。ふたりが仲違いすると時間かかるのは今年の冬に実証済みですから」

 頭が痛い話だ……。悪いの僕なんで何も言い返せないんですけど。

「フラグとかじゃないですからね。ほんとに。私が仲介するの面倒ですし、栗山さんとふたりで会うとすぐに抱きついてきたり頭撫でてきたり色々大変なんで、ほんとのほんとにちゃんとしてくださいね」

「う、うん……」

 とりあえず、綾に関しては話せばわかってもらえるはず。……今度会ったときにでも言えば。


 って思っていたけど、その次はなかなかやって来ないまま、次の土曜日を迎えた。夏休みもあと一週間で終わりを告げる。

 例によって綾は僕の部屋でのんべんだらりとしつつ、他愛ない話をしている。

 すると、家の外から、聞き覚えのある鼻歌が聞こえてきた。けど。

「……よっくん」

「……綾も気づいた?」

「「……鼻歌の音が外れてない」」

 ずっこけたくなる意思疎通だけど、でも、かれこれずっと、栗山さんの訪問に気づくのはあの調子のずれた鼻歌からだったから。

「え? 栗山さんですよね? 鼻歌混じりに道を歩くような幸せな人、ここ一帯で栗山さんしか見たことないですけど、よっくん」

 ……辛辣な言いかただなあ。事実だけど。

「多分……栗山さん。以外にいないと思う」

 僕と綾はしばらくの間図ったように黙りこんで、耳をすませる。

 やがてインターホンが鳴り響く。僕らはそれに続くであろう「上川くーん。いーれーて」を待つけど、何も声はしない。

 その事実に僕と綾はあんぐりと顔を見合わせる。

「こ、これは相当かもですよよっくん」

「……やっぱり強引すぎたのかなあ」

「へ? そんな変な告白したんですか?」

「……なんでもないです」

 やべ、自滅した。

「あとで事情聴取ですね、よっくん。ほら、はやく出ないと」

 僕は頭を抱えつつ立ち上がって玄関に向かい、ドアを開ける。

「はい……やっぱり栗山さんだ……って……ええ?」

 目の前の光景が少し信じられず、僕は卒倒しかけてしまう。いや、だって。

 ……真っ白なロリータっぽい格好した栗山さんがいたらそら驚くよ。洋服着たお母さんを見てびっくりしちゃう日曜日の国民的アニメのお父さんばりに事案だよ。

「ど、どうしたんですかその格好」

「……だ、だって上川くん、こういう服着ている子の本いっぱい持ってたから……好みなのかと思って」

 モジモジしつつ、俯きつつ、顔を朱色に染めつつ。……可愛すぎかよ。心臓に悪いわ。

 「お友達」の嗜好を若干踏まえているのは置いておいて。確かにそういう服好みだけど。

「よっくんー? どうかしたんですかー……く、栗山さん?」

「あ、幼馴染ちゃんだ、久しぶりー、会いたかったよー」

 なかなか部屋に入ってこないから様子を見に来たのだろう、綾も栗山さんの変貌に驚きを隠せなかった。

 ……そして、綾に対しては通常運転なんですね。ええ……?

 靴を脱ぎ、なかにいる綾に飛びつく栗山さん。はーい、どうぞゆりゆりしてくださーい。……しかしまあ、片方がフリフリした服を着ていると本当に背景に百合の花が咲いているのではと錯覚してしまう。

「ちょ、え? 私にはいつも通りなんですか? それってありなんですか? よっくん、見てないでどうにかしてくださいっ」

 ……かの界隈に有名な言葉があってね。女性ふたりの間に割り込む男は去勢されればいい的なワードが。それは嫌だから、収まるまで台所で紅茶でも淹れておくよ。

「な、何優雅にティーパック探し始めているんですか、よっくん、よっくんってばー!」

 部屋のベッドらへんからそんな幼馴染の悲鳴が聞こえてきたけど、聞かなかったことにした。……綾に対してはいつも通りなのが、結構しんどい。

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