第129話 α=67。あのサイドストーリー描いたときから着地はこうかなって考えてました。さっさとくっつけこのやろー。

「上川くん、わたしのウェディング姿見て照れてて可愛かったなー」

 ……なんで夢のなかでさえも僕はいじられないといけないんだ……。そんなに僕をいじって楽しいか、楽しいんですか。

「ブーケトスは幼馴染ちゃんが貰ってたし、絵里ともいっぱい話せたし、上川くんの友達も色々騒いでいて楽しかったよ?」

 楽しかったよ? って、それなんの報告ですか。それに、僕の友達は騒いでいるんですね。ってことは星置かな? あいつは最後まで友達の結婚式を憎んでいそうだ。あとは島松がずっと携帯ゲーム機ピコピコしているのを古瀬さんが窘めていたりとか? そうやって考えると、僕の周りって騒がしい人ばかりだったりするのかな……。

「っていう夢を見たんだー上川くんっ」

「……つまり何が言いたいんですか栗山さん」

「えへへー、だから、まずは恋人から始めよっ?」

 朝、歯を磨き終えた僕の背中にじゃれついて来る栗山さんは、そんなことを言ってくる。

 は? 今、なんて……?

 野球で言うならど真ん中に来た半速球のストレート。サッカーなら無人のゴールの前にボールが転がってきた。バレーならチャンスボール。

 ……とてつもない絶好のチャンスが、転がり込んできたのでは……?

「あー、それですね……そうですね……そこまで言うんだったら──」

 僕は必死に続けるべき言葉を探しながら、隣でぴょこぴょこと跳ねているツインテールを横目で眺める。

 眠気なんて、今の彼女の一言で覚めてしまった。思考はちゃんと回っている。

 大丈夫。わかっている。今がそのときだって。

 無自覚テロリストの栗山さんが無自覚にも僕にチャンスを珍しくくれたんだ、その機会を逃すわけにはいかない。

 手早く、でも急いでいることを栗山さんに悟られないように口をゆすいで、歯磨きを終えて、

「……僕も、いつの間にか栗山さんのこと好きになってたみたいで」

 洗面台に手をついて、僕は振り向いて彼女のことを見る。すると。

「……へっ? は、はれ……? か、かみかわくん……?」

 まさか僕からそんな返事が来るとは全く予想していなかったのだろう。今までで一番、顔を真っ赤に染め上げた栗山さんが頭から蒸気を出していた。

「なーに慌てているんですか。出会ったときからあんなに僕のこと好きって言っておきながら、言われる立場は慣れていないんですね」

 少しでも気を抜くと震えだしそうな声を抑えつけて、僕は続ける。

「え、だ、だって、そ、そんな、い、いままでそんな素振り一度だって」

「……栗山さんも大概馬鹿なんですか?」

「ふ、ふぁい?」

 ……口回ってないし。あれ、意外と押しに弱いのか?

「……あのですね、好きでもない女性と、こうして泊まりで旅行なんて行くわけないじゃないですか。仕事じゃあるまいし」

 普段あれだけ普通に端から見ればイチャイチャしているような行動を取るくせに、いざ自分がされる側になると余裕がなくなるって……。典型的なギャップというか。二次元キャラでよくいるのは、年上のお姉さん系ヒロインが実は初心でしたとか、普段が落ち着いているとか大人っぽいとかそういう人で、栗山さんの無邪気なそれとは似てないけど。

「は、はわわわ……」

「それともあれですか? 僕は好意を持たないって信じこんで油断してましたか? ……僕だって普通の人間ですから、ひとりくらい好きな人はできますよ。オタクだって、別に二次元限定で恋するわけじゃないんです」

 さっきまで僕をからかっていたような調子は影もなく、完全に話の主導権は僕が握っていた。

「……栗山さんと過ごしていると、楽しいんです。ほんとに」

 バッドを強く振って、がら空きのゴールにキックモーションを入れて、セッターがあげたボールにスパイクを入れるために飛び跳ねて、

「だから……僕でよかったら……付き合ってくれませんか」

 決定的な一言を、僕はとうとう呟いた。

「は、はれ? こ、これ夢じゃない……よね?」

「痛いなら夢じゃないと思いますよ」

 もう恥のかき捨てだ。僕はすぐ前にある栗山さんの頬をぷにっと引っ張ってみる。

「いたいいたい、上川くんいたいよ」

「よかったですね、現実みたいですよ」

 半分涙目になった栗山さんはどうすればいいかわからないまま忙しなく顔を動かしている。

「……まさか、今までの全部嘘でした、とかそんなオチはないですよね?」

 もしそうだったらこの場でブチ切れて先に東京帰るな……。そして女性不信になる。

「そ、そんなことない」

 すぐに否定の声が、聞こえてきた。

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