第108話 東京にあるすべての大学が都会にあると思ったら大間違いだ。
「……なあ、さっきから歩道をうろうろしている怪しそうな男ってもしかして」
タクシーの後部座席、隣に座る島松は窓越しに映る不穏な光景に口を開く。
綾と古瀬さんを家に送り、僕も後部座席に移動した。同じ景色が見えている。
「星置捜索部隊なんじゃないか?」
「俺さ、こういうのってホラーゲームとかでしか見たことないけど、死んだらコンティニューってないんだよな?」
「当たり前だろ」
「……じゃあ、死なないように頑張るわ。俺まだやり残したゲームがあるからさ」
死亡フラグすれすれの台詞を吐くな。僕が不安になるだろ。
いや、こっちは戦う意思がないことを伝えるために星置を回収するのだから、そんな展開はあり得ない。フリとかではなく。
「はい、着きましたよお客さん」
クレジットカードを突っ込んでタクシー代を支払って、僕と島松はモノレールのある駅前で降りた。八王子駅と違って降りた周辺はまったくと言っていいほど灯りという灯りがなく、大通り沿いだと言うのにたまーに走り抜けるトラックのヘッドライトと頼りない街灯の明るさしかない。まあ、そういう場所だから仕方ないんだけど。だから僕らが通う大学は田舎田舎といじられるんだ。一応都内にある大学なのに。
そんなことはさて置いて。
「で、どうやって探すんだ、上川」
熱帯夜なのだろうか、夜なのにまったく涼しくならないもわっとした空気を肌に感じながら、僕はキョロキョロと辺りを見渡す。
「……あいつは駅に向かって逃げ回っているはずなんだ。野猿街道沿いにいて逃げ込む先の駅は、ここしかない。だから、この辺で待ち受けながら探していれば、そのうちあいつは来る、と思う」
「それでも来なかったら?」
「仕方ないから二手に分かれて片方は駅で待機、もう片方は近場のコンビニとかを中心にどこか店とかに逃げ込んでいないから確認して回る。連絡がつかないんじゃこれしかない」
「……ゲームみたいに味方キャラの位置情報わかれば手っ取り早いのにな……」
「僕だってまさかこんな状況になるなんてつゆも思わなかったよ。ああ、今一番欲しいものはまさにそれだよ」
「……あと、敵キャラの位置も把握できたらどんなに安全だろうな」
島松は、駅の出口からまた怪しそうな若い男が降りてきたのを見て、薄く苦笑いを浮かべる。
「まあ、別に僕らはこいつらから逃げるメリットはまったくないからな。大人しくホールドアップして敵対する意思がないことを示せば何も起こらないはず」
「……そうだといいけどな」
「そうでないと困るんだけどな、でも、さっきの追っ手、僕らのこと見ても何も反応しなかったから、標的はとりあえず星置だけなんじゃない?」
「わかりやすく救出作戦ってわけか」
「なんだったら、追っ手の動きをしっかりと追跡すれば、星置の居場所がわかるかもしれないし。無理はする必要はないと思うけど」
と、二たび今度は僕らの目の前を通過した、周りを凝らすように見ている男を眺めつつ僕はそっと呟く。
「多分、追っ手がここらへんに集中しているってことは、星置はここらへんにいるってことなんだよ。多分」
「じゃあ、しばらくは待つ、か」
「ああ」
そう言っては、モノレールの走る高架下と野猿街道の交差点、適当な場所で立って周りを確認しつつ星置の登場、もしくは追っての動きを待った。
立ち止まっていても汗は体から浮いてきて、一枚だけ着ているシャツには徐々に汗の染みが目立つようになってくる。飲み会のときはそんなでもなかったけど。
セミの合唱が時折聞こえてくるなか、駅の近くで待ち伏せを始めて三十分くらいしたタイミングで。
「いたぞっ! 今度は逃がすな!」
暗闇から怒号のような叫びが聞こえてきた。
僕と島松は瞬時に目を見合わせては体を跳ねさせては、声のした方向へと走り出した。
やっぱり、単純な奴って行動パターンが読みやすくて扱いやすい。
少し走ると、やはり数人の追っ手が一人の男を追い回していた。ぱっと見はやばい集団だけど、そもそも人通りがないから、それをとがめる人もいない。
「おらー、大人しく投降しろー、お前はもう包囲されている」
……まさかこんな言葉を生で聞く瞬間が訪れるとは。二度と聞きたくないけども。
見れば、交差点の角で上手いこと挟まれたようで、星置はじりじりと逃げ場を失っていた。
「……さっさと言わないとな、ちょっと行ってくる、島松、もしものことあったら頼んだ」
「あ、ああ!」
僕は、数人に取り囲まれているオレンジジュース馬鹿のもとに駆け寄り始めた。
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