第107話 後先考えない人間を味方に持ったときはその暴発に気をつけないといけない。

 僕は辺りをチラッと見渡す。監視がいるのであるならば、余計な情報を相手に渡す必要はない。普通に話して何かしていると思われてはたまったものではない。ラインを開いて手早くここにいる四人のグループを作成し、

『端的に言えば、僕と星置はある怪しい団体に監視されていて、僕を脅すために栗山さんが人質に取られた。今も僕は監視されているらしい』

 と、簡単に用件を伝える。

 そのメッセージを見て三人は目を丸くする。

 綾は何か口にしようとするけど、僕が見張られていることを思いだしたか慌てて口をつぐんでスマホをいじりだす。

『ひ、人質って……本当なんですか?』

『エイプリルフールでもこんな趣味の悪い嘘はつかないって。栗山さんのスマホから違う人が電話に出たんだから、嘘ってことはないと思う』

 古瀬さんや島松も状況を理解したか、目線をスマホに落としてはフリックやらスワイプやら指先を忙しなく動かし始める。

『ど、どうするの? 通報とかってする?』

『……最終的にはするつもりだけど。するなとは言われているけど、素直にそれを受け入れるほど僕も馬鹿じゃない。こんな事案、警察に任せる以外に何がある? まあ、ここではしない、ここでしたらバレるだろうし』

『向こうの要求は?』

『……これ以上団体のことを調べるな、とさ』

『それだけ?』

『それだけらしい。まあ、別に命をどうこうするつもりはないみたいだから、大人しくしていれば何も起こらない。……星置含めてね』

 星置にも今電話掛けたり「もう何もするな、それが向こうの要求だ」「栗山さんがさらわれた」「だからはやく返事をよこせ」とラインを送っているけど、一向に返事も来なければ既読もつかない。

 多分星置が逃げ回る限り向こうは「僕らには調べる意思がある」って判断をするだろうから、そうなると本格的に栗山さんが危ない。

 だからこそさっさと星置と連絡取ってこのことを知らせたいのだけど……。

 あいつほんとに間が悪いな……。

『だから僕が今すぐ栗山さんの居場所を探すってことはしない。……ただ、きっと三人は今日に関しては一人で歩かないほうがいいと思う。何があるかわからないから。なんだったら僕の家で一日避難してもらっても構わない』

『……よっくんはどうするんですか?』

『今連絡がつかない馬鹿を回収する。……あいつ、今大学の近くの野猿街道にいるって言っていたから、そこらへんを探して直接言う』

『そんな、一人で探すつもりなんですか?』

 綾はそう送るとともに怖い顔をして僕を見る。目線を再び落としては、

『一人になったら危険だって今私たちに言ったのにですか?』

 それに対して、僕は何も返さずにただただ首を横に振る。

『それだったら私も一緒に探します、一人なんてよっくんだって危ないです』

 ……僕は無言で綾の頭をコツンと叩く。「いたい」っていう肉声が思わず漏れてしまい、両手で頭を押さえては少し涙目になりつつ僕のことを見上げる。

『何するんですか、痛いです、暴力反対』

『こんなのに綾を巻き込むわけにはいきません、もうこの時点でも僕の胃がねじれそうなのに、これ以上危険な目にはあわせられない。大人しく島松たちと一緒に僕の家に帰るんだ』

『嫌です、よっくんを一人にはさせません』

『だめ』

『嫌』

『……あのー、いちゃつくんだったら別のグループでやってくれないかな……上川君の言い分もわかるけど、さすがに一人で星置君を探すのはそれも危ないよ』

『だったら俺も一緒に行こうか? 女子にこんな夜遅くに外動きまわさせるのもだし』

 ……ああもう、結局こうなる。

 けど、ここが落としどころかもしれない。綾や古瀬さんを連れていくわけには絶対に行かないけど、島松ならまだ……。

『……わかったよ、そうしよう。時間が勿体ないからタクシー拾って、二人を僕の家に送ってから僕と島松で星置を探す、それでいい?』

 三人は僕の提案に首を縦に振る。綾はやや不服そうだったけど。それを確認した僕は大通りを走る流しのタクシーを捕まえる。

 助手席に乗り込んで運転手さんにまず僕の家の住所を伝える。後部座席に三人も乗って、僕ら四人は飲み会会場から移動を開始した。

 時刻は、午後十時半。

 長い長い夜は、当分続きそうだ。



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