第100話 ……とうとう三桁突入。ここまで読んでくださって本当の本当にありがとうございます。今回意味深な引きはございません。

「お、お邪魔しまーす……」

「そういや上川の家来るの、春休み以来?」

「……その節は、大変お世話になりました……」

 三人分も靴を置くと手狭になる玄関前。正直これに綾も来るとなるといっぱいいっぱいだ。

「あー、とりあえず先部屋入っていいよ。僕ちょっと靴しまってから行くから」

 僕は自分の靴をひょいとつまみ上げ下駄箱に移す。これで少しはマシになる。

 するとタイミング良くインターホンが鳴る。そして流れるように鍵を差し込み、回転して、

「よっくんー、来ました、あれ? 今日は出迎え早いんですね。とうとう栗山さんのこと諦めましたか?」

「……綾、出会って一言目にそれはきつい……」

 片足上げて靴を脱いでいる綾。まさか僕がすぐここに来るとは思っていなかったのだろう、ちょっと慌てて前面を隠した。……スカートだもんね、うん、ごめんね玄関にいて。見てないから。

「ここ最近部活が忙しくてなかなか土曜日以外に顔出せなかったですし……。未だ進展のない見るにもどかしい二人の恋路を観察するのもなんか楽しくなってまして」

「毎週土曜日に必ず来るだけでも結構えらいと思うよ。えらいのベクトルの向きがどうかは知らないけど。あと、人の恋バナをネタにしないで……」

 何事もなかったように平然と会話を続ける綾のメンタルもなかなかだと思う。

「あれ? 今日も栗山さん来ているんですか? 靴……でも、これ男物」

「ああ、今ちょうど学部の友達が来ていて。あと、僕今日ゼミで飲み会があるから七時前になったら家出るから」

「そうなんですね、じゃあ私もそれに合わせて帰っちゃいます」

 そして綾は家のなかへと上がっていった。すぐに、「あっ、友達って……」「あ、お久しぶり、です……」という声が聞こえてきた。

 ……まあ、古瀬さんはやや人見知りな部分はあるけど、綾はそうでもないし、仲良くはなってくれるかと思う。栗山さんのときみたいに噛みつくこともないはず。そもそも隣に一応彼氏いるし。……島松にそういう気概があれば、の話だけど。

 僕は冷蔵庫にしまっている2リットルのペットボトルのお茶と紙コップを持ち出す。

「とりあえずこんなんでいい? あと適当にお菓子あるけど」

「……私が来るときはこんな歓迎してくれないのに、お友達が来ると出すんですね」

 少し冷めた目で僕を見てくる綾。

「……いや、綾はもう普段から来ているから、古瀬さんと島松はお客さんだし……」

「栗山さんは?」

「……ちょ、ちょっと、二人の前で何言い出しているんだよ……」

 綾の「栗山さん」という単語に反応した古瀬さんは、

「栗山さんって、一個上の女性の先輩ですよね? 上川君、やっぱり仲が良いんですね」

「へー、上川もそういう相手の女の人いたんだ」

 え、もしかして今一対三? 会話のターゲット僕?

「栗山さん、でもほぼ毎日来ては泊まっているから同居人みたいなものですよね、よっくん♪」

 ……よっくん♪ じゃないよ。

「え、上川君、あの先輩と同棲しているんですか……? じゃあ、いつか星置君が騒いだときの彼女さんって」

 ほらー、期待に満ち溢れた綺麗な顔をするー、古瀬さんが。彼女純粋だから嘘とか信じちゃうよ? なんなら島松でさえちょっと口笛ふきそうな顔しているし。

「どっ、同棲はしてない、してないし付き合ってもないから……!」

「よっくん、付き合っていないのは事実だとして、週の半分以上同じ部屋で寝ているのにその説明はないですよ」

「あっ、綾おまっ……」

 してやったりみたいな顔しやがって……。

「安心しろ上川。星置には黙っていてやるから」

「上川君もちゃんといい人いたんですね、よかった……」

 あのー、お二人。聞いてました? 付き合っていないんですよ? どうしてこう祝福モードに入っているんですか? おかしくない? え、やっぱり僕が悪いの? そういうことなの?

「よっくんの場合外堀から埋めていったほうがきっとわかりやすいです。追い込んだほうが行動せざるを得なくなりますからね」

「……お菓子出さないぞ君たち」

「大丈夫ですよ、よっくん。すでに肴はあります。よっくんのいじりネタという」

 ……女子高生が肴っていう単語を使う日が来るとは……。

 ああ、辛いよ……なんでこうもいじられないといけないんだ……。

 きしむ胃の痛みを感じながら、僕は台所にしまっているクッキーやパイの入った袋を取りに一旦部屋を出た。その隙にも、綾は僕のヘタレネタを使って場を繋げていた。

 ……怪我の功名というか。すっかり綾と二人は馴染んでいた。うう。

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