第99話 みんな、忘れてないよね。この物語にはちゃんと幼馴染キャラがいることを。
そして時間は金曜日に戻る。まあ栗山さんと話している間も勉強をしていたことも功を奏して、この日もテストは無事に終わった。星置からは「……もし俺が就活できないくらい単位落としたら、骨は拾ってくれよな」というものが。
嫌だよ。
そのラインに続けて「ちょっと色々やることできたから俺はもう大学にいない、駅で落ち合おう」と連絡も。
テストは三限で終わった。でも、その単位がお亡くなりになった星置幹事の飲み会は十九時に八王子駅集合。まだかなり時間に余裕はある。
別にあなたと一緒に待ち合わせ場所に行く義理はないんですけどね……。
とりあえず家に帰ってゴロゴロしているか。どうせ会場は八王子だし。
僕は3号館を出てモノレールの駅へと歩き出す。すると、
「あ、上川君、テスト終わったんですか?」
背中のほうからそんな僕を呼ぶ声がする。声の主のことを確認するため振り向くと、連れ立っている古瀬さんと島松がいた。
「うん、飲み会まで時間あるから家帰ろうかなって思って。二人は?」
「私たちは夏休みどうしようかなーって話をこれから学食でしようかなあってところで……」
「俺はずっとゲームがいいんだけど」
「……って、何も決めないとこうなるから……」
親子かよ。困り顔でそういう古瀬さん、母親かい。
「別に、ゲームするのはいいけど……たまにはどこかに出かけたいなとも思うんで……」
あ、もしかして僕目の前で惚気られている? そうかそうか。別に殺意は湧かないしなんならこの二人を作ったのは僕まであるから、もはや自業自得なんだけど。
胃に来るなあ……。あ、失恋関係なしに、オタク特有のリア充に対するあれ的な。
「春に島根行ったじゃん」
「あ、あれは島松君のゲームの大会に私が無理について行ったってだけだったし……」
なあ、星置、もしかして僕は栗山さんとの会話でお前にこんな光景を見せていたのか? しかもこれで付き合っていないってほざくオプション付きで?
……そりゃそんな反応になるよな。うん。
「ああうん、僕とりあえずもう家帰るね」
と、犬も食えない微笑ましい痴話喧嘩から逃げようとすると、
「あっ、どうせ二人はこのあと八王子で飲み会なんだろ? じゃあそれまで上川の家に遊んでようぜ?」
右手を開いて左手でそれを叩きつつ、島松は離れようとする僕の肩を掴んで提案する。
「……僕はいいけど、どうした急に」
「……頼むよ、テスト前からゲームが禁止されてただでさえ欲求不満だって言うのに、夏休み中まで時間を食われるとなるとかなり痛いんだよ。このまま二人で話していたら真面目に色々なところ連れて行かされそうで」
こいつは何がどうあってもゲーム最優先なのな。知っていたけど。
そして。
ゲームに対して欲求不満って……。一般的にその単語って別の意味に使うと思うんだけども。まあこいつの場合本当に性欲よりもゲーム欲のほうが優先順位かなり高そうだからなんとも言えないけど。
「はいはい、わかりました。じゃあそういうことだから、古瀬さんもそれでいい?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、飲み会の時間まで僕の家っていうことで……行こうか」
とまあ、急遽ではあるけど、僕は自宅に古瀬さんと島松を入れることにした。
……さすがに今日は栗山さんは来ないよな? まあ家の前で「来ちゃった」しててもいいんだけど。古瀬さんとも面識あるし一緒にいるゲーム馬鹿はもはや自分に関係ない女性なんて興味の欠片も示さないだろうし。第一島松の場合栗山さんみたいなタイプ苦手そう。それこそゲームする時間が削れるってことで。栗山さんは構ってちゃんだからな……かなり。
それとは裏腹に、また一通のラインが飛んできた。
「暇なんで今よっくんの家向かってます」
……そういえば高校も夏休み入っているのか。
綾と古瀬さんって会わせてもいいのかな……。栗山さんなら「いいよー」って全然おおらかに受け流しそうだけど、綾は……。いかんせん僕が倒れたときに説得している関係だから……。なんか関係がこじれていなければいいけど。
「あ、あの古瀬さん……家に僕の知り合いというか、幼馴染が来るって言っているんだけど……いい?」
「え? どうして……私だけに聞くの?」
「ああ……なんかもう一度会うのが気まずいとかだったら、幼馴染のほう断ろうかなって」
そう言うと彼女は「ああ」と納得したように頷いては、
「全然平気だよ、むしろ女の子増えたほうがいいかも」
とあっさり二つ返事で了承してくれた。島松には、聞くまでもないだろう。
と、僕ら三人は改札を入り、僕の自宅へと向かい始めた。
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