第83話 久々に甘々回。体の方向に顔を向ける膝枕ってなかなかに恥ずかしいよね。
京王線の途中駅で星置と解散し、僕と栗山さんはそのまま僕の家に帰った。……当たり前のように言っているけど、本当に同棲しているわけではない。
今日は日曜日なので、綾も来る日ではない。突っ込みを全部僕一人で賄わないといけない。もつかなあ……。
「あ、そうだ上川くん、耳かきしてあげるよっ」
もつかなあ……。早速なんかかましてきたよ? え、今耳かき棒どこから出しました?
「……確認ですが、どうしてです?」
「へ? いや、だって、この間上川くん、私に片耳だけ耳かきしたでしょ?」
ギクッ。ば、バレてた……?
「なんか片耳だけ聞こえがいいなあって思ったら、ゴミ箱にティッシュと綿棒が捨ててあったから」
こ、この人観察力無駄に高い……? というかゴミ箱の中身そんなにじろじろ見ないで欲しい……。普通に恥ずかしいから。
「だから、そのお礼っ。あと、今日わたしのこと無視したお返しも兼ねてかなー」
そこまで言い、栗山さんはポンポンと自分の膝を叩いてそこに寝るよう促している。
膝枕するのはいいけど、されるのはもっと恥ずかしい。
「べ、別に耳かきくらい自分でできますって」
「……『お友達』」
「あーもうわかりました、わかりましたからっ」
またもや「お友達」を人質に取られた僕は、諦めてニコニコと笑っている栗山さんの膝の上に頭を乗せて、寝転がった。
あ、なんか柔らかい。そして栗山ボイスが真上から聞こえてくるのに違和感を覚える。
「よーし、じゃあ始めるねー」
その一言と同時に、耳かきが僕の左耳に入る。心地よい感触が、耳の皮膚から伝ってくる。
「あれ、上川くん最近耳かきした? 結構溜まってるよ?」
「……誰かさんが毎日のように僕の家に来るんでやる暇がなかったんです」
「むぅ、まるでわたしのせいみたいな言いかただね」
すると栗山さんは急に耳かき棒を強く僕の耳のなかでこすり始めた。
「いっ、痛い痛い、何するんですか栗山さんっ」
「ふふふ、今、上川くんの耳を好き放題できることを忘れてもらっては困るなあ。いつでもわたしは鼓膜をプスリといけるんだからね」
……今すぐ脱出しようかな。と思うと、それを察したかのように耳かきを持っていない左手で僕の体を押さえ込んでくる。
「えへへー、逃がさないぞ?」
逃げられなかったぞ。引き続き、栗山さんはガリガリと僕の左耳を掻いていっては、ティッシュの上に取った耳垢をトントンと置いていく。
「……栗山さん、なんか手慣れてません?」
「うーん、高校生のとき、絵里によくやってあげたからねー、絵里って、すぐに耳痒い耳痒いって言うからさ、それで慣れちゃったんだと思うよ」
ほんと仲良かったんですね。そして、ちょっとだけホッとした僕がいることも事実。他の男にやって慣れているとかじゃなくて、よかった……。
「ちょっと奥行くねー」
さっきよりも感覚が敏感な部分に耳かき棒が侵入する。しかし、やはり手慣れている分上手なのか、あまり痛くない。むしろ気持ちいい。
「おっ、けっこう大きいのがあるー」
「……今更なんですけど、その、男の垢とか普通に見て平気なんですか? 今更ですけど」
「うーん、どうだろう。上川くんじゃなかったら、いやかもね」
「…………」
膝枕中で、むしろよかったかもしれない。顔直視できないし、顔見られたくない。
「よし、こっちの耳は綺麗になったよー。じゃあ、反対側向いて―」
言われるがまま、僕は顔の向きを逆にした。が、この体勢って……。
僕の目の前に栗山さんのお腹が来てるじゃん……。そして、チラッと上を見れば。
「よーし、今度は右耳行くよー」
大きくもなければ小さくもない栗山さんの栗山さんが視界に入る。
こっ、この体勢は目に毒だ……。僕は一瞬で目線を膝に埋めて為すがままに右耳を掃除されていた。
「あれ、右耳はやけに素直だねー、どうかした?」
気づいてないんだよなー、僕がこっそり耳かきしたことには気づけるのに、今僕がこうしている理由には気づいていないんだよなー。
つくづく、無自覚テロリストだなと、ここでも思ってしまう。
今の僕、きっと顔真っ赤だ。
こしょこしょと軽くこするように掻いていく栗山さんの耳かき棒さばきに、身を委ねて、僕はひたすら時間が経過するのを待っていた。
早く、早く終わってくれ……。
って。
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