第77話 音速のフラグゲッター、オレンジボーイ参上。

 フラグを回収するのに必要な時間ってどれくらいだろうか。一日だろうか、それとも一週間とかだろうか。まあ、別になんだっていいんだけど、とにかく言いたいことはただひとつ。

 今日の五限が終わった時間に、星置から「次の土曜日、お前の家行っていいか?」というラインが来た。

 つまりは、さっきの時間に言いかけていた相談、なのだろう。

 綾が来る時間までに帰ってくれたらそれでいいかなと思った僕は「夕方までならいいよ」と送り返す。すぐに既読がつき、「ありがとう」と吹き出しがついたスタンプが送られる。

 しかし、あの何かとアホな星置が何を相談したがるのだろうか。

 まさか女性問題を僕に投げかけてこないだろうな、と考えもするも、瞬間的に真面目な顔になった彼の様子を思い出しその可能性をすぐに排除する。

 何はともあれ話を聞かなければ何もできないので、僕は当たり前のように八王子駅までついて来た栗山さんに、

「今週の土曜は僕用事ができたので、金曜の夜は泊めてあげられません。駄々こねようが相手しないのでよろしくお願いします」

 と事務的に伝えておく。

「ええ? そんなあ……って思ったけど、そういえばわたしもゼミの用事があるから行けないんだった」

 ならなおさら都合がいい。

「……美深さんとか、幌延さんとは結構仲が良いんですか?」

 ついでに、僕はさっき絡んで来た先輩方について聞いてみる。

「うーん、まあ、ゼミの友達のなかでは結構関わるほうかなあ。でも、あの二人はゼミの中心だから、みんなと仲が良いよ?」

 さすがコミュ強二人……。僕にはとても真似できない……。

「……ゼミではくりちゃんって呼ばれているんですね、栗山さん……」

「えへへー、普通に過ごしていただけなのに、気づいたらそんなあだ名がついちゃってたよー」

 栗山さんの場合、普通でもかなり緩いからな。寧ろ嫌われていないようで安心したというか。

 その事実に対し僕がほっとため息をつくと、栗山さんは僕の脇をひじでちょいちょいとしてくる。

「あれえ? もしかして、やきもち焼いてる? 上川くん」

「別に……ゼミでも僕に接しているような雰囲気でいるのかなあって疑問に思っただけです。よかったですね、うまくいっていて」

「むぅ、そこは素直にそうですよって言ってくれたらポイント高かったのになあ」

 ……あ、失敗した。確かにそうです。そのほうがさりげなく好意伝えられましたね何やってんの僕。……ああ、いつもの癖で塩寄りの対応をしてしまった。

「で、今日も僕の家でご飯食べていくんですか? くりちゃん」

「なんか、上川くんにその呼びかたされるとバカにされているような気がするなあ。むむむー」

 ……むくれた顔も可愛い。どうやったらそこまで頬膨らむんですか。

「はいはい、すみません栗山さん、で、買い物はしていくんですか? 今冷蔵庫の中身ほとんどないんで」

「そうなのー? じゃあ、してかないとねっ」

「じゃあスーパー寄って帰りますか」

「さんせー」

 ……うん、わかるよ。言いたいことわかるよ。

 どこをどう斜めから見ても付き合っているカップルにしか見えないよね、これ。僕も気づいているからこれ以上心を攻撃しないでください。お願いします。


 そして迎えた土曜日。今週も今週でほぼ毎日栗山さんを家に泊めた。おかげで部屋は綺麗に片付いているし、まあ、男の友達を入れるのに部屋の掃除とかは気遣う必要もないし、化粧品とか、歯ブラシとか、栗山さんとの半同棲生活を指し示すアイテムは一通り隠しておいたから問題ない。……星置にそれ気づかれたらまじで爆弾を投げるレベルで騒ぎ出すと思うので、念には念を入れて。

 一応掃除機もかけて、歓迎体勢はばっちり。お昼ご飯も済ませた午後一時。星置が来ると言った時間通りに、少し緊張した面持ちでオレンジボーイは僕の家のドアの前に立っていた。

「……おっす、上川」

「とりあえず、入ってよ。ここ来るのいつぶり? 二年の夏とか、そんくらいぶりじゃない?」

「……そうだな」

 軽く世間話を挟もうとしたけど、それすら暗い彼の反応を見て、僕は少しばかり覚悟を固めた。


 どうやら、結構重たい内容かもしれない、と。

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