第76話 知らない集団の飲み会は、基本断る。だって居心地悪いもの。
授業中ずっと爆睡していた星置はさて置き、三限が終わり、僕らは一緒に大教室を出た。僕は学食に、星置は四限の代返に向かう。
今日は五限まであるから、空きコマの四限の間で一人一階の学食でポテトをつまみながら暇を潰す。この時間になると学生の数もまばらになり、サークルの集まりとか友達同士でトランプをして遊んでいたりとか、そういう光景が目立つ。
かくいう僕は一人なのでトランプをするわけにもいかないので、今度のゼミの発表に必要な論文を読んでいた。……一応大学生なので、勉強もしますよ?
A4のコピー用紙に印刷した論文に線を引いたりしつつ、理解を深めようとしていると、聞き覚えのある軽い口調の声が飛んできた。
「あっ、上川くーん」
声がしたほうに視線を向かわせると、にっこり笑顔を作った栗山さんと、見たことのない男子学生と女子学生一人ずつの姿が見えた。栗山さんは僕の姿を見つけるなりすぐに向かってきて、空いている僕の隣の席に座る。
「大学で会うの久し振りな気がするねー。えへへー、嬉しいなあ」
「……去年の金三以来かもですね」
遅れて一緒にいた男女二人もやって来て、僕と栗山さんの前の座席に座る。あ、ナチュラルに絡むのね、僕と……。
「くりちゃん、その人は?」
え? くりちゃん? 何それ、栗山さんのあだ名……?
「えへへー、この人はね──」
「初めまして。国文学専攻三年の上川善人です。栗山さんとはたまたま関わる機会があったので仲良くさせてもらっています」
……余計なこと言う前に僕が名乗ってしまおう。何言うかわかったもんじゃないから。
「君がくりちゃん使いの……ああ、自分はくりちゃんと同じゼミの
……既に余計なこと話していた。っていうかくりちゃん使いって何ですか……? というか栗山さんどこまで話しているんですかゼミで!
「確かに、ゆるキャラのくりちゃんの手綱握れるのはこれくらい真面目そうな子じゃないとねー。あ、私も同じゼミの
「は、はい……よろしくお願いします。あ、あの……有名って、どこまで……?」
怖いけど聞かないといけない気がした。
「うーんと、そうだねー。まあ、頻繁に上川君の家に泊まっていることは把握済みだし、あ、くりちゃんが唯一お酒を目の前で飲んだ相手でも有名だね」
「……そ、そうですか……ははは」
ほとんど全部話したも当然じゃないですか……。
僕は愛想笑いをしつつ隣に変わらずニコニコしている天然先輩に冷たい目線を向ける。
「はれっ? 上川くんどうしたのそんな怖い目して」
「……恥ずかしいんでそういう話を簡単にしないでくださいよ……」
「ははは、やっぱり仲が良さそうだね、二人は」
美深さんは面白そうに笑い声をあげる。どことなく所作が整っている彼は、笑い声さえも上品に聞こえてしまう。
「ごめんごめん、惚気話から伺う想像通りの関係だなって思ってつい。申し訳ない」
「ほんと仲良さそうだねー、くりちゃんって誰にでもこんな感じだけど、それをここまで冷静に突っ込みいれている人ってなかなかいないよー?」
「自分らはね、くりちゃんの起こす行動についていくのが精一杯だからさ。というかさ、もしかしてゼミの飲み会に上川君来てもらったら、くりちゃんもお酒飲むんじゃない?」
「あっ、名案かもそれ! ねね、上川君、前期の終わりに多摩センターで飲み会する予定なんだけど、よかったら来ない? くりちゃんの酔う姿見てみたくてー」
……コミュ強だこの二人、ぐいぐい来る……!
「話には相当弱いって聞いているんだけどさ、私たちだけだと飲んでくれなくて」
「あ、いやさすがに他のゼミの飲み会にお邪魔するのは……」
と、とりあえずやんわり断っておこう。絶対居場所なくなるから。栗山さんのお守りで終わるから。行かない、絶対行かない。
「それはそうだよね、まあ、無理強いするものでもないし、気が向いたらくりちゃんにでも言っておいてよ」
「は、はい……」
「よし、じゃあ自分らは別のところでも行きますか、仲良い二人の邪魔をしてもなんだしね。じゃあくりちゃん、また来週」
「じゃあねー」
……と、流れるように美深さんと幌延さんは僕らの側から離れていった。
「ねねっ、上川くんは五限あるの?」
「そうですけど」
「大教室? 中教室? 潜れるかなあ」
……この先輩、僕について来る気だ。潜るとは、履修していない授業をこっそり隠れて受けること。大人数になれば教授も全ての学生の顔なんて覚えてられないからね。
僕は外向きにため息をつきつつも、まあこれも栗山さんらしいか、と納得していた。
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