第67話 作者は合コンに行ったこともなければ、学食で女の子とご飯を食べたこともございません(涙)。

 二限のゼミが終わると、僕と古瀬さん、そしてチェリーズ同盟星置は、別の授業を取っていた他称裏切り者島松と合流して学食四階の和食処に向かった。芸人かな。

 僕の通う大学の学食は四階まであり、一階が安い早いうまくないが売りの食堂とファストフード、二階がビュッフェレストランとおしゃれなカフェ、三階が中華系のお店で四階に和食レストラン、うどん屋、そして一階よりは高いうまいのお店がある。

 そんな個性豊かな学食たちのなかから、今日はとんかつが食べたい、今日こそ合コンに勝つんだと息巻く星置がそう主張するので、先に言った選択になった。……(合コンなどの話を)持ち込ませずの原則はどこに行った星置。

 窓から多摩の山々の稜線が覗くこのお店は、大学の学食のなかでもトップクラスに景色がいいところ。それに出てくる料理もおいしいので、学生に限らず、近所のかどうかは知らないけどおじちゃんおばちゃんが集まってご飯を食べている場面もチラホラ。

「いただきまーす」

 窓側に島松と古瀬さん。通路側に星置と僕が座り、四人掛けのテーブル席は埋まった。星置は隣に座った島松のことを恨めしげに見つめながら、注文したとんかつ定食にありつき始める。

「……それで、今日の合コンはどことなんだ? チェリーズ同盟」

 僕は生姜焼き定食の付け合わせのサラダを箸でつかみつつ、チェリーズ同盟に尋ねる。

「……青学の英文科の女子と」

「ぶっ!」

「うわっ、おい上川、きたねーぞ」

 予想外の答えが出てきて僕はタイミング悪くすすっていた味噌汁でむせてしまった。「だ、大丈夫?」と隣に座る古瀬さんにポケットティッシュを差し出される。……ああ、その優しさが僕らに足りない部分だよ。きっと。あと、そのエビフライが乗ったランチメニュー、おいしそうだね。

「ありがと」

 鼻声になりつつそうお礼を言い、零してしまった味噌汁を拭く。……よかった、自分のトレーのなかに、しかもお皿の上には行ってない。

「いや、英文って……何をどうやったらそんなところと合コンセッティングできたんだ?」

「……学科の友達に土下座して授業の代返五回とノート提供で取引した」

「……おう、頑張れよ星置」

 なんか、そこまで必死になると空しい……。しかも上手くいっていないんだろ?

「合コンって、そんな楽しいの?」

 と、興味なさそうにしていた島松が回鍋肉丼をむしゃむしゃと食べつついきなり星置に聞いてくる。それを見た僕ら三人は「あのゲーム馬鹿がゲーム以外のことに関心を示した」と半分口を開けて顔を見合わせた。

「し、島松も、今日の合コン行く? 多分、お前くらいの顔面偏差値だったら一人くらいお持ち帰りできるぜ?」

 おい、彼女の前で堂々と浮気の誘いをするな、また僕が走り回ることになるだろ。

「島松君……?」

 ほらあ、古瀬さんちょっと涙目になっているし。

「いや、フレンドのゲーム仲間が、今度合コンに誘われて行かないといけなくなったって俺に泣きついてきたんだよ。『シマさん彼女いるんですよね? だったら合コンの過ごしかた教えてくださいよ』って。星置、なんか教えてよ」

 ……お前はそのままで生きていてくれ、島松。安心した。

 隣の古瀬さんもホッと一息ついたようだ。安心したようにおいしそうにエビフライを頬張っていた。

「……いや、俺、これまで三年間合コンという合コン参加してきたけど、二回目会えた女の子一人もいないぜ……?」

 星置の悲しい言葉に、僕ら三人は再び顔を見合わせる。違う三人だけど。

「やめろっ、可哀そうなものをみるような目で俺を見るなっ」

「……いや、実際可哀そうだし」

「ああ」

「さすがに……はい」

 星置は再び発狂し、残ったとんかつを食べる。そして、涙ながらに、

「なぜだ……どうして俺はモテないんだ……隣にいるゲーマー野郎よりも身だしなみに気を遣っているのに。目の前の八方美人なんかよりは誰かに尽くすぜ俺?」

 と語りだす。……ああ、多分お前は僕よりも一人の女の人に尽くすイメージが湧く。財布が空になるまで。

「……なんかサークルとかでいい出会いないのか? 別に合コンにこだわる必要もなくないか?」

 あまりにもだったので、僕は話を変えようとするも、意味はなかった。

「いや……俺のサークル、オレンジジュース研究会だぞ? オレンジジュースというオレンジジュースを飲んで評論するアホの集まりだぞ? そんな浮いた話あるわけねーだろ」

「……星置、お前がモテない理由、多分オレンジジュース研究会だよ」

「……あ」

 大学生活三年目、目の前のチェリーボーイは、ようやく真実に気づいたようだった。

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