第35.5話 「お友達」の隠し場所、今のままで大丈夫かな。もう一度考えてみましょう。

「……あの、よっくんの『お友達』って、どんなのが……あるんですか?」

 一緒の布団に入り込んでもふもふと私の頭を撫でてくる栗山さんに聞いてみる。

「そんなに知りたいー? もう、やっぱりおませちゃんだなあー」

 すると、彼女は布団から起き上がって、よっくんの部屋の押し入れを開ける。

「えっと、確か上川くんの『お友達』は……あ、このカラーボックスにたくさんあるよー」

 こ、この人……怖い。ニコニコと無邪気な笑みを浮かべながら自分の好きな人の……本の隠し場所を教えて笑うって……いや、悪意はないんだと思うけど。

 私も起き上がって、押し入れの近くに行く。

 それにしても、こんなところに隠していたんだ……よっくん。何回かこっそり机の引き出しのなかとか、アニメのDVDのケースのなかに中身だけ差し替えてないかとか、漫画本のなかに紛れ込んでないかとか、色々調べ回ったんだけどなあ……。

「よ、よく見つけましたね……栗山さん」

「えへへー、だから、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよー?」

「お姉ちゃんとは絶対呼ばないので安心してください」

 カラーボックスの中身をふたを開けて覗き込む私。そんな私にじゃれつこうとしてくる栗山さん。

 薄い本が五割……。こ、これは……あれかなあ、えっちなゲームっていうのでいいのかな……。タイトル自体は普通なんだけど、側面に18禁のシールが貼られている……。そういうのが三割、残りの二割はちょっと分厚い漫画っぽいもの。黄色いマークで成年コミックってあるからこれもえっちなものなんだろう。

「……なんか、こう……よっくんも普通に性欲はあるんだなあって……思えますね」

 率直な感想。他の男の人がどれくらいこういうのを持っているかは知らないから、なんとも言えないけど。

「まあ、男の子だからね、仕方ないと思うよー」

 そして、私は適当に薄い本をパラパラとめくってみる、けど。

「っっっっ……」

 ……わかってはいたけど、いや。

 なんか、こう、ね。可愛い女の子のキャラクターが色々やっているんだけど……。

 よ、よっくんは普段こういうのを見てって想像すると、顔が熱くなる。

「ほらー、やっぱり幼馴染ちゃんにはまだはやいんだよー。こういうのは、大人になってから、はーいかいしゅうかいしゅうー」

 私が顔を真っ赤にしてページから目を逸らしたのを見て、栗山さんは私から薄い本をつかみ取ってカラーボックスにしまう。

 これが高校生と大学生の差ってものなのだろうか。栗山さんは全然ものともせずによっくんの「お友達」を目にしている。

「く、栗山さんはなんとも思わないんですか? こういうの見ても」

「うーん、そうだねー、ものを見ることそのものはコンビニでバイトしているからもう慣れちゃった。恥ずかしがるとお客さんがどんどんつけこんでくるからねー」

 ……コンビニのバイトって大変そう……。噂では結構聞くけど、そっか、女性の店員だとそういうことをしてくる人もいるんだ……と、別な意味で社会勉強をしてしまう。

「でも、知っている男の子のものってなると、多少は恥ずかしくもなるよ? 嫌な人は嫌だろうしねー。でも、我慢されてひどいことしちゃうくらいならともわたしは思うけどね」

「……知ってはいましたけど栗山さんって、かなりゆるいというか、許容範囲が広いというか……」

 多分、私はこの人ほど寛容にはなれないんだろうなあって、なんとなく思った。

「えへへー、そうかなあ? でも仕方ないかなあって思っているだけで、別に嬉しいわけじゃないし、できればこういうのは買って欲しくないとは思ってるからねー?」

「そっ、それはそうですけどっ」

「もう、照れちゃう幼馴染ちゃんも可愛いなー」

 カラーボックスをもとの位置に片付け押し入れを閉めると、栗山さんは突然後ろにいた私に飛びついて布団にダイブしてきた。

「えっ、ちょっ」

「うー、幼馴染ちゃん成分を補充したくなってね、うりうりー」

 倒れ込んだ拍子に栗山さんは私の髪を撫でては、体をくすぐってくる。

「ひゃっ、や、やめてくださいって栗山さんっ、そ、そこだめっ」

 さっきまで年上らしさを感じていたのに、今はまるで言うことを聞かない妹をあやしているような気持ちになる。脇とか手のひらとか足の裏とか、首元とかこちょこちょしてきて……ねえ、ほんとうにこの人って大人?

「幼馴染ちゃんがわたしのことをお姉ちゃんと言うまで続けるぞー、えへへー」

「だっ、だからあなたは私のお姉ちゃんじゃないって何回言えばっ」

「ほらほらー、こちょこちょするぞー」

 ……なんとなく、よっくんがこの人を泊めてしまった経緯を理解できたような気がする、そんな夜になった。

 ちなみに、私は年上だか年下だか判断がつかない栗山さんのくすぐりを耐えきり、お姉ちゃんと呼ぶ前にくすぐりつかれた栗山さんが寝落ちするという結末を迎えた。

 ……マイペースというか、なんというか……。でも、なんとなく嫌ではないんだよなあ。

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